象亮 第九話「蛇の道はコブラ」(前編)
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第一話の数ヶ月前のこと、珍しくひとりでゲーセンに遊びに来てた亮の横に、鬼太郎カットの少年とポニーテールの少女の一組のカップルが寄ってくる。
亮「あれ…興と美由紀ちゃんじゃないか?」
乗っていたのは中学の同級生だった若松興と下條美由紀であった。
興「おう、亮さん!」
美由紀「久しぶりですーw」
亮「なんだお前ら、まだ続いてたのか^^」
亮と綾もそうだが、興と美由紀は当時から公認カップルであった。
興「おかげさまでな」
美由紀「亮さんこそ、綾ちゃんとは続いてます?」
亮「おれと綾ちゃんは別に付き合ってるわけじゃねえんだけどなあ…まあ相変わらず毎日喧嘩してるよ^^;」
といいつつも、自分と綾の関係より進展してる興と美由紀を正直うらやましいと思っていた。
美由紀「亮さんはスケベ過ぎで、綾ちゃんはウブすぎですからねえ^^;」
興「だいたいいじめすぎなんだよ亮さんは、ガキじゃないんだから」
ここまでズバリ指摘されて、さすがの亮も苦笑いするしかなかった。
昔話に花が咲く、ではないがしばらく話しこんでいると一気にあたりは暗くなっていた。
興「あ、もうこんな時間か…美由紀の親うるさいからそろそろ帰らないと」
美由紀「今度は綾ちゃんと一緒の時に会いましょうねw」
亮「おう、またなー」
ブォーン
興と美由紀はバイクに二人乗りして去った。
亮「いいなあ…おれもリョウホッパー完成させたら綾ちゃん後ろに乗せて走りたいね」
自分が仮面ライダーになることはおろかこの後に起こる悲しい再会をこの時の亮はまだ知らない。
第九話「蛇の道はコブラ」
そして今日、亮は久しぶりにそのゲーセンに足を運んだ。
今回は綾も一緒である。
亮「そういえば前にここで興と美由紀ちゃんに会ったんだよな…」
綾「えー?その話初耳ー」
亮はその話をするのをすっかり忘れていた。
亮「あれから会ってないけどどうしてるんだろうな…」
綾「相変わらず仲良くやってるといいね」
そんなことを話していると、あの日のように鬼太郎カットの少年が近くを通った。
亮「興!」
興「…亮さん」
どことなく元気がないようだが、興であった。
亮「しばらくだったな」
興「あ、ああ…」
綾「久しぶりーw」
興「綾ちゃん…」
亮「どうした、元気がないみたいだが…」
興「ああ、ちょっとバイク事故で目をやっちまってな…」
興の左目にはものもらいが出来たときに着けるような眼帯がついていた。
バイクでトレーラーにはねられ、ヘルメットのゴーグルの破片が左目に刺さり失明したとのこと。
中央分離帯の草むらに落ちたのが幸いしたのか身体のほうはかすり傷で済んだようで一週間ほどで退院できたとのこと。
綾「うわ、痛そう…大丈夫?」
興「大丈夫じゃねえけど…自分で運転してたんだからしょうがないよ」
亮「…いつ事故ったんだ?」
興「前に亮さんに会った日の帰りに事故って、三日後に目覚めてからだからな…」
亮「あの日にか…待てよ、あの時美由紀ちゃんを送り届けてから帰るつってたよな…今日美由紀ちゃんはどうした?」
興「死んだよ…」
綾「え?」
興「事故ったのはそれこそ美由紀の家の近くの角だ、俺と違って美由紀はアスファルトに叩きつけられてほぼ即死だったそうだ」
亮「なんてこった…」
綾「全然知らなかった…;;」
興「退院してすぐ線香あげに行ったときに美由紀の親から聞いたんだが、葬儀は近親者だけでやったんだと。だから知らないのもしょうがない」
亮「そんなことがあったなら尚更、なんで教えてくれなかったんだ?知ってたらすぐ墓参りに行ったのに」
興「すまん、俺自身も最近までショックでなんも手につかなかったんだ…」
綾「そんな、謝らないで…辛いのは興君なんだから」
興「いや、過ぎたことをいつまでも悔やんでた俺が悪いんだ、現実を見ないといけなかったのに」
綾「確かに現実を見ることは大事だけど…」
興「まあ、悔やんでもしょうがないことに気づいたらようやくふっきれてきたからな…おっと、そろそろバスが来るからこれで」
綾「あ、うん、またね」
興「今度会う時には昔の美由紀がいたころの調子に戻しとくよ^^;」
綾「無理しないでね^^;」
亮は、うつむいたまま何も語らなかった。
興と別れた後、亮はすっかりへこんでいた。
亮「もしあの時おれが興と美由紀ちゃんに会ってなかったら…」
綾「会ってなかったとしても起こったかもしれないでしょ!」
亮「起こらなかったかもしれないだろ、もっと早く帰れてたかもしれないし…」
綾「もう、興君も言ってたじゃない!過ぎたことをいつまでも悔やんでもしょうがないんだって」
亮「わかってるけど、実際あんなことが起こったとあっちゃそんな気分になれないよ…」
綾「らしくないよ!いつもの元気はどうしたの?」
亮「興はおれよかメンタル強いな…おれがあいつの立場だったら一生立ち直れないよ」
綾(だめだ…やさぐるま入ってる)
亮は普段が普段だけにへこむと綾でもフォロー不能なほどにへたれる。
しかしながら、もしも亮の前から大好きな綾が永遠にいなくなったら…いつもの調子を見てれば間違いなく廃人になるだろう(笑)
一方、興もひとりになるとへこみにへこんでいた。
興「美由紀…」
過ぎたことを悔やんでもしょうがないとはいったものの、当然ながらほんとのところはふっきれていなかった。
夜な夜な美由紀の写真を見ては、感傷にふけっていた。
興「俺はこのまま美由紀のことが忘れられないんだろうか…それならいっそのこと…」
気がついたら、あの事故現場までとぼとぼと歩いてきていた。
そんな興に、赤毛の男が寄って来た。マンティスのイベントの帰りに突如赤いバッタに変化し行方不明となっていた淳であった。
淳「お悩みのようですな」
興「…あんたは?」
淳「俺は悩める者の味方、その方、想い人と不幸な別れ方をしてセンチメンタルな気分になっているのであろう?」
興「どうしてそれを…」
淳「悩める者の味方といったであろう…今から俺の言う通りにすれば想い人をこの世に召喚してしんぜよう」
興「…そんなことができるのか!」
淳「俺に不可能はない」
興「何でもする!美由紀を蘇らせてくれ!」
淳「では、墓に案内してくれ」
興の案内で、淳は美由紀の墓へ。
興「ここです」
淳「よし、今から召喚の儀式を始める。象蝮(しょうばいぱー)カモン!」
地面から象蝮が姿を現す。
興「うぉ!びっくりしたー!」
象蝮はまさしく蛇女という風貌をしていた。
淳「象蝮、墓に潜りこの娘と思われる遺骨を喰らえ」
淳は象蝮を美由紀の墓に潜らせると、地中からガシャガシャという音が聞こえてきた。
次に地面から這い出たときには、美由紀の姿となっていた。
美由紀「ただいまw」
興「おお!すげえ!本当に美由紀だ!」
淳「さて、こちらの報酬だが…」
興「ああ、何でも言ってくれ」
淳「そうか、それなら…」
淳はポケットから目玉おやじの人形のようなものを取り出し、興の眼帯をはがしてそこに埋め込む。
興「ぐっ!なんだこれは…」
興の姿は、コブラ人間へと変化した。
淳「今貴様に埋め込んだ目玉おやじはかつて象王蛇(しょうこぶら)として暴れていた者だ、貴様には象王蛇の操り人形となってもらう」
興「聞いてないぞ…」
淳「あの女を蘇らせたら何でもすると言ったのは貴様だろ?」
興「確かにそうだが…」
淳「貴様が俺に払う報酬は仮面ライダーこと緑髪の大男とお綾の末裔のお下げの女の始末だ!」
興「緑髪の大男とお下げの女…亮さんと綾ちゃんか?」
淳「そうだ」
興「それは出来ない…ましてや亮さんがライダーだと?そんなばかな…」
淳「出来なければ貴様の命を貰うぞ」
興「くっ…」
せまるぅ~しょっか~♪
そのとき、興の電話が鳴った、着うたで一発でわかるとおり亮からの着信である。
興「あ…亮さんだ」
淳「出ろ」
Pi!
興「亮さん、どうした?」
亮「ああ、さっきは後半へこんでろくに話しないですまなかったな…ところで、明日美由紀ちゃんの墓にお参りしようと思ってんだが…場所教えてくれないか?」
興「いや、今は…」
淳(そっちから来るってんなら好都合だろ、おびき寄せろや)
興「ゲーセンの通りはわかるな、あの奥の突きあたりを左に行ったところだ」
亮「おおそうか、サンクス」
Pi!
淳「これで仮面ライダーとお綾の末裔をいっぺんに始末と行けるな…まさか友達が敵とは思うまい…フハハハハ…」
<後編へ続く >