☆POF(早発卵巣不全、早発閉経)の発生率 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、自然発生のPOF(早発卵巣不全、早発閉経、40歳未満で閉経)の発生率について国家単位の統計を示しています。

Hum Reprod 2015; 30: 1229(エストニア)
要約:2003~2013年にエストニアの国家データベースに登録された34,041名の女性を後方視的に調査しました。自然発生のPOFは310名(0.91%)、手術によるPOFは242名(0.71%)でした。両者のPOF群を比較したところ、自然発生のPOF群では、初潮年齢が有意に遅く(13.76歳)、出産したお子さんの数が有意に多く(2.02人)、アルコール消費が有意に少なく、ウエストが有意に細く(BMIは同等)なっていました。閉経後の疾患の出現時期が2群間で異なっており、手術によるPOF群は、骨粗鬆症、高血圧、結合組織疾患の罹患が有意に早い時期に訪れ、アレルギー疾患は有意に遅くなりました。POFの方の閉経時期を規定する因子は生理不順が最も強く、生理周期の長さ、初潮年齢、出産数、喫煙、アルコール摂取、ピル使用とは無関係でした。

解説:本論文は、自然発生のPOFの発生率を国家単位で調べた初めての報告です。自然発生のPOFは約1%の方にみられますが、妊孕性(妊娠できる力)が低いわけではないことを示しています。早い段階で閉経すると、女性ホルモン低下による疾患が増加しますが、これら閉経後の疾患の罹患パターンは、自然発生のPOFと手術によるPOFはで異なっており、手術によるPOFで早く罹患することが明らかになりました。

AMH検査が登場してそれほど年月が経っておりませんので、AMHがいくつだといつ閉経するといったデータがありません。おそらく、20代でAMHが1.0未満の方がPOFの予備軍になるのだと推測致します。しかし、20代でAMHが1.0未満の方も、早めにしっかり妊娠治療を行なえば、多くの方は妊娠出産していますので、本論文にあるように妊孕性が低いわけではないようです。

さて、、、
無精子症の確率はPOFの確率と同じ1%です。これは決して偶然ではないと思います。卵子や精子をつくる大元の細胞である始原生殖細胞(primordial germ cell:PGC)受精後3~5週に出現し、その後体細胞分裂で増殖し、精原細胞(精子を作る元の細胞)や卵原細胞(卵子を作る元の細胞)になります。始原生殖細胞は精巣や卵巣とは別の場所(首の後ろあたり)で作られ精巣や卵巣に移動して入り込むことが知られています。この移動がうまくいかないと無精子症やPOFになるのではないかと考えられています。移動がうまくいかない方が男性も女性も同じ確率であるのが自然です。もしそうだとすると、一つの疑問が出てきます。POFの方はほぼ全員閉経前は排卵もある(=卵子がある)のに対し、非閉塞性無精子症の方はmicro-TESEを行なっても精子が採れる確率は30%程度です。つまり70%の方には精子がないことになります。本当に精子を作っていないのでしょうか、あるいは作っている場所が探せないだけなのでしょうか、はたまたもっと若い時(たとえば10代)には作っていて、その後作らなくなってしまった(女性でいう閉経のような状態)のでしょうか。答えはまだありませんが、始原生殖細胞の研究は現在、ES細胞やiPS細胞で進められています。始原生殖細胞を精巣あるいは卵巣に入れて精子や卵子を作ることができたら、画期的な治療になります。このような観点から、無精子症の研究とPOFの研究は並行して進めていくのがよいのではないかと私は考えています。