地下鉄(メトロ)に乗って//浅田次郎 | みゅうず・すたいる/ とにかく本が好き!
地下鉄(メトロ)に乗って (徳間文庫)/浅田 次郎

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 「地下鉄(メトロ)に乗って」

 浅田次郎、著。 1994年


 残暑厳しい・・・、残暑なのか?
どうも、近年、地球がおかしいような気がします。
温暖化のせいか?

 温暖化に、白熊は怒っているでしょう。
絶対、コメカミにアオスジを立てて怒り狂っている!

 人間の身勝手で、地球環境が破壊され、このまま滅亡と言う
事にでもなれば、他の生物こそ迷惑な話。
地球史上最大・最悪の迷惑自殺・・・だな。

 されど、怒れる白熊を尻目に、私は今日も本を読む。
・・・暑かろうと、寒かろうと、読む。
ああ、白熊さん御免なさいと、心に涙しつつ読む。

 ああ・・・ おいらも 罪びとの 一人さ・・・
切ない思いで・・・読む!


 さて、いまさらながらの「地下鉄に乗って」ですが、実は浅田
作品を読み始めたのは最近です。
どうも、「極道作家」などと安倍譲二氏の二番煎じのように煽ら
れ、どうせ「人情もの」みたいな感じで、何となく敬遠していま
した。

 しかし、評価の高い作品が多い。
昨年、思い切って「虚構と日常」のかおりさんに相談したら
「あやし うらめし あな かなし」と言う短編集が良いであろう
とセレクトして頂きました。

 さすが、才媛・かおり嬢です。
これが実に私好みの妖しくて切ないようなお話で、面白かった。
で、ぽつぽつと浅田次郎さんを読み始めました。

 「地下鉄に乗って」は映画化もされた作品ですが、当然、見て

いません。

 自分勝手で強欲な企業家の父親のせいで、兄が自殺したと言う
過去を持つ主人公の物語です。
主人公は、高校卒業後、家を捨て母親と共に暮らしている。

 父親に反発し、生涯許す気も和解する気も無い。
四十代になった彼が、実はその父親に似ている事にも、自分では
気がつかないまま・・・。

 ある日、何の気なしに乗った地下鉄を降りた時、彼は奇妙な
事態に陥る。

過去にタイムスリップしてしまったのだ。

 翌朝には、元の世界に帰るのだが、これ以降彼はタイムスリップ
を繰り返す事になる。
このあたりの説明は一切無い。

 SFならば許されない作品と言う事になるのだが、このあたりは
さすがに浅田次郎氏。違和感が無い。
このタイムスリップ自体が、彼の内面での旅であると言う側面が
あるので、軽薄に流れ無い。

 説明不要の強い物語と言う事も出来る。
上手いと言ってしまっても良い。

 彼と不倫の関係にあるみち子もまた、何故か同じようにタイム

スリップを体験し始める。
そして、彼らが彷徨う過去には、必ず彼の父親がいる。

 戦前・戦中・戦後の時代で出会う彼の父親は、彼の思いとは全く
別の魅力的な人間だった。
やがて、彼の気持ちは・・・。

 そして、一見、彼のタイムスリップとは無関係に思われたみち子
の過去も明らかになって行く。
彼女は無関係どころか、そこには衝撃的な事実が・・・。

 ストーリーをこうして追うと、チープでありきたりな物語のよう
だが、やはりこの作家、タダモノでは無い。(ケダモノでも無い!)
例えば、悲劇をそのまま提示しながら、それが単なる悲劇に終わら
ない。切なさと共に温かさを伝えるのだから・・・。


 浅田次郎に転がされよう。
切なさと温かさを同時に感じながら・・・。
面白い作品でした。