
338P 20cm
軽井沢フィルを率いる美貌の指揮者・火渡樹理と難病を患う美貌の新進画家
緑川弦が出会ったとき、三代にわたり二家を縛る不思議な因縁が露になる。
第二次大戦中に起きた樹理の祖父の割腹自殺と弦の祖母の密室での縊死事件。
短歌と楽譜、そしてロシア文字に隠された美しくも哀しい暗号とは?
樹理と弦にのみ聴こえるヴァイオリンの旋律が二人を真実の高みへと導く。
現代のサナトリウム文学的恋愛音楽ミステリ。
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テーマ読み第3弾は『旋律』
旋律とは音楽の基本要素の一つ。メロディーですな。
若き作曲家がようやく日の目を見られ、好評を得た交響曲で
彼はタクトを振ることができなかった。
病によって未来を断たれた。
けれどその曲は細いバトンとなって受け継がれ奏でられていく。
そして同じ頃、彼の友人の採譜により、作曲者不明の
ロシア民謡「バラード」が世に出た。
それから100年ほどの時が過ぎ、ヴァイオリニストになるべく
母親からスパルタ教育を受けていた火渡樹理は、
母の夢の身代わりをやめ、指揮者への道を進む事を選択。
良いパトロンにも恵まれ、順調にその道を進み
軽井沢フィルを率いるまでになった。
彼女の祖父はヴァイオリニストで、作曲もしていたのだが
母親の阻止により祖父の曲に触れる事はなかった。
公演準備とサナトリウム訪問のため軽井沢を訪れた樹理は
偶然にも祖父の残した楽譜を目にすることになるのだが
その楽譜は譜面通りに演奏する事は不可能なものだった。
楽譜に書き込まれた演奏不可能な指定と、3つの漢字。
これは何を意味しているのか・・・
そして祖父についての疑問が頭をもたげる。
軍人でもない祖父は何故、割腹自殺をしたのだろう?
祖父は本当に人を殺したのだろうか?
樹理は軽井沢のサナトリウムで1枚の抽象画に感銘を受けた。
この絵のような色が出せたなら・・・
それは難病を患う新進画家の緑川弦との出会いでもあり
弦もまた樹理の弾くヴァイオリンに何かを感じていた。
弦の父もヴァイオリニストであり、弦もその道を進んだが
父と同じ難病の為にその夢を断念せざるを得なかった。
そして弦の祖母は短歌雑誌に遺稿を残していたのだが
残された原稿には奇妙な詞書き(ことばがき)があった。
樹理の祖父と弦の祖母の残した暗号・・・
そこに隠された真実とは・・・?
今回はプロローグから鳥肌立ちっぱなしでした。
久しぶりに感動的な表現に出会いました。
作曲者の思いを受け止め旋律として解き放つ時のイメージが
まるで小川洋子さんの「猫を抱いて像を泳ぐ」で描かれた
チェス盤の上で繰り広げられる宇宙のような表現で
そのイメージの広くて豊かな様が見えるようなのですよ。
久しぶりに活字を追いながら感動で鳥肌立ちました。
曲を聴いた事はあっても、それを表現するのって難しい。
なのに難しい言葉を使わずにイメージだけで伝える。
絵を見たときの感動と衝撃をイメージだけで伝える。
そして互いの表現力に焦がれ、欲する。
音があり色があり言葉がある。
あぁ~たまらんとですよぉ~(((p(>◇<)q)))
何度も何度も皮膚の表面がざわめくのですよ。
定められた枠に音符を配置することによって旋律が生まれる。
定められた枠に詞を配置することによって短歌が生まれる。
定められた枠に色を重ねる事によって絵画が生まれる。
旋律に言葉を乗せたら歌になり、その全てに物語がある。
自分の中で結びつけた事がなかった要素が繋がるって
気づいたときの感動ったらないわよぉ~
暗号については、楽譜の暗号は樹理のパトロンによって
短歌の暗号も緑川弦と同室の歌人であり『サナトリウムの名探偵』
もしくは『至上最強のベッドディテクティブ』見崎紳司によって
わりと最初の方でその一部が解き明かされる。
けれどミステリ部分に重きを置いていない。
ミステリのつもりで読むと、ミステリ読みには物足りないかも・・・
これは若き芸術家達の話であり、音と言葉と色の話であり
受け継がれるバトンの話であり、恋によってもたらされた
希望と絶望と恐怖の話でもあり、後悔と試練の話でもある。
物語は最初から哀しい空気をまとっている。
そして物語は交響曲のように編成されているとも思う。
タイトルの意味がわかった時に泣いた(/□≦、)
バトンが渡された時に泣いた(/□≦、)
「ごめん」と書かれた文字で泣いた(/□≦、)
全ての暗号が解かれた時に泣いた(/□≦、)
まさにサナトリウム文学的恋愛音楽ミステリですよ。
あぁ~いいものを読んだわぁ~(〃∇〃)
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