三月は深き紅の淵を // 恩田陸 | みゅうず・すたいる/ とにかく本が好き!
三月は深き紅の淵を (講談社文庫)/恩田 陸
¥700
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 「三月は深き紅の淵を」


 恩田陸、著。 1997年。



 以前から気になっていた作品です。



 鮫島功一は趣味が読書という理由で、会社の

会長の別宅に二泊三日の招待を受けた。

彼を待ち受けていた好事家たちから聞かされた

のは、その屋敷内にあるはずだが、十年以上

探しても見つからない稀覯本「三月は深き紅の淵を」

の話。 たった一人に一晩だけかすことが許された

本をめぐる珠玉のミステリー。

 (文庫裏表紙より引用)



 本好きの間に伝わる、幻の作品がある。

その本は、他人に譲ってはいけない、生涯に一人

しかも一晩だけ貸すことが出来る。


 私たち本好きにはたまらない設定です。

この設定だけで読みたくなるのは、本好きの性。

うう、恩田陸さん、卑怯な手を!


 第一章 待っている人々

 第二章 出雲夜想曲

 第三章 虹と雲と鳥と

 第四章 回転木馬


 この作品は長編の体裁をとっていますが、短編集

ととらえるほうが良いのかもしれません。


各章は、それぞれに微妙に異なった内容の

「三月は深き紅の淵を」という本を巡る物語である

という共通点を持つ、全く別の短編です。


 さらに、各章に小泉八雲を思わせる人物が

姿を見せるのが共通点と言えますが・・・。

微妙にリンクする、四つの短編と言える内容になって

います。


 章ごとに、「本」に関する設定は違います。

登場人物も違うし、物語の内容も違う。

各章は、重なるようで重ならない。


 この奇妙な構造がこの作品の独自な雰囲気を

醸し出しています。

読者は、不安定なまま読み進めなければならない。


 故に、章を追うごとに奇妙さを増して行く物語が

読者を眩惑してゆきます。

第四章に至っては、「本」と現実が「いれこ構造」に

なっており、「本」が現実を浸蝕してゆきます。


 実際には、四つの短編でありながら、共有される

「場」の力。

これは、ちょっとした魔力かもしれませんね。


 まあ、それ以前に「本」自体の設定が本好きに

対して魔力を持っているのだから、こちらは下地

は十分なのですが・・・。


 確かに引き込まれる作品でした。

短編集としてとらえるならば、私は「第一章」と

「第二章」が好みです。


 これは両方とも、「本」を探すことがメインの

ストーリーだからでしょうか・・・。


 読んでも読んでも読みたいものが増えて行く・・・。

考えてみれば、私たちこそが「幻の本」を探し

続けているような人間なのだから・・・・・・。