第6旅第2章: | もこ太郎の平成阿房列車

もこ太郎の平成阿房列車

No Train,No Life!
生粋の「乗り鉄」がブログを書くとこうなる!!
私が行った鉄道の旅をレポートさせて頂いています!
私のブログをお読み頂いて、鉄道の旅に興味を持って頂けたら幸いです!

(今回の記事は、長い文章になっております。お時間に余裕のある時にお読み頂けたら幸いです)


この旅の物語を最初からお読み頂ける場合は、こちらをクリック




篠ノ井駅から、松本行きの列車に乗り込み、2駅行ったところに、その駅はある。



姨捨駅



初めての旅に訪れた時 は、真昼だった。
次は、必ず夜景を見に来たいと、ずっと願ってた…

今日は日もほぼ沈んでいる。
姨捨に向かう途中の車窓から、明かりが灯り始めた日本三大車窓、善光寺平の景色が徐々に広がっていく。


そして列車は、引き込み線に入り、スイッチバックで姨捨駅のホームに入線する。



ついに


帰ってきた…




言葉に表せないほどの、素晴らしい夜景が出迎えてくれた。

もこ太郎の平成阿房列車


吸い込まれるようにホームに足を踏み下ろした途端、涙が出てきそうになった…
感動もあるけど、それ以上に、私の心の中にある、煮詰まったものが全て溢れ出てくる…
初めて訪れた時と、気持ちが全く違う。
こんな筈じゃなかったんだけど…


しかし、何故だ?

ここに来ると、凄く心が洗われ、凄く素直な気持ちになれるような気がする。

ここで私の気持ちは偽れない。

それだけは、初めて訪れた時となんら変わりはない。




しばらくすると、遥か彼方で、花火があがった。
偶然にも、今日はどこかで花火大会が行われているようだ。
美しい夜景に、さらに彩が添えられる。
これ以上無いほどの美しい夜景た。



ホームには暫く、夜景を眺めに来たカップルや家族連れがいたが、午後10時を過ぎたあたりから人はほとんどいなくなった。

その頃からだ。

寒空の中、徐々に光が消えてゆく夜景を見ながら、とめどなく涙があふれてくる…









悔しい…


自分が情けない…







仕事は相変わらず、うだつが上がらない。

先週も先々週も、私に関わる人達全員に迷惑をかけ続けている…



「いい加減にしろよ!」

「みんな、こいつと同じミスをしたら、恥だと思え!」

「お前は普通ならばとっくに田舎の営業所に飛ばされてる身だ!

 でもどの職場にいってもお前は使えないから、しょうがないからここにいるだけだ!」


私は何を言われても何も言い返せず、いつも下を向いたままだ。


仕事ができなくなったのは、離婚のせいだ。
軽度の鬱だと診断されたし、今の自分には目標もないし…
そう自分に言い聞かせていたつもりだが、

「お前はそうやって、いつも何かのせいにして、逃げているんだ!」


逃げてる…?そうか…
人に言われて初めて気づくなんて、情けない…

しかも、よりによって相手が会社の人間かよ…


じゃあ俺の今までの旅も、実は単なる現実逃避に過ぎないうことか?
俺が残してきた数々の旅の思い出も写真も、何にも意味が無いのか…?




親父にも言われた。
離婚のこと、借金のこと、電話で延々と…
そして最後に、


「せっかく良い大学出て、良い会社に就職できて、そのざまは何だ!?
 どこまでお前は甘ったれなんだ!?もう二度と帰ってくるな!!」


そう言われた時、俺は親父に何も言えなかった。




そして、それよりも何よりも、娘のこと…

ちょうど2歳半を迎えた頃だ…
今どこで何をやっているのだろう…
元気にしているのだろうか…


娘との、ほんの2年の間だが、思い出が次々と溢れてくる。




君がこの世に生を受けた瞬間に、元気よく産声を上げてくれて、涙が溢れた事。



君の初めての産湯は、私が与えてあげた。

私の二つの手のひらに収まるほどの小さい君を、洗面所に連れて行き私が恐る恐るガーゼで体を拭いてあげる。

君は騒ぐこともなく、とてもいい子にしていてくれた。



1歳の誕生日。一升餅を背負わせると、転ばないように必死で立っていた君。



初めて君を私の実家に連れて帰った時、親族みんなに愛された事。

散歩中君が一人で駆け出したかと思うと、自分で「マテマテー」と言って走って逃げた事。



そして、最後に二人きりの時間を過ごしたこの年のゴールデンウイーク。

二人で牧場に行って、草原で追いかけっこして少し坂になっているところで二人同時に転んで、いっぱい笑ったこと。


遊園地のプレイコーナーで、飽きもせずに2時間以上もオモチャに戯れていた君。

一つの事につい夢中になってしまうところは、私と同じだ。




そんな最愛の君が、今私の手元に居ない。




もう言葉もはっきりしてくる時期だし、おむつ離れの時期でもある…
私の中の君は、まだおむつ離れができなく、私が休みの日には、おむつ替えをしてあげていたところ、
そして言葉もかたことでしか話せないところで、君は私の脳裏で止まっている。






私がもっとしっかりしていれば、君に迷惑をかけることもなかったんだ…




…会いたい…



娘のことが、頭から離れない…



しかし、その気持ちとは裏腹に、私は彼女に二度と会えない。


別れた元妻が、法的手続きを取って、私と娘を会わせないようにしてしまった、

という話を、向こうの実家から聞かされていた。



最愛の人との死に別れは、ある程度あきらめもつく。

しかし、相手が生きているのに会えない事。

これ以上に辛いことは無い。


胸が張り裂けそうな思いだ。
全身鞭打ちを受けるような気分だ。


しかし、娘は私とは比べ物にならないほど、もっともっと辛い思いをしている筈。

幼い娘にこんな辛い思いをさせるなんて、私は犯罪者同然だ…

私は父親失格だ。




…娘よ…

…ごめん…






自問自答、葛藤の時間が、溢れ出る涙とともに、いつまでも続いた。






既に最終列車の出る時間になった。
ホームから発車する長野行き最終列車に向かって、私は言葉にならない叫び声をあげる。





・・・・・・・・・・!!!!!





   姨捨の景色よ


   夜空よ


   駅よ


   線路よ


   列車よ



   俺を取り巻くすべてよ



   教えてくれ

   どうすれば俺は強くなれる?
   どうすれば俺は甘ったれでなくなる?
   どうすれば俺は逃げなくなる?

   どうすれば俺はもっと「大人」になれる…?





そんなことをずっと考えながら、待合室のベンチに体を横たえる。
いつの間にか眠りについてしまった…











































2011年10月10日

夜が明けたとほぼ同じくして、目が覚めた。午前5時半。


もこ太郎の平成阿房列車


駅寝でここまで気持ちよく寝れたのは初めてだ。
昨日、そんなに泣き疲れていたのかな…?



確かに、あれだけ泣いたのは、最初の妻を病気で失ったとき以来かもしれない…

その時は、もうこんなに涙を流すことは今後無いだろうと思ったものだが…




景色を見ると、街の明かりが消え、朝日が昇り街を照らし始める。

朝靄が、絶景の眺望を邪魔するようだ。


もこ太郎の平成阿房列車


私は駅を離れ、少し周辺を散策してみることにした。


すがすがしい朝だ。

稲刈りの終わった「田毎の月」とも呼ばれている棚田が、一面黄色に色映える。


もこ太郎の平成阿房列車


今年の役目を終えた何体かの案山子が、うつろ気に立ち尽くしているように見えた。


もこ太郎の平成阿房列車


民家の庭で、大勢の猫と戯れる老婆の姿。


もこ太郎の平成阿房列車


駅の近くにある小さな公園のそばで立ち話をする住民。


もこ太郎の平成阿房列車

途中で神社を見つけた。

進んで参拝など今までしたこともなかった私が、この日ばかりは参拝しようという気になった。



いつものせわしく時間だけがさっさと過ぎ去る朝はここには無い。

現実とかけ離れた朝がここにはあった。



ふと駅の方に目をやると、始発列車が走っていた。


もこ太郎の平成阿房列車


駅に戻り、列車がやってくる時間が近づく。


もこ太郎の平成阿房列車

私は決心した。
こんな素晴らしい景色に、こんなに弱い、情けない自分を見せられない。
それは恥であるとともに、この景色に対して失礼だ…


私がもっと強い大人になるまで、私は姨捨には戻らない。


大人になる方法は、まだ何にも分かっていない。

けど、次に来るときは、きっと強く、もっと大人になってくる。


それまでは戻ってこない。でも必ず、必ず戻ってくる、約束する。


姨捨駅との別れ際に、乗車駅証明証をもらうことにした。

何気なくもらったものだが、そうだ、これを私のお守りにしよう。
そして、これを見るたびに、駅で過ごした一夜のことを思い出さなければいけない。

決してあの夜の事を忘れてはいけない。

もこ太郎の平成阿房列車


そう心に誓って、姨捨駅を後にする…

しかし…
姨捨駅と別れる時、やはりまたほろっと来てしまった…


もこ太郎の平成阿房列車


この旅の物語の続きは、こちらをクリック


鉄道コム

にほんブログ村 鉄道ブログへ