労働法 「リボン闘争の正当性」 | やぐち おさむのブログ

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 Y株式会社の労働組合は、春闘において賃上げを要求したが会社はこれを拒否した。そこでY労働組合は対抗措置としてリボン闘争を行った。会社側はリボンの取り外しを要求したが、労働組合側は拒否をした。Y株式会社は組合員全員を就労拒否としたうえで、賃金の支払い拒否を行った。さらに指導したAらを出勤停止1か月の懲戒処分にした。

このような問題について検討する。


 

 問題の所在は、①リボン闘争の正当性、②賃金支払い拒否の正当性、③懲戒処分の正当性である。

 リボン闘争、あるいは総称的に服装闘争は、組合員の要求を組合員に再認識させると同時に、組合員としての自覚を喚起させ、闘争意欲を高揚させることにより、一層団結権を強化し、間接的・心理的抑圧を使用者に加えて譲歩させ、組合の要求を実現しようとするものである。このようにリボン着用の行動は、労働組合の団結権に基づいて行われる組合活動であり、争議行為として扱われるべきではない。確かにリボン闘争は、争議中に行われることが多いから、争議行為の態様として位置付けられることが多いから、基本的には団結権に基づく組合活動として扱われるべきではない。(順天堂病院東京地判昭和40.11.10労民集16巻6号909頁)

 

そこでリボン闘争は、就業時間中の組合活動として正当性が問題となる。すなわち、①リボンを着用して正常な業務を遂行できるか(職実専念義務違反とならないか)、②安全衛生の保護の必要性に抵触しないか、あるいは顧客の不快感ないし嫌悪感を引き起こし業務を阻害しないか(服装規律違反にならないか)などの観点から、組合活動の正当性が問われる。


まず、①の職務専念義務違反についてである。通常就業時間中の組合活動が禁止されているのは労務提供義務に違反するからであり、組合活動が就業時間中に行われるが故に、かつそのことだけで違法となるものではない。そこでリボンの着用をみると、組合員がリボンを自己の衣服に着用することだけですべての行為が終了し、それ以上の労働義務の遂行に支障をきたすものではない。したがって、使用者が労働者の職務専念義務違反を主張するためには、リボン着用により、通常労働者の職務遂行中に要求される注意が散漫となり、労務の提供に支障をきたす等の具体的事情を証明しなければならない。よって具体的事情を証明しない場合には、就業規則中に就業時間の組合活動を禁止することは許されないと解すべきである。


次に、②の服装規律違反についてである。労働者がどのような服装をするかは、本来労働者の自由に属する事項である。しかし労働者ないし職場の安全・衛生の問題など、あるいは接客業など業務の特殊性などの一定の合理的理由がある場合には、制服の着用を義務付け、または制服に服装規律等に定めた以外のものの着用を禁止することは許容されるだろう。

 しかしリボン着用は企業における組合活動としての性格を有するが故に、業務に多少の影響が生じるとしても団結権が法認されている以上、使用者は一定の範囲内でこれを受忍する義務を負うものと解される。その範囲は、組合の団体活動としての必要性と使用者のもつ法益との比較衡量によって判断されるべきで、使用者の反発感情や、単に業務の正常な運営が阻害されるという抽象的危険から、リボン着用を違法視されるべきではない。また顧客の不快感等についても、正常な労働法感覚を踏まえ、労使関係における良識に照らして判断されるべきである。

勤務時間中でも組合員記章の着用のように、業務阻害や職場規律が乱されるといった具体的支障がないものなどを含めて一切の勤務時間中の組合活動が許されないというのはあまり賛成ではない。それらを正当な組合活動と認め、取り外しの強制や処分・手当減額などの措置を不当労働行為にあたるとした都労委命令は敬意を表する。(JR東海組合バッチ着用事件都労委平成元年2月7日労判540号85頁)


リボン闘争に関する判例は、ノース・ウェスト航空事件(東京高判昭和47.12.21労経連805号9頁)を節目に変化している。灘郵便局事件(神戸地判昭和42.4.6労民集18巻2号302頁)では、「リボン闘争も組合活動である以上、勤務時間外に行うのが原則であるが、労働基本権を行使する場合で、かつ、雇用契約上の義務の履行をしてなすべき身体的精神的活動と何ら矛盾なく両立し、業務に支障を及ぼす虞がなければ例外的に許される」とリボン闘争を正当と認めている。

しかし国鉄青函局事件(札幌高判昭和48. 5.29労民集24巻3号257頁)では、「勤務中は、法令上特別の定めのある場合のほか、精神的、肉体的活動力の全てを勤務の遂行にのみ集中しなければならない」と判断し、正当でないとしている。

大成観光事件(最小判昭和57.4.13民集36巻4号659頁)では、一般違法性と特別違法性にわけて判断した。一般違法性によると「労務に服しながらリボン闘争による組合活動に従事することは経済的公正を欠くし、誠実に労務に服すべき労働者の義務に違背する」とし、「使用者はそれに対抗しうる争議手段を持ち合わせていないから、正当な争議行為とはいえない」とした。そして特別違法性によると「業務の正当な運営を阻害する意味合いに深甚なものがあるといいうるから」とし、総合して違法であると判断した。

 

リボン着用と賃金支払い拒否については、主として、リボン着用による就労またはその中入れが債務の本旨に従ったものか否かが中心に論じられる。これについて学説と判例は立場を異にする。学説は、たとえリボン着用による就労が債務の本旨に従ったものではないとしても、そのことから当然に賃金債権が発生せず、あるいは使用者がその就労を拒否でき、その結果として賃金支払義務を負わないとうことにはならないと説明する。しかし判例は、沖縄全軍労事件(那覇地判昭和51・4.21労民集27巻2号228頁)で逆の立場をとった。


以上を背景に、リボン闘争の正当性は学説の立場をとり、団結権に基づいて行われる組合活動として許容されるべきものであると考える。したがって、組合員全員の就労拒否と賃金支払い拒否は容認できるものではなく、出勤停止の懲戒処分は違法であり、権利の濫用に該当する。


菅野和夫著 『労働法〔第三版〕』 弘文堂 1996年

高橋保著 『演習ノート 労働法〔改訂第3版〕』 法学書院 1998年

蓼沼 共著 『労働法の争点(新版)』 ジュリスト増刊 有斐閣 1990年

山口 共著 『労働判例百選〔第6版〕』 別冊ジュリスト 有斐閣 1995年