2013.5.14「体外受精前周期のピル(OC)のメリット•デメリット その1」では、Cochrane Reviewの結果をご紹介しました。今回は、それまでの歴史的な経緯とその後をご紹介致します。
1990年代まで
Fertil Steril 1988; 50: 516
要約:前周期にピルを使用すると、刺激開始日のE2、FSH、LHが低下
Hum Reprod 1997; 12:2359
要約:前周期にピルを使用すると、不正出血低下、キャンセル率低下、受精率増加、妊娠継続率増加、重症OHSS減少
Fertil Steril 1998; 70: 1063
要約:前周期にピルを使用すると、卵巣嚢腫形成低下、刺激日数減少、刺激hMG数減少
以上のように、前周期にピルを用いると、全ての状況が改善すると考えられていました。しかし、これらはいずれもLong法でのことですし、極めて初期の体外受精の方法でのデータでした。また、前周期にピルを用いるとLHが低下しやすいので、LHを補う刺激(hMG製剤あるいはFSH製剤+hCG 10~20単位)が望ましいとされていました。2000年以降はAntagonist法が広まり、2013.5.14「体外受精前周期のピル(OC)のメリット•デメリット その1」で示したCochrane Review(2010年)の結果「Long法では前周期にピルを用いた場合有効ですが、Antagnist法では逆効果」が導かれました。その後に発表された論文には、次のものがあります。
Reprod Biol Endocrinol 2013; 11: 28(米国)
要約:ドナー卵子による体外受精の刺激において、前周期のピル使用群25名*(男性ホルモン親和性 OC-Ag群13名、男性ホルモン拮抗性 OC-An群12名)およびピル未使用群N群46名で検討しました。3群間の年齢(20~27歳)、BMI(18.4~22.7)、AMH(2.4~5.9 ng/mL)、刺激に要したFSH量(1908~3492単位)に有意差はありませんでした。しかし、採卵できた卵子数は、N群(16.6個)およびOC-An群(19.0個)と比べ、OC-Ag群で有意に低下(11.3個)していました。
*OC-Ag群(第1, 2, 3世代のピル):Norethindrone 8名、Norgestimate 4名、Norgestrel 1名
OC-An群(第4世代のピル):drospirenone 11名、cyproterone 1名
解説:ピルの種類は、含まれる黄体ホルモンの内容によって世代が区別されます(2013.5.27「女性ホルモン剤を使うのは心配ですか?」を参照下さい)。黄体ホルモンは、男性ホルモン親和性(Ag)•拮抗性(An)の違いの他に、女性ホルモン活性(E)、糖質コルチコイド(ステロイドホルモン)活性(GC)、鉱質コルチコイド拮抗性(AMC)の違いもあります。これらの違いにより、卵巣予備能やその後の卵子の発育に影響が出る可能性が出ても不思議ではありません。参考までに、ここに記載した、男性ホルモン、女性ホルモン、黄体ホルモン、糖質コルチコイド、鉱質コルチコイドは全てステロイドホルモンに属し、全てが親戚関係にあります。
*黄体ホルモンの各種活性を示します
E Ag An GC AMC
プロゲステロン - - ± + +
ジドロゲステロン - - ± - ±
17α-hydroxy 誘導体
酢酸クロルマジノン - - + + -
酢酸シプロテロン - - ++ + -
MPA - ± - + -
19-Norprogesterone 誘導体
酢酸ノメゲストロール - - ± - -
プロメゲストン - - - - -
スピロノラクトン誘導体
ドロスピレノン - - + - +
19-Nortestosterone 誘導体
ノルエチステロン + + - - -
レボノルゲストレル - + - - -
デソゲストレル - + - - -
ゲストデン - + - + +
ジェノゲスト ± - + - -