彫刻家 青野正さん 第3回目 | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」


みなさん、おはようございます。


毎週木曜日、「みんなの学び場美術館」担当の
「彫刻工房くさか」日下育子です。


本日は素敵な作家をご紹介いたします。彫刻家の青野正さんです。


前回の高田洋一さんからのリレーでご登場頂きます。


高田洋一さん

第1回http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11263522127.html
    http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11239924858.html

第2回http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11241895457.html

第3回http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11249133042.html

第4回http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11249134184.html



第3回の今日は、鉄という素材についてと

青野さんの作品「スモーキーマウンテン」について制作の思いを

インタビュ―をもとにご紹介させて頂きます。


お楽しみ頂けましたら、とても嬉しいです。



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アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館



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日下
私は、青野さんが書かれた
「ヤマの礎」という文章も拝読しました。

『「ヤマの男たちのモニュメント」公募を知った時、自分が彫刻制作に使用してきた材料、

鉄について、ふと考えました。

アトリエの片隅に放って置かれたひとにぎりの鉄さえも、

つくり出すのにどれくらいの石炭を使ったのだろうか、と。(後略)』


この文章を読んで、私自身も鉄というものがどうやって出来てるのかを

改めて気づかされるように感じました。


ちょっとした鉄をつくりだすのにもかなりの量の石炭をつかうということなのでしょうか。



青野正さん
昔は鉄を溶かすためにも石炭をたくさん使っただろうし、
鉄を溶かす為に石炭を

コークスというものに変えていくんだけど、そういうものを混ぜて溶かすみたいなんですね。


鉄を作る時に、鉄を溶かす燃料としての石炭もあったと思うんだけど、

鉄をつくりだすために何かよくわからないけれども、触媒のようなものとしても

石炭を使うみたい。


僕もそんなに大した知識はないんだけど、その辺の話は前に聞いたことが

有るんだけどね。鉄と石炭は切っても切り離せないみたいです。

ある意味、鉄とか石炭というのは20世紀の基幹産業だったんですよね。

でも21世紀でも鉄はまだ使われていく素材だと思いますね。

石炭も未だに使ってるとは思うけど。



日下
なるほど~。
ちなみに鉄って、私はもっぱら石を彫っているんですが。



青野正さん
何を彫ってるの?



日下
御影石ばかり彫っているんですよ。



青野正さん
僕はね福島の郡山に浮金石(うきがねいし)と言うのがあって、

まあそれは御影ではないんでしょうけど、よく何トンというトラックで原石を

よく買いに行っていました。


だから石の面白さも分かるけど。石と鉄のね、自分にとって違うところは…
石って5トンぐらいのをアトリエに置いたら、こんなでかいものが

自分で彫れるのかっていうのがあるのね。


鉄は、最初制作する前は、アトリエに何もないんですよ。
プラスしていって結果大きなものが出来るっていう、全く逆ですね。
何か削ってマイナスしていくものとプラスしていくものの違いって言うか。


石は最初から素材の面白さというか素材の迫力があるけど、鉄は何もないの、

工業製品だから。



日下

そうですね。

私は作品として鉄を作ったことはなくて、重い石を乗せても大丈夫な作業台を

鉄で自分で溶接したという、そういうぐらいなもので。

私の恩師は鉄も石も両方やる方でしたが、私自身はなかなか上手に

出来なかったこともあって鉄は本当にちょっとしか触ったことが無いので、

青野正さんの作品を拝見して素晴らしいと思いました。



青野正さん
あのね、鉄ってマイナーなんです。
鉄の作品ってあんまり見るチャンスないと思うのね。


塗装したものはあるかもしれないけど、

日本で錆びた鉄の屋外作品なんてあまり見たことがないでしょ。



日下
やっぱり屋外の美術館にあるイメージですよね。美ヶ原とか。



青野正さん
街の中では見ないよね。
錆で汚れる感じっていわれてね、一般化してない。
それを僕はね、世の中に一生懸命普及しようとしているんだけど~。



日下
そうですか~。なるほど。
私が青野正さんの作品を拝見したり、
文章を読ませて頂いたりして、

鉄っていいものとだなというか、古代から文明に関わってきたものだったなということを

改めて思います。

 

そして石を彫っている時にも思うことがあるのですが鉄、鉄分というのは

人間の血液など体の中にも微量に入っているものだと思います。

 

そう思うと鉄というものは人の手が加わった素材とはいえ、単純に人工物とは

いえないような親しみを感じたりもします。


青野さんもそういうことを思いながら、鉄を使われることはありますでしょうか。



青野正さん
そう、鉄ってやっぱり身近な素材だと思う。


一番分かりやすいのは怪我した時に血の匂いって有るじゃないですか。

あれって鉄の匂いと似ているんだよね。
鉄の錆びた匂いっていうか、鉄の匂いと血の匂いって似ていて、

やっぱり鉄って血の中にも入っているんだって思ったことがありますよ。



日下
私は、鉄は彫刻の素材としては人工物と思っていましたが、
青野さんの作品を

拝見したことによって、工業製品とは一言では言えないような魅力があるのかなと

感じました。


鉄も石と同じように元は地球から出てきている物質ですし、同じように地球から出てくる

石炭という素材によって精錬されているものなのだな~と思うと、

またちょっと違った親しみを感じたりしました。



青野正さん
僕が作品を作る時はまず、鉄板という製品を買うんですよ。

製品と言うとやっぱり人工的に見えるんだけど、僕なんかは、作品を作って

錆の皮膜が出来て、それが自然の中に置かれて、次第に錆びて行って、

どんどん風化していくのを見ると、それはやはりかなり自然のものだと感じますよね。


普通の鉄製品にしても、最初は本当に工業製品って感じがするんだけど、

壊れて錆びて土に戻って行くのを見ると、やはり自然というか

地球にあったものというか、身近なものに感じるのね。


情が湧くというか、魅力を感じる。特に錆がポロポロになったりするとね。



日下
そしてまた、その特に青野正さんの作っていらっしゃる造形の魅力もあって

そういう風に感じられるのもあるのかなとも思いました。

美ヶ原美術館にある作品だったり、屋外にあるものだったり。

『Steel’s Ash』という作品群もそうですが、そういう鉄をどこか自然のものとして

感じさせてくれる魅力があるなと思いました。




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◆「スモーキーマウンテン」について


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館
「スモーキーマウンテン」



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BOSS ロング缶




日下
青野正さんの作品群の中で、
ちょっと異色だと思った作品なんですが、 

「スモーキーマウンテン」という作品も面白いと感じたのですが。


私は、作品「スモーキーマウンテン」は、とてもユニークで好きだな~と思いました。

タイトルの「スモーキー」から、珈琲の焙煎のことを表現しているのかと思いました。

また、珈琲缶のスティール缶そのものも、精錬するのに煙が出るという

意味合いなのかとも、勝手に想像していました。

はたまた、空き缶というもの、鉄製品の果てをイメージしているのかとも・・・。
何かたくさんのことをイメージさせる作品ですね。



青野正さん
はい、興味を持って頂けたのは嬉しいのですが、
説明させてもらうと、

「スモーキーマウンテン」というのは…フィリピンの方でごみの中に暮らしている人々が

いるんですよ。それはご存知ですか。



日下
はい、知っています。



青野正さん
あそこを「スモーキーマウンテン」といって、
その中に家も建てている人たちがいて、

何年前かにそういう人たちのドキュメンタリー映画を観るチャンスがあったんです。

(*四ノ宮浩 監督『BASURAバスーラ』 『神の子たち』)


そういう人たちがいることは僕も知っていたんだけど、映画を見ていたら、

本当に山みたいなところでごみから使えそうなものを取っていて、

それが時々崩れてくるんです。土砂崩れみたいに。


それで崩れてくるとそれが炭鉱の落盤じゃないけれども、人々が何十人もゴミの中に

埋まっちゃうんですよ。

で、崩れちゃうと多少は救助みたいなことするんだろうけど、そんなにはやらないで、

ゴミを拾っていた人たちが、ゴミの中に埋まったままになっている場合もあるんです。



日下
埋まったまま亡くなってしまうということですか。



青野正さん
そうですね。もう死んじゃって、それも救助もされず、
ゴミの中がお墓になるというか、

その中に埋もれちゃっているんです。



日下

え~っ、それは、怖いことですよね。



青野正さん
だから僕は、スモーキー・マウンテンで
子供たちがゴミを取って生活したりするんだけど、

そのゴミの中にいっぱい人が埋まっているというのをそのドキュメンタリー映画で

初めて知って、まあ、ビックリして。
それで、僕のあの作品というのは、一つの象徴じゃないけど…。


あの缶々ね。作品制作のきっかけとしては違うところもあったんです。
最近は、鉄でどこまで表現が出来るかっていうのに興味があって、

初めて缶々という工業製品を素材にしてみたんですよ。


工業製品という作られたものを自分の素材として使ったのは、

缶々が初めてだったんだけど。
で、空き缶もこだわって錆びてる
スチール缶だけを集めたんたんです。

それがアトリエ横のゴミ捨て場に10年か15年前に飲んで捨てたものが結構あったのね。


その時一番最初に 興味をもったのがBOSSのロング缶で、今はないみたいだけど、

そこにあって、面白いなと思って、まず最初に2ミリぐらいのドリルでどんどん穴を

開けたんですよ。
 

それからアトリエ近辺の古いスチール缶も拾い尽くしちゃって、

そのうち山の中のある道を排回してゴミ拾いみたいにして結構ゴミを集めたんです。 


ガラガラ缶々を持って歩いてたから、通りすがりに人に会っても

そういう仕事の人に結構見られた事もあったんだけど、続けていて。


それでも拾いきれなくなったから、僕全然コーヒー飲まなかったんだけど、

自分でも新しいコーヒー缶買って飲んだり、人が持って来てくれたりして、

穴開けて、ああいう三角形みたいな山のかたちにしてね。


一番てっぺんには十字架がのっかっているんですよ。それから、一番下に

黒い塊があるでしょ。これは人間の顔なんです。



日下
あっ!? そうなんですか。
頂いた写真でコーヒー豆なのかと・・・・。



青野正さん
コーヒー豆じゃなくて、あれはドクロというか、
さっき言ったゴミの中に人が

埋まっているということを表現しているんです。



日下
ああ~。なるほど~。凄く深いですね。



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

「鉄頭」




青野正さん
そこまで説明しないと、なかなか分からないよね。

ちなみに、あの作品は銀座の個展で発表したんです、割と美しいかなと。

全然違う話なんだけど、コーヒーって一個100円ぐらいじゃないですか。 


あれは本当は作品全体で見て欲しいんだけど、

ギャラリーでやるから缶一個一個にも全部に値段をつけますよね。


それで、あの缶は一個一万円って値段をつけてたんですよ。

100円で飲める缶コーヒーを飲めもしないのに、

100倍ぐらいの値段がついたら買う人がいるのかって興味があって。
BOSSのロング缶というのは今は無いものなので、

それだけ15,000円と値段をつけたら、何とそれだけ売れたんです。
話は全然違いますけど、そういう話もあるんです。



日下
こういう風に群像でも、一式じゃなくても、
パーツでもお売りになられるんですね。



青野正さん
もう忘れてしまいましたが全部でも差程大きな額じゃないんです。

でも、今のご時世、十万円を超える物はそうそう売れないので、

僕の場合は、みんな細かくバラ売りもしているんです。  

それで、その時は残念ながら、その缶だけ1個売れたの。


先日も西荻窪のギャラリーで個展をしていたんですけど、壁一面を作品として

展示しても1個1個売っていました。まぁ、そういう現実もあるわけです。


全部セットで売れたら格好良いですが、なかなかそんなに売れないですね。

僕の作品は売れるようなものでもないんですけどね。



日下
いえいえ、そんな風には思いません。



青野正さん
だから、「スモーキー・マウンテン」については、
僕はそういう風に思って

作っているんだけど、なかなかそこまで分からないだろうと思います。

まあ僕もここまで詳しく話すこともないからね。



日下
私もフィリピンの「スモーキー・マウンテン」は知っていましたが、

私はスモーキーの煙と言うところに着目してしまいました。

でも十字架がかかってるのは、何か意味がありそうだとは思っていました。
 

ですが、テーマとして鉄の寿命には関わっているのかと思いましたが、

本当に人命にかかわっていることを表現していらっしゃるとは、私も分かりませんでした。



青野正さん
写真が悪かったからね。
下にドクロが映っているのが見れれば分かったかも

しれないですが、でもあれをコーヒー豆と見ちゃったら、そう見るよね(笑)



日下
恐れ入ります。ですが、とても社会的なテーマを含んでいて深い作品ですね。
素材と表現の可能性を感じる作品で、素晴らしいと思います。

どうもありがとうございました。





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青野正さんには、前回登場の高田洋一さんからのリレーでご登場頂きました。


今回、初めて青野正さんへの制作への思いをお聴かせ頂きました。


青野正さんは、「時間の表れたものを作りたい」「かたちあるものはいつか無くなる」と

仰っています。


鉄という物質さえもいつかは錆びて風化し500年後というような長い時間の後には

土に返っていくということをテーマに制作していらっしゃいます。


青野さんは、文明の発展とともに鉄が線路として、橋として、戦車として、弾丸として

使われてきたということを、ご自身の作品制作の中で追体験するかのように

作品化していらっしゃいます。


時には大いなる自然に話しかけるような大作、またいわき市の炭鉱の歴史に

強く根付いた慰霊碑としてのモニュメント、鉄を素材に鉄の文明を表現した

訴求力のある作品群など鉄による表現の可能性をどこまでも追求して、

本当にどこまでも夢中で向き合っていらっしゃるというのがふさわしい、

素晴らしい作家さんだと感じました。


皆さんもぜひ青野正さんの作品をご覧になってみてはいかがでしょうか。



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◆青野正さんの展覧会の予定です。


  ◇展覧会名:芸術センター記念受賞作家展 青野正展

      期  間:2012年9月1日から9月20日まで
      会  場: 東京都足立区北千住   日本芸術センター
         URL⇒http://www.art-center.jp/
              http://www.art-center.jp/compe/choukokucompe04.pdf


  ◇展覧会名:  青野正 個展
      期  間:2012年9月15日から9月30日まで
      会  場: 東京 代々木上原  Gallery YORI

                東京都渋谷区上原3ー25ー2
                URL⇒http://g-yori.com/info



「ケムリ人」

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