後閑駅から、上越線にて高崎駅まで戻ってきた。
ここでJRの改札を抜け、「シンフォニック・アヴェニュー」と呼ばれる中央コンコースを西口に向かう。
出口の両脇には、高崎市の名産でもある「ダルマ」の石像が待ち構えている。
その手前、進行方向左手のファーストフード店の脇に下り階段があり、その階段を下る。
100メートル程先には有人改札があり、さらに先には「0番線」の標識が見える。
0番線とは、何だか特別扱いを受けているような印象で面白い。
高崎駅0番線は、今回の旅で初乗車となる路線「上信電鉄」のホームとなる。
上信電鉄上信線は、ここ高崎駅と下仁田駅を結ぶ、全長33.7Kmのローカル私鉄路線。
100年以上の歴史を持つこの上信電鉄の正式社名は、「上信電鉄株式会社」。
社名の由来は、高崎から関東山地を超え、長野の佐久地方(現小海線の羽黒下駅)まで路線を延長する計画が発足し、そのタイミングで上州の「上」、信州の「信」を合わせた名前となった。
しかし、その計画は現在まで実現されず、社名の「信」が宙に浮いたまま今日に至っている。
沿線の途中にある富岡町には、日本史の教科書にも頻繁に取り上げられ、国の重要文化財にも指定されている「富岡製糸場」がある。
明治初期に操業を開始した富岡製糸場だが、そこの製品を運搬するために路線を引かれた事を考えると、上信線の歴史が古いのも頷ける。
上信線で集めるスタンプの数は、駅スタンプが4つと、イベント列車内で貰えるスタンプ1つ。
0番線ホームまで来て、お目当ての列車を待つ事にする。
ホームからJRの停留線を見ると、はるか向こうにC61 20がELに牽引される姿が見えた。
ホームには既に、派手に青くラッピングされた車両が発車を待っていた。
その車両をよく見ると、「銀河鉄道999」のキャラクターが描かれている。
この999号は、イベント列車としても使用されているが、今回の目当てはこの列車ではない。
(このラッピング車両は、2012年9月9日をもって運行を終了している)
999号が出発してから程なくして、次の列車がホームに入線してきた。
列車の下仁田寄りには、青い群馬DCのヘッドマークをつけ、真っ黒な凸型をした電気機関車「デキ」の姿があった。
この列車が、お目当てのイベント列車だ。
デキの姿かたちは、先日銚子電鉄で見た「デキ3」
とよく似ているが、こちらのデキのほうが、一回りも二回りも大きく、色も黒いことからこちらのほうが頼もしく見える。
上信電鉄のデキは、ドイツのシーメンスシュケルト社により、大正13年8月20日に製造されたという、歴史のある電気機関車である。
デキは平成6年までは貨物列車として運行されていたが、その年からイベント列車として運営変更。
平成19年に一時運行休止。検査・修繕が繰り返され、平成23年に復活したばかりである。
ホームは撮り鉄で溢れている。
そして車両の中は、既に乗り鉄たちがシートの8割がたを埋めていた。
私も、デキの撮影をほどほどにして車内に入り、ロングシートに腰かけて、発車を待つ。
車内では、車掌が乗客全員に、デキ列車記念乗車証を配布していた。
忘れないうちに、車両内に設置されたスタンプ台でスタンプをゲットする。
9時55分。
定刻通り、デキ列車は下仁田に向けて発車した。
列車は非常にゆったりとしたスピードで、上州の田園の中を走り続ける。
山名駅を過ぎたあたりから、利根川の支流の鏑川にくっついたり、離れたりを繰り返す。
そして馬庭駅を過ぎてからは、国道254号と並んで仲良く西を目指す。
途中の沿線には、予想通りたくさんの撮り鉄がいた。
中には、稲穂の生い茂った田んぼからいきなり姿を現してくる人もいた。
いったい、どこの国のゲリラだ?と、相当天然の入っている私でも思わず突っ込みたくなるような光景だ。
しかし、やはり私はああいう風に写真を撮っているよりかは、乗っていたほうが数倍楽しい。
乗車中の私の目から撮り鉄たちを見ると、理由もない優越感に浸ってしまえる。
それにしても、上信線の駅は木造駅舎が多く、思わず見とれてしまう。
いつかは、上信線の全駅降り潰しの旅を行ってみたい、という願望が芽生えた。
高崎から列車に揺られて1時間半が経とうとしていた。
下仁田の一つ手前の千平駅を過ぎると、列車は一気に山を駆け登り始める。
車窓も今までの長閑な風景から一変、林の中を突き進む。その林の向こう側は断崖になっているようである。
この走りにこの風景、なかなか爽快である。
上信線沿線で唯一のトンネルを抜けると、ようやく景色が開け、列車はスピードダウン。
終点の下仁田駅に到着した。
列車から下車すると、デキの運転席の扉が開いていたので、少し覗かせてもらった。
車内は余計な計器などは無く、非常に簡素なイメージだ。
駅は頭端式ホームで、乗降用の線路が2本、留置用の側線が数本あるが、その全てに車止めが並んで設置され、寸断されている。
まぎれもなくここは終着駅である。
私は、この線路の行き止まりを眺めるのが、何故か好きだ。
改札を抜け駅舎の外まで出てみると、連なる山脈をバックに、鄙びた木造の駅舎はやけに映えていた。
この駅は、関東の駅百選に選定されている。
上りの列車に乗り、残りのスタンプを手に入れに行こう。