11時53分、下仁田駅から下り列車が発車した。
この普通列車高崎行きは、デキ列車とは違い、結構なスピードに乗って進み、車窓の眺めも勢いよく流れてゆく。
下仁田から、高崎方面に8駅進んだところで下車する。
「上州富岡(じょうしゅうとみおか)駅」
島式ホームと単線ホーム、2面3線を有する駅である。
こういった複合型ホームの形態は、JRにはよく見られるが、ローカル私鉄では珍しい。
跨線橋は無く、駅舎と島式ホームとは構内踏切で繋がっている。
この駅は上信電鉄の主要駅となり、駅員が常駐している。
利用客の数は、高崎駅に次いで多いとの事。
富岡製糸場の最寄駅(駅から徒歩約10分)である。
駅舎は鉄筋の作りながら、歴史を感じるその造りはなかなか風情がある。
開業当時からの駅舎となると、風情の受け方も倍増する。
駅舎内の待合室も広い。下仁田駅より広い印象を受ける。
駅舎を出てみると、隣にはトイレが併設されている。
そのトイレをよく見てみると、上信電鉄のシンボル、デキの姿がかたどられている。
天井にはパンタグラフまで取り付けられている(パンタグラフは本物らしい)というこだわりよう。
しかし中身は、何の変哲もない普通のトイレであった。
駅スタンプも手に入れ、再び高崎行き上り列車に乗り、次の駅へ向かう。
上州富岡駅から、高崎方面に5駅進んだところで下車。
「吉井(よしい)駅」
島式ホーム1面2線を有するが、かつてはそれプラス単式ホームを有し、上州富岡と同じ複合型ホームの形式をとっていたらしい。
駅舎は木造のようで大きくは無いが、駅員が常駐している。
ここで駅スタンプを頂こうとすると、先客の若い男性が、一生懸命に駅スタンプを、いくつもスタンプ帳に取っていた。
まあ次の電車まで時間がある。
待合室のベンチに腰かけて、スタンプ台が空くまで待たせてもらうことにしよう。
10分…
彼がスタンプを使いすぎたおかげで、スタンプの調子が悪くなったらしい。
駅員が苦笑いしながら新しいスタンプを出してきた。
さらに10分…
おいおい、若いの、そろそろいいかげんにスタンプを譲ってくれないか?
その言葉通りに、若者に声を掛けようとすると、丁度彼の儀式が終了したらしく、やっとスタンプを手に入れることができた。
彼は筋金入りの「スタンプ鉄」のようだ。
お次は、下仁田行きの下り列車に乗って、3駅隣に移動する。
「上州福島(じょうしゅうふくしま)駅」
こちらも島式ホーム1面2線を有する駅。
駅舎は小さくとも、大変風情のある木造だ。こちらでも駅員が常駐している。
駅スタンプを手に入れ、これにて上信電鉄のスタンプは全て揃った。
後は高崎駅に戻り、次の路線のスタンプを取りに行く予定だ。
しかし実はこの3駅を回っている時、丁度昼飯時であった。
私は下仁田を出る時に、
これから訪問する駅、或いはその周りに、売店の一つくらいはあるだろう
そこでパンかお握りでも買って、簡単に昼食を済ませれば良い
そう考えていた。
それは甘い考えであった。
無い…
無い……
無い………
駅の売店はおろか、駅の周りにも、めぼしい売店なんてありゃしない…
都会では絶対に有り得ないことだ。
最寄駅の本庄も田舎のほうだが、売店もコンビニもあるぞ…
もっと遠くに足を延ばせば店はあるかもしれないが、次の電車には確実に乗り遅れてしまうだろう。
とうとう昼飯は諦める羽目になった。
田舎は嫌いではないが、この時に限っては、上信電鉄が田舎を走っていることに逆恨みした。
こんなことだとわかっていたら、下仁田駅前の売店で弁当でも買っておくべきだった…
途方に暮れて、駅の待合室のベンチでうなだれてた私に、さらに追い撃ちをかける出来事が起きてしまった。
高崎行きの列車が駅に到着し、そのまま発車していった…
それを私は、何故か待合室のベンチから見送っていた…
あろうことか私は、乗るべき列車を目の前にして、乗り損ねてしまったのだ!!!
こんな事ってあるか!?
事前に計画していたタイムテーブルに、誤りがあったのか!?
昼食が取れなかったことが、そんなにショックだったか!?
理由はどうあれ、これはあまりにも大きすぎる誤算である!!
少し冷静になって、まずは次の高崎行きの列車を、駅の時刻表から探してみる。
およそ50分後
ちょっと待て!!
そんなに待ってたら、今日のこれからのプランが全部滅茶苦茶だ!
さあどうする!?
有り金全てはたいてでも、タクシーを利用するしかないのか…?
しかしここから高崎駅まで、今の所持金でタクシーの運賃が払えるのか…?
空腹の絶頂にあって、よく頭が回らないようだ…
途方に暮れていた私の目の前で、ある客が窓口氏に質問していた。
「デキ列車の高崎行きはいつ頃来ますか?」
「あと10分くらいで来ます」
まさか…
時刻表に乗らない列車。
臨時デキ列車が帰ってくる!!!
私はそれを聞いて、すぐさまホームに駆け登る。
ホームで待っていると…
窓口氏の言った通り、下仁田方面から上りのデキ列車が戻ってきたのだ!!
こ、これは神の救いなのか…?
まさかデキ列車に、こんな形でまたお世話になろうとは…
真っ黒いデキの車体の後ろからは、間違いなく後光が射していた(ように思えた)。
写真を撮るのも忘れ、デキ列車に飛び乗った。
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