うなぎ 受難の時代へ | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

日本人の胃袋は凄まじい。マグロや海老や蟹も世界を食べ尽くすと言われているが、うなぎに至っては世界のうなぎの7割近くを胃袋に入れている。欧州では、うなぎが極端に減少、毎年川に上るうなぎの量は最盛期の5%足らずとなり、禁漁、禁輸の動きが高まってきたが、その要因は日本にあると言う。1990年代末から欧州のシラスウナギが大量に中国に持ち込まれ、養殖、蒲焼にされ日本に輸出されるようになった。当時の中国の養殖量は日本の8倍にもなったと言う。その頃から高価だったうなぎがスーパーやコンビニの弁当で安く売られるようになった。うなぎの減少は地球規模で進み、米国でも政府が絶滅危惧種に指定することを検討し始めた。ダムや河川工事などの環境破壊も原因のひとつだが、乱獲が大きな要因を占めている。毎年大量の稚魚を世界規模で捕獲し続ければ当然のこととも言える。子供の頃、いつでも川で簡単に捕れたうなぎが今では希少品になりつつある。欧州のうなぎが禁漁になれば日本市場は大混乱、店頭からうなぎは消え、昔のようにうなぎ屋さんでしか食べられなくなるだろう。深海で産卵、世界各地の山の上まで上って行くうなぎの生態はいまだに未解明で、孵化に成功したとは言え商業ベースには程遠い。鯨、マグロに次いで世界の風当たりは強くなり、日本人としては肩身が狭くなる。このままの状態が続けば先は見えている。

小さい頃から食べ親しんだ天然うなぎが捕れなくなるのも寂しい。手軽なうなぎ屋さんのうなぎが、松阪牛並みに高騰するのも辛い話だ。味としては天然ものには適わないと思っている。脂を自在に調整出来るほど養殖技術は進んだが、天然なら5年かかるサイズを1年未満で太らせたうなぎとは肉質に差が出てしまう。さらに、今のような形でスーパーなどの店頭で売られるのも感心しない。加工、流通経路にも問題はあるが、正直まったく旨くない。うなぎのような味としか言いようがなく、何とももったいない話だ。このままでは消えてしまうのは歴然としているが、うなぎの為にはそのほうが良いのかも知れない。はるか彼方の深海から旅してやっと目的地へたどり着き、川から湖、池から山へと、そしてまた遠い故郷の深海へと産卵に旅立つうなぎは自然循環そのもの、神秘的な生命力のうなぎを敬意を持って迎えたい。