インチキ療法対策②-1自費免疫療法の問題点 | がん治療の虚実

インチキ療法対策②-1自費免疫療法の問題点

前回の記事

インチキ療法対策①: 記事紹介“画期的ながん治療”の罠(2)のコメント欄にハマリョウさん、露草さんから熱心な質問をいただきました。
患者さん側と医療側の垣根が高くなっている状況を憂う身としては、大変参考になり、解説しがいがあります。


いっぺんに回答すると大変な量となってしまうので、分割して記事にします。
まずはハマリョウさんの質問です(多少発言の順序を整理しています)。

 

----------以下一部引用----------
□ハマリョウさんのコメント
私は、免疫治療効いていると思います。
本来、自分の免疫機能でがん細胞をやっつけるわけです。
がんが進行してくるとリンパ球が少なくなりリンパ球に含まれるキラーT細胞やNK細胞等が少なくなりなおさらがんが増殖します。
私は、樹状細胞療法でこれらの白血球が増えがんが抑えられていると思います。
〜〜中略〜〜
旨くいっていると思っている人は沢山います。
粒子線治療だって、自由診療です。
今の患者は良く勉強して、自分に合った治療を行います。
お金と相談して、どれだけ治療に出費できるかを考え、
その一方で家族との旅行や残る人のためどうするかを考えています。
贅沢に使おうが治療に使おうが患者の勝手です。
私は、免疫治療が近い将来、抗がん剤と並ぶ治療法になると思います。

----------引用ここまで----------

 

当方の質問
①抗がん剤もがん種ごとに効く薬と効かない薬がありますが、貴殿が有効だと言われる免疫療法とはコメントに示された治療法だけを言われているのでしょうか?あるいは免疫的機序で説明されている広義の免疫療法全体を指しているのでしょうか?


□ハマリョウさんの回答
----それは分かりません。私は、ペプチド感作樹状細胞療法を行い、すい臓がん再々発から14ヶ月未治療で昨年9月マーカ上昇のため抗がん剤の併用をはじめました。通常ではすい臓がん再発は3ヶ月から1年持たない。ですから私には効いていると思います。効く人には効くと言うのが免疫治療です。何が良いかは、今後オーダーメイド治療で明らかになっていくでしょう。

 

〇当方の再回答
最初に断っておきますが、個人的に受けた治療法が効いたかどうかを疑うつもりはありません。がんという病気はイメージは画一的ながら、その経過は本当に千差万別だからです。
自然退縮も古くから6〜10万人に1人の割合で起こるという報告があります。


-------以下参照-------
子宮頚癌化学放射線治療後再発がありながら、自然退縮し18年間生存している例の報告

Repeated episodes of spontaneous regression/progression of cervical adenocarcinoma after adjuvant chemoradiation therapy: a case report
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4453232/

 

自然退縮した横行結腸癌の1例
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/57/7/57\_1490/\_pdf
一部引用
Challisらの1900年から1987年までの癌の自然退縮例の集計では,741例中,腎臓癌は99例,悪性黒色腫92例,悪性リンパ腫68例など多くを認める

 

自然退縮した上行結腸癌の1例
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pde/88/1/88\_152/\_article/-char/ja/

 

自然退縮を示した胸腺癌の一例
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jacsurg/30/5/30\_550/\_pdf

 

自然縮小した肺小細胞癌の1例
http://ci.nii.ac.jp/els/110003127625.pdf?id=ART0003534482&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order\_no=&ppv\_type=&lang\_sw=&no=1492503722&cp=
これまでの悪性腫瘍の自然退縮は,神経芽細胞腫,腎細胞癌.悪性黒色腫,悪性リンパ腫,白血病などの報告が多く,原発性肺癌はきわめて希である.肺小細胞癌では,7例報告されておりそのうち3例に腫瘍随伴症候群を伴っていた

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当方もブログで紹介していますが、膵がん再発例の2人がゲムシタビン単独あるいはゲムシタビン+カベシタビン併用療法で完治していますから、標準治療で治る例もあるわけです。


したがってハマリョウさんの免疫療法が効いたと言うことに関しては、疑問を呈する必要はありません。


また他の治療でもうまくいっている人がいてもおかしくないでしょう。


しかし今から治療を受ける人は当然その成功確率を知りたがると思うのです。


皮肉な言い方をすると標準治療とはその失敗率がわかっているのですが、現時点で保険認可されていない非標準治療はそれ以上に失敗する確率が高いと言うことです(これは奏功率を示せていないことと同義と考えます)。


また免疫力という言葉は非常に曖昧で、単なる概念に過ぎません。


個別の医学用語ではないという意味です。


いわゆる従来の免疫療法は自分が医学生だった頃から理論上はさんざん注目、期待されていたにもかかわらず、結果を出せていません。


-------参考-------
くせもの(医学)用語解説 VII「免疫力」③より一部引用
http://ameblo.jp/miyazakigkkb/entry-10843678594.html
20年以上前、免疫力を使った「ミサイル療法」としてがんにくっつく免疫抗体に抗がん剤を乗せればがん細胞だけが破壊され副作用が少ないはずと研究が進められた。動物実験ではうまくいくも人間相手では全く効果なく研究は頓挫した。
しかしその後再度がん細胞増殖シグナル受容体をターゲットとした分子標的薬が飛躍的に発展して、今ではがん治療の重要な役割を担うようになってきた。
しかしこれは何百と言う治療薬が開発されるも人間を対象とした臨床試験でふるいをかけられて本当に効果があると証明された物だけがわずかに認可されたにすぎない。
つまり理論的、動物実験的に証明されるだけでは全く不十分で、膨大な労力と時間をかけて実際の人間相手に投与して初めて本当に効く物が見出されてきたのだ。

 

膵がんに対するがんワクチン有効性確認できず
http://ameblo.jp/miyazakigkkb/entry-11179073001.html
ペプチドワクチン単独療法ではなく、ゲムシタビンをベースにペプチドワクチンを上乗せしても効果は変わらなかったという結果でした。

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今の患者さんはよく勉強している人がいるのは事実ですが、ご自身の今後の経緯まで予想できる人は圧倒的に少数派です。


また膵がんは高齢者が非常に多いのですが、とても自分で学習はできないのが実情でしょう(これは当方がうけもったあるいは患者会に参加した膵がん患者さんを多数見ているとわかります)。

 

本当の意味でのオーダーメイド治療と言うのは、その患者さんの事をよく知っている主治医とうまく相談しながら、その人に最も適した治療法を選択することだと思います。

たとえがんの遺伝子変異や病理学的特徴がわかったとしても、全体の治療期間の一部に活用できるに過ぎないからです。

 

当方は治らないから諦めずに非標準治療にこだわりすぎて、悲惨な経過をたどった人を多く目撃しています(これは多くのがん治療医が経験していることです)。


ある程度の勝算が見込めるのなら、標準治療以外の治療も必要でしょう。

しかし上述したように、何万分の一の確率であるがんの自然退縮を待つ人が多くないのと同様、ご自身の人生をかけるのであれば、確率の高い標準治療を優先するほうが理にかなっています。


その上でかんばしくないのであれば、実害がない程度に非標準治療も考慮するという程度が無難かなと思いました。

 

これは免疫療法に限りませんが、もし本当に標準治療になり得る期待の新治療ならば、臨床試験としてやるにしても、いわば一種の人体実験ですから、その医療機関が実費を負担するのが筋と考えます。

 

何年も臨床試験と称して自費診療しているのは、有効データが出せず保険認可する気がないと思われてもしょうがないと考えます。


その自費診療についてですが、当方は治療による経済的副作用は身体的副作用と同等と考えています。


家族を巻き込むという意味ではもっと広範な副作用と言えるでしょう。


いまはオバマケアで多少違うかもしれませんが、高負担の民間医療保険が主体の米国では家族の1人が肺がんと診断されると5年以内に13家庭のうち1家庭が破産するとされています。


また明日以降連日回答記事を更新していきます。

次回「インチキ療法対策②-2 免疫療法の恐ろしい副作用」

 

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・第17回東京支部会(NPO法人宮崎がん共同勉強会)

がん患者さんやその家族、あるいはがんについて興味ある人は誰でもご参加いただけます。

当日は女性看護師も出席しますので、女性の方々もどうぞ。

ご自身あるいは当該がん患者さんの診療情報をお持ちください。

セカンドオピニオンほどではなくても、応用の利く助言ができると思います(ただし個別相談ではなく、出席者全員の前での助言となります)。

日時場所:2017年5月27日(土曜日)  13:00 ~ 17:00

東京都JR大崎駅近く 

13時~14時 自己紹介と近況報告

14時~16時 レクチャーと質疑応答(ライブ動画配信あり)

16時~17時 グループに分かれたおしゃべり会

この後懇親会あり