猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子 | mokkoの現実逃避ブログ

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猫を抱いて象と泳ぐ/小川 洋子
¥1,780 Amazon.co.jp
サイズ 359P 20cm

伝説のチェスプレーヤー、
リトル・アリョーヒンの密やかな奇跡。
触れ合うことも、語り合うことさえできないのに…
大切な人にそっと囁きかけたくなる物語です。
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あぁ~また良いものを読んでしまった。
さすが本屋大賞ノミネート作品!
文庫落ちするのを待たなくてよかった。

前に「薬指の標本」を読んだ時、
ストーリーの進め方と、浮かんでくる情景が
フランス映画のようだと思った。
どこか古めかしくて、消えてしまいそうな危機感を
どこかで感じながら読んでいた。

消えてしまいそうな感覚は本作でも同じですが
静かに浸透し、そして解き放たれるような物語です。
囚われる事を良しとし、受け入れ、限られた世界で生きる。
なのに浮かんでくるイメージは豊富で色鮮やかなのに
限りなく淡く透明で、映像はページを捲るように
交差しながら入れ替わる。

チェスなんて全くわからないのに、ゲームが始まると
綴られた言葉から溢れるイメージと美しい調べに
心地よく浸っていられる。

物語の主人公は一人の少年。
バス会社の敷地に置かれ、廃車となったバスの中で
巨体の男と出会い、彼をマスターとしてチェスを教わり
落ち着く為に盤の下に潜り、マスターの猫を抱き
頭上のチェス盤で駒が作り出す世界を旅することが日課になった。

マスターの勧めでチェスの会員になる為の試験を受けた時も
いつものようにチェス盤に潜り込んでは指すやり方が奇妙で
失格とはなるが、猫のポーンを抱きながら描く世界は
盤上の詩人という称号を贈られたロシアのグランドマスター
アレクサンドル・アリョーヒンさながらの美しさで
その場にいた会員たちがリトル・アリョーヒンだと
呟くほどであった。

マスターや猫のポーとの悲しい別れはあったが
縁あって自動チェス人形「リトル・アリョーヒン」として
実はからくり人形を盤の下から操作して、幾つものチェスの海を
泳ぎだす事になるのだが、彼の中にはいつもマスターや
猫のポー、象のインディラ、壁に挟まれたミイラが一緒にいて、
果てしない海を泳ぐ。

最強ではなく、最善の道を進む事を教えてくれたマスター。
チェスの海に、身を任せなさいと旅立たせてくれた老婆令嬢。
チェスにより思いを紡いだリトル・アリョーヒン
その生涯はなんとも美しく深い余韻を残して閉じられます。

もう一度言います。
あぁ~本当に良いものを読んだぁ~

アレクサンドル・アリョーヒン
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