【書評】次世代マーケティングリサーチ 萩原雅之著 | ラテン系企画マンの知恵袋

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マーケティングや商品開発に携わっている方は、調査結果と実態の乖離に日々、悩まされていると思います。発売前のコンセプト調査での購入意向が高くても、発売後の実績が伴わない。メディアの効果測定で購入動機や接触経路を色々と聞くのだけれど、いまひとつ実感にそぐわないetc.

そんな方々に朗報です。こちらの「次世代マーケティングリサーチ」を読むと、今まで何が間違っていたのか?今後、どう変えなければいけないのかがすべてわかります。

伝統的な調査会社は、調査対象の匿名化やプロモーション活動との分離を定めた「マーケティング・リサーチ綱領」に縛られ、リサーチの厳格化の方向に突き進んだ結果、「生活者を理解し、ソリューションを提供する」という本来の目的から乖離し、調査の目的化が進行した。

一方、webテクノロジーの進化やソーシャルメディアの台頭等により、従来はリサーチにより集めなければ入手できなかった情報が、自動的に吐き出され、「集まる」ようになってきた。

こうした時代背景を受け、従来の調査会社の枠を超えたところから、調査会社と競合するサービスが提供され始めた。象徴的なのが、Cookpad。

調査→仮説構築→調査→仮説検証→打ち手(プロモーション)という、従来の順列のフローを飛び越え、レシピコンテストを実施しながら同時に生活者のインサイトを探るという、マーケティングリサーチと商品プロモーションを一体化したソリューションを提供することで『知ることと伝えることが分離していたマーケティングの構造を変えた』(森下執行役員)。

ドゥ・ハウスやイーライフが提供するクチコミ/Buzzサービスも、同様にリサーチ&プロモーション一体型のサービスである。

本書では、従来型の、無作為抽出で非連続の意識調査の限界を指摘し、連続性がありリアルタイムに収集可能で自然に集まる行動ベースのデータをいかに収集・活用していくかが次世代のマーケティングリサーチに課せられた課題であると説く。

具体的には、以下の切り口で提言を行っている。
■蓄積されたデータから仮説を立てて検証する
■ひとりの生活者をリアルに想像する
■同じ対象を継続的に追いかけて変化を知る
■ストリーミングや動画のようにデータを扱う
■事実で語らせる実験的な手法を取り入れる
■つながりをデータの解釈に活用する

次世代のリサーチャーには、調査票を作る技術や、調査票に基づいて生活者データを集める技術だけではなく、「世の中にどんなデータが存在するのか?」「どうすればそこから生活者のインサイトを導き出せるか?」等の技術が不可欠となる。

また、「意識データ」から「行動データ」へという大きな流れが進行しており、2種類の異なったクリエイティブを実際に提示し、結果を比較するABテストなどが積極的に活用されつつある。これらの行動データ活用には、「人間の判断は必ずしも合理的ではない」という行動経済学の考え方が根底にある。例えば、価格受容調査において、様々なシミュレーションや実験を行い、生活者の言動のウラをかく形で最適解を発見する手法(Simon Kucher & Partners)や小売店舗内での行動観察をベースにインサイトを発見する手法(Envirosell)等の実験的手法が実用化されつつある。

テクノロジーの進化に伴い、企業自らがコミュニティーを運営し、直接、生活者の意見を吸い上げる仕組みも実用化されつつある。MROC(Marketing Research Online Community)、エムロックと呼ばれる手法が代表選手だ。

企業が会員制のファンクラブ等を組織し、特定の関与が高いと思われる生活者のみを招待し、クローズドなオンライン・コミュニティ上で、商品開発やプロモーションに関する意見を聴取するというもの。無作為抽出の調査では、薄い反応しか返ってこないとか、リアル・グルインだと影響力の強い参加者に流されてバイアスがかかる等の従来調査の欠点を克服する画期的な手法だ。

また、時間と場所の制約を受けず、「思いついたときにいつでも書き込める」という特徴が、とくに仮説構築フェーズに威力を発揮する。実際、自分自身に置き換えてみても、会場(会議室)に集められて、「さあ、アイデアを出せ」と言われても、そう簡単に出るものではない。良いアイデアが突然降りてくるのは、散歩している時であったり、お風呂に入っている時であったりするものですよね?

私自身、3年ほど前に、初めてオンライン・グルインというエイベック研究所のサービスを体験した際の感動は今でも忘れません。これは、今後のリサーチのあり方を根本的に変えることになるなと。「冷蔵庫にあるものを書き出してください」とか、「実際にスーパーの売場に行って感想を教えてください」とか。参加者間の意見に相互触発されたり、調査実施者も自由に質問できたり。極めて自由度が高く、インサイトを引き出す潜在的な仕掛けに満ちている。Facebookで「グループ機能」を使ったことがある方は、実感として感じられると思います。

本書の中でも、KLM(オランダ航空)の事例として、MROCの導入により、「他のリサーチデータと付き合わせることで新しい解釈や仮説が生まれた」「スポットで何度も調査を実施するよりも大幅なコスト削減に繋がった」ことが紹介されている。

本書では、この他にも、様々な新しい潮流や調査手法が紹介されているので、ぜひ、ご一読頂きたいと思います。

最後に、本書に掲載されている、P&Gジャパンの桐山社長のコトバが秀逸と思いましたので、シェアさせて頂きます。

<消費者インサイトの定義>
1.データでは見えてこない真実
2.心の奥深くに存在する感情やニーズ
3.ビジネスを成長させる可能性を秘めているもの

<次世代リサーチャーに期待すること>
1.消費者インサイトのプロフェッショナルであること
2.ビジネスアイデアを提案できること
3.イノベーションを継続的に生み出し続けること

次世代マーケティングリサーチ/萩原 雅之

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