ランダムスタート法 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

久々に「ランダムスタート法」の論文をご紹介致します。「ランダムスタート法」はこれまでの常識を覆す方法で、「生理3日目とは関係なくいつでも卵巣刺激が可能」というものです。ポイントは3点、
1 いつでも卵胞は発育させることができる
2 生理3日目以外からのスタートでは、卵胞発育に1~2日多く時間がかかる
3 卵胞発育に時間がかかっても卵子の質には影響しない

2013.6.17「☆卵巣刺激開始はいつがよい?」を参照してください)
本論文は、実際に「ランダムスタート法」を行った方のホルモン動態や卵胞の発育パターンを図示し、通常の生理3日目からスタートする場合と全く同じ成績であることを示しています。治療を急ぐ癌の方には勿論朗報ですが、そうでない治療を急ぐ方にも応用ができます。

Fertil Steril 2013; 100: 1673(米国)
要約:2010~2012年に癌の治療前に採卵を実施した方128名のうち、ランダムスタート法にて採卵を行った35名と生理3日目からスタートした93名の方を後方視的に比較しました。ランダムスタート群(35名)は通常群(93名)に比べ、1.6日の刺激日数増加と754単位のhMG使用量増加に有意差を認めましたが、採卵数、成熟卵数、受精率には有意差を認めませんでした。また、黄体期開始群(22名)は卵胞期後半開始群(13名)に比べ、0.7日の刺激日数増加と502単位のhMG使用量増加に有意差を認めましたが、採卵数、成熟卵数、受精率には有意差を認めませんでした。フェマーラ使用群と非使用群の間には、E2濃度低下(約70%低下)以外の有意差を認めませんでした。

解説:卵胞は生理とは無関係に毎日少しずつ供給されていますが、たまたま生理周期に合ったものだけが体内のホルモンであるFSHとLHに反応して育って、成熟卵胞になり排卵する(他のものは淘汰される)のが自然の卵胞発育の仕組みです。しかし、卵胞は毎日少しずつ供給されているのですから、生理周期とは無関係にFSHとLHを用いればいつでも卵胞は成長させられるわけです。本論文の図をお見せできないのが残念ですが、通常と全く同じパターンの卵胞発育を示しています。つまり、全胚凍結を行う前提であれば、いつから刺激を開始しても全く問題ありません。

下記の記事も参考にしてください。
2013.4.22「ホルモン剤(ピル)の使い方でAMHが半減?」
2013.6.16「AMHは年齢とともに低下しません⁈」