8時14分
姨捨から、傷心の私を拾ったのは、松本行き列車であった。
良い機会なので、初めての旅 の時から少し気になっていた駅を訪れてみることにした。
姨捨を発つと、善光寺平に別れを告げる直前に、スイッチバックらしい引き込み線が現れる。
これは桑ノ原信号場と同じく、スイッチバック形式の信号場(羽尾信号場)である。
しかし、平成20年3月のダイヤ改正以降、この信号場は使われていないらしい。
羽尾信号場を過ぎると、長いトンネルに入る。
そのトンネルを抜けたところに、目的の駅がある。
私はその駅で下車した。
「冠着駅」
相対式ホーム2面2線を有する駅。互いのホームは跨線橋で連絡される。
長いホームを有するこの駅は決して小さくはないが、下車したのは私一人。乗車した人はいなかった。
非常に閑静な山奥にこの駅は存在した。
松本方面のホームは駅舎と出入り口があるが、長野方面のホームには小さな待合室以外には何もなく、草原と雑木林に囲まれている。
駅から外に出てみると、民家は見られない。
これでは静かであるのも、乗客がいないのも頷ける。
駅から真っ直ぐ伸びている道を少し進んで振り返ると、
森の中にひっそり佇む木造の駅舎が非常に味わい深く浮かび上がっていた。
とても良い雰囲気だ。
秘境感も十分味わえるであろう。
そして驚いたことに、こんな駅にも駅員がいたのである。
駅員はJRの正社員ではなく、委託社員のようだ。
ホームで佇んでいると、383系の特急「しなの」が、静寂を劈くような猛スピードで名古屋に向かっていった。
ホームには、朝の日光が惜しげもなく、目いっぱい眩しく降り注ぐ。
今更ながら、昨日の夜、姨捨から最終列車でこの駅に移動して、ここで駅寝するのも良かったなと思った。
また一つ、思い出に残る駅に訪れることができて、気持ちも幾分か晴れた。
3分程の遅れを伴って、長野行きの列車が到着した。
私はその列車に乗り、帰宅の途につく。
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