よい広告とは何か | ラテン系企画マンの知恵袋

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(なお、本ブログは個人の責任で書いており、所属企業とは無関係です)

本年、38冊目

良い広告とは何か/百瀬伸夫
¥1,890
Amazon.co.jp

電通元副社長の百瀬氏の本


著者は、NestleやP&Gといった外資系のクライアントをメインに担当し、

レオバーネットやY&Rといった海外エージェンシーとの提携

の責任者も勤めたという海外通


僕の中では、電通=ドメスティックだったので、

マルチナショナル企業のトップと対等に渡り合い、

海外ビジネスに関するこれだけの知見を持った方が

いらっしゃるということは新たな発見であり、

電通という会社の懐の深さを見た気がした


中身はNestleの話、特に、ゴールドブレンドの話が中心で、

非常に興味深く読んだ


というのも、ブ○ンディーという競合商品は、

担当者が変わるたび、前任否定でコミュニケーションをがらっと変え、

結局、一貫したブランド資産が残らないという過ちを犯してきた、

という事例を身近で知っているから


本書を読んで、ゴールドブレンドは、最初から「統一性」と「連続性」

にこだわってコミュニケーションが設計されたということを知り、

あれだけ一貫したコミュニケーションが継続できている理由が

良くわかった


クリエイティブに先立ち、Nestle-電通間で、徹底的に議論を

重ねた結果、


■プロミス:ゴールドブレンドは、新鮮な味と香りに関しては、

       レギュラーコーヒーと変わらない良さがある


■ターゲット:インスタントコーヒーにも、レギュラーコーヒー並みの

        品質を要求し、その分、余計に払っても良いと考える男女


ということを共有し、「レギュラーコーヒー並みの品質」を担保する

Reason to believe である「フリーズドライ製法」を訴求する方針で合意した


コーヒー豆をマイナス40度で凍らせて、これに瞬間的に熱を加えて

爆発させ、味や香りを封じ込め、コーヒー豆を顆粒状にする


という新しい製法を特殊撮影し、映像で表現するという画期的な

アイディアにチャレンジ


『この一瞬に蘇るあのうまさ、挽きたてのコーヒーのうまさ』

のコピーと共に


導入戦略としては、これで良い

ただ、長生きするブランドにする為の表現は?

という課題が残った


商品開発時に最も重視した味に対する「こだわり」

これを魅力的に伝え、かつ、ロングランで使える表現は?


ここで生まれたのが、「違いがわかる男(ヒト)」

「違いがわかる店」という看板を見て、ひらめいたのだそうだ


ところが、「違いがわかる」というのは、一部の人を見下す

差別用語ではないか?という議論が持ち上がった


Nestleの場合、日本法人の社長が承認しないと、

制作に入れない

誤解を与えず、正しくニュアンスを伝える為の英訳に苦心した


最終的な英訳は、

For the man who can appreciate the difference


Appreciate という単語は、単なる理解ではなく、

品質の良いものを正しく理解し、感謝するという

ニュアンスがある


この名訳で、無事、了承が得られたそうだ


僕自身、ブラジル勤務時に、ポルトガル語が持っている

コピーのニュアンスを損ねず、如何に上手に和訳するか?

で苦労してきたので、この話、ものすごく共感した


ゴールドブレンドの成功は、技術に裏づけられた商品力、

それを伝える表現力、一貫したコピー等々に支えられて

いる訳ですが、本書を読んで、


「広告主と広告代理店の長期にわたる信頼関係」

が実は、一番の成功要因だったのではないか?と思った


本書の巻末にNestle日本法人社長(当時)の社内向けメモ

が巻末に掲載されているが、


■広告はトップマターである


広告は極めて重要な経営課題であり、組織の下位に属する

管理職に一任するわけにはいかない

Nestleと広告代理店は、トップレベルでのコンタクトを定期的に

とる必要がある

とりわけ、コピー戦略とクリエイティブに関する決定については、

高いレイヤーで行う必要がある


■広告代理店の数は絞り込め


それにより、広告代理店内のシェアが高まり、質の高い

サービスが期待できる

また、長期的な関係を築くことで、広告代理店と

商品・ブランドに関する深い知識が共有することができ、

結果、高いパフォーマンスに繋がる


■報酬をケチるな


高い品質を獲得するには、広告代理店に正当な報酬を

払うべきである

そうすることで、より質の高いスタッフィング、高いモチベーション

を通じて、高いパフォーマンスが獲得できる


等々、広告代理店を、コミュニケーションを一緒に作り上げる

パートナーと位置づける明確な方針、カルチャーがある


僕の尊敬する先輩も、よく、「広告代理店は鏡である」

と言っている


ブリーフィングがしょぼいと、クリエイティブもしょぼくなる


自分のブリーフや意思決定がしょぼいのを棚に上げ、

プレゼン内容に納得がいかない際、

広告代理店のせいにしている2流マーケターは、

大いに反省せねばならない


シャープなブリーフをするだけでなく、

正式なブリーフの事前・事後にも、背景や思いを

丁寧に伝え、共有する場を設け、

代理店のスタッフに心の底からやる気になってもらう


この「一手間」を惜しまずきっちりやれるかどうか?

が結果を大きく左右するのだと、改めて思った


最後に、著者の以下のコトバで締めくくります


『広告会社というのは、広告主にとって最初のうちは

出入り業者の一つにすぎません

それが、いい仕事をして「パートナー」として評価される

ようになり、さらにいい仕事を積み上げて本音で

話し合えるようになる

でも、本当にいい仕事というのは真のパートナー、

つまり家族として遇される「ファミリー」にならなければ

できません』