『うた恋い。』 の式子内親王&藤原定家物語に、こんな歌がありました。
思ふこと 空しき夢の なか空に たゆともたゆな つらき玉のを
忍ぶことがつらくても 想うことが空しくても どうか…
消えてしまわないで [111頁]
式子の有名な絶唱「玉の緒よ」の返歌として、定家が詠うクライマックスの場面です。
そういわれてみると、まるで贈答歌のようです。
この歌は、定家の私家集「拾遺愚草」にある一首です。
定家をこよなく愛した歌人・塚本邦雄さんの『定家百首』 に採られています。
この歌は、定家が50歳を過ぎてから詠んだもので、1162年生まれの定家ですから、式子内親王が亡くなってから10年以上の時を経ていることになります。
しかし「絶えなば絶えね」と「絶ゆとも絶ゆな」は時を隔てて呼応してゐる。 [2006年講談社文庫版、114頁、原文旧字]
塚本さんの仰るとおりに感じます。
もしかしたら、老境の定家が、ありし日の式子とその絶唱を思い、詠んだのかも……
こんな歌を残されては、謡曲「定家」 が生まれるのも無理はない気もします。
玉のをよ たえなばたえね ながらへば 忍ぶることの よわりもぞする
式子
思ふこと 空しき夢の なか空に たゆともたゆな つらき玉のを
定家
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