海の仙人 // 絲山秋子 | みゅうず・すたいる/ とにかく本が好き!
海の仙人 (新潮文庫)/絲山 秋子
¥380
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 「海の仙人」


 絲山秋子、著。 平成16年。



 いろんな方のブログで紹介されていて、

私も読んで見たくなりました。

文庫で160ページ弱の作品ですが、とても

感銘を受けました。


 

 宝くじに当たった河野は会社を辞めて、

碧い海が美しい敦賀に引っ越した。 何も

しないひっそりとした生活。 そこへ居候を

志願する、役立たずの神様・ファンタジーが

訪れて、奇妙な同居生活が始まる。 孤独の

殻にこもる河野には、二人の女性が思いを

寄せていた。 かりんはセックスレスの関係

を受け容れ、元同僚の片桐は片思いを続け

ている。 芥川賞作家が絶妙な語り口で

描く、哀しく美しい孤独の三重奏。

 (文庫版裏表紙より引用)



 会社を辞めた主人公は、海の近くの古い家を

買って、リビングに海砂を敷き詰めて暮らして

います。


 窓越しに日本海が見え、このリビングはまるで

砂浜のようです。

家に居ながら、砂浜で生活しているような暮らし。


 ほとんど、他人と交わらず、世捨て人のような

暮らしをしている彼を、片桐は「海の仙人」と

戯れに呼ぶ。


 ボーイッシュな片桐は、彼の元同僚で、会社時代

から彼に密かに想いを寄せています。

しかし、哀しいかな彼とは親友以上になれない。


 主人公は、かりんと恋人になるのだが、肉体関係

を結ぼうとはしない。

彼には、過去の暗いトラウマがあるのです。


 この過去にケリを着けるべく、彼は片桐とファンタジー

と共に、自動車で新潟まで旅をする。

このあたりは、ロードムービーのような展開で、

彼の過去の事や、片桐の想いが綴られます。


 彼の過去は、重い。

そして、かりんとの関係にもやがて悲劇の翳が・・・。

その後の、彼の運命も本当に・・・、重い。


 けれど、この作品は悲しく美しいだけではなく、

救いがあります。

重い運命だけど、悲惨ではありません。


 感動しました。

暗い過去など誰もが持っている。

私など、売るほど持っている!

そんな人には、沁みる作品です。


 で、ファンタジー=神様は?

そう、彼は何もしません。

無能の神。


 ファンタジーは、青春の尻尾であり、哀しみを

抱えた者を見守る者であり、孤独の友である。

見つめて、去って行くものなのです。


 暗い小説ではありません。

ただ風が吹くように、人はそこに生きている。

嬉しくとも、哀しくとも、人がそこに生きている。


 そんな物語です。

あまりそのことに拘らない私が、手元に置いて

いたいと思う作品でした。