続 yasudayasu氏との長期停滞論争 / 蝙蝠氏とのクルーグマン解釈論争 | 批判的頭脳

批判的頭脳

建設的批判を標榜し、以って批判的建設と為す。
創造的破壊を希求し、而して破壊的創造を遂げる。

先日お伝えしたyasudayasu氏との論争、および蝙蝠氏との論争に進展があったのと、おおよその結末が与えられたと思われるので、改めて掲載したい。


yasudayasu氏と望月夜の長期停滞論争

(先日のエントリのおおまかなまとめ)
yasudayasu氏は、クルーグマンの均衡実質金利の長期沈降説拙ブログ記事参照に否定的で、もし長期沈降説が事実なら日銀がBEIを上げられるはずがないと主張した。
私は、日銀の低すぎる物価目標が(現行の金利で達成可能な)投資を抑制していたなら、目標変更で投資を上げられるということと、同時に、現行の金利で達成可能な投資以上に日銀が投資を増やすことができるわけではない(ゼロ金利のせいで利下げ余地がないため)ので、BEIが1.5%で足踏みして2%に行かない(2%目標を達成できない)のだと反論した

(後日追加分のまとめ)
yasudayasu氏は平田渉の自然金利推定論文を引用し、均衡実質金利0%になるには最低でも人口減少率2%が必要で、ここ20年でも減少率1.5%が関の山だから、人口減少が均衡実質金利を0か負にしているとは考えられないと主張した。
しかしながら、ここ20年ならば、人口減少率だけでなく、短期水準の影響を考慮する必要があると私は反論した。特に世界経済は、リーマンショックの爪痕から復帰した状態ではなく、円高が修正された後も、その輸出水準はまだリーマンショック時の水準まで回復していない海外需要は弱含みなのだ。
もしこのような総需要への負影響がある状態で、均衡実質金利のトレンドが下落していたら、短期の均衡実質金利がゼロ付近に行く蓋然性は高く、特にリーマンショックのような大きなショックがあったら、20年ほどその均衡実質金利がゼロ付近という状態が続くと市場に"懸念"されてもおかしくはない。これは日銀がどんなに莫大なBMを投下しても一向に2%目標に近づけないことを明確に説明するだろう。

また、消費税を増税し、法人税を減税するような逆進的な税制は所得格差を惹起すると思われる。所得格差は長期停滞のモデルにおいて、長期停滞を起こすあるいは悪化させる原因の一つにリストアップされている。これについて何度かyasudayasu氏に尋ねたが、これに関する返答は本当に一度もなかった

―――――――――――――――――――――――――
追記:2016/1/12

yasudayasu氏から追加返信があって、「もし所得分布が影響があるとして、それを定量的に示してもらわなければ認められない」という趣旨のコメントを頂いた。
もちろん、こちらも定量分析をしたいのはやまやまなのだが、あいにくこちらは門外漢で、自分で経済モデルを作って回すなんて芸当は逆立ちしてもできない。
かといって、この要素をちゃんと織り込んだ定量分析が今現在見当たるわけでもない。(流動性制約付き三世代OLGを日本にあてはめて考えるような論文も、まだないだろう)

疑わしきは罰せず原則で、定量分析なくば認めず、っていう態度も、ありといえばありかもしれないが、門外漢としては「それでいいのか?」と思ってしまう。

所得格差では全然説明できない、と明らかにしてくれるならまだしも。

――――――――――――――――――――――――――




補足として、平田渉の論文では、流動性制約が導入されてないし、その文言もない。使っている世代重複モデル(OLG)も、一般的な二世代モデルだ。
一方、不況研究の大家エガートソンが書いた長期停滞のモデルでは、流動性制約を受ける若い借り手世代を含んだ三世代OLGを使っている。(参考
この違いは、かなりインプリケーションに違いをもたらすのではないかと思われる。




―――――――――――――――――――
蝙蝠氏と望月夜の『流動性の罠&クルーグマン』解釈論争

(先日のエントリのおおまかなまとめ)
マネーの影響がない経済理論はあるのか」という蝙蝠氏の発言に対し、私が流動性の罠理論の存在を指摘した。
蝙蝠氏はクルーグマンのコラムを引っ張ってきて、「クルーグマンは金融緩和をしろといっている(から、マネー無影響を主張していない)」と反論したが、その当該コラムですら、"現在"の金融緩和は無効と明記されておりそれ故にクルーグマンは期待政策を提案したのだと指摘した。

蝙蝠氏は『それ故に期待政策を提案した』という私の補足を見逃したのか、「クルーグマンが期待政策を述べている部分を無視した! 恣意的だ!」という罵倒を私に浴びせた。(当然、事実に反する

私が期待政策の提案について補足していることを指摘すると、今度は「あなたは金融政策が無効だと言ったり有効だと言ったり一貫性がない」と痛罵された。(私の一貫した金融理解を知りたければ、この拙記事へ ほとんどクルーグマンのものを踏襲している)



(後日追加分のまとめ)
蝙蝠氏が件のクルーグマンの転向否定記事を引用して、クルーグマンが転向したと指摘した向きを批判するツイートをしていた。(当該記事については、「臆病の罠」解説 クルーグマン心変わり否定の真意でまとめているので参照されたし)
これに対して私は、確かに「より高いインフレ目標」の提唱では一貫しているが、It's Baaack発表のしばらく後から、財政政策を伴わなければならないと併せて主張するようになったことも指摘している。そういう意味では、かなり前の転向からの一貫性はあると言えよう。(クルーグマンがIt's Baaackからは確実に転向していることは明らかである。このことは、ブラッド・デロングも指摘している。)

ここで蝙蝠氏から「そんなことは承知している。金融のみでOKというリフレ派などいない」という(驚きの)リプライをもらったので、浜田宏一と野口旭の存在を指摘させてもらった。

野口旭は、彼の著書「世界は危機を克服する:ケインズ主義2.0」の中で、『財政刺激策は(乗数効果の低下により?)有効性が低く、財政刺激の追加は財政を悪化させて緊縮圧力を高めてしまうので、財政政策は赤字を許容するだけにとどめ、金融政策を主に行うべきだ』と主張している。

また、田中秀臣や高橋洋一は、マンデルフレミング効果を論拠として、財政刺激に一貫して否定的である。(こういった実務リフレ派、市井リフレ派の財政刺激否定論についてはアベノミクスの実績と消費増税及びリフレ派は増税を肯定し、財政出動を否定していることを認めない人々を参照されたし)

野口旭の議論を指摘したことに対する蝙蝠氏からの返答は今に至るまでない。

マンデルフレミング効果に関しては、蝙蝠氏から通り一辺倒のマンデルフレミング効果論を展開されたので、マンデル=フレミング・モデルの妥当性と流動性の罠に関する下手くそなお絵かきで解説したように、マンデルフレミングモデルに流動性の罠を導入すると、金融有効財政無効のマンデルフレミング効果は崩れ、金融無効財政有効のインプリケーションを導けることを指摘した。

すると、私のこの議論が珍説奇説の類と思われたようで、「学会に喧伝してくれば?」と揶揄われたので、現東大教授の福田慎一も同様の議論をしている(紹介記事:アカロフのケインジアン擁護 / クイギンのRBC批判 / 福田慎一の流動性の罠における財政政策論)ことを指摘した。

その結果、「あなたの時間泥棒のような屁理屈より福田先生の論文の方がわかりやすかった。」という罵りを受けることになった。理解が深まり、見解が修正されたなら、それはそれでいいのだが……。



人気ブログランキング参加してます。よろしければ是非

人気ブログランキングへ