「金刀比羅宮書院の美」を観てきました。 | 三重中勢の旬便り・・第二章・・ (津の表具師がお届けするARTなお話)

三重中勢の旬便り・・第二章・・ (津の表具師がお届けするARTなお話)

三重中勢地区(津市)にて、表具師を生業としています。地元に生かされている管理人の視点が捉えた、「旬」の話題をお伝えします。 ☆コメントは内容を確認後に公開させていただきます。

三重県立美術館で6月8日(日)まで開催中の「金刀比羅宮書院の美」を観てきました。


<展覧会看板です>


今回の展示は神道における「常若」の精神に則し新たに開発された「文化ゾーン」の完成を機に「東京」「金刀比羅宮」経て「三重」に巡回されてきているのですが、どうして「大阪」や「京都」ではなく「三重」が選ばれたのか?


それは三重には「伊勢神宮」という古くから篤く信仰されているお社があり、共に民衆から「こんぴらさん」「お伊勢さん」と親しみを込めて愛されているという共通点から「三重」という地での開催に至ったとのことでした。


前置きはこのあたりで、展示会場に沿って特に目を引いたところや作品をご紹介したいと思います。


展示室①:円山応挙が障壁画を手がけた「表書院」の「鶴の間」「虎の間」「七賢の間」「山水の間」が再現されています。


「虎の間」では16面の襖絵による「遊虎図」が圧巻で、流れている水の音にふと山奥へ分け入ったら水を飲んでいる虎とバッタリ出くわしたかのような感覚は空間演出の巧みさを物語り、正面・左面に描かれている虎達のユーモラスで可愛らしい表情は当時、実際の虎を目にしたことがなかった江戸の絵師が毛皮と猫から類推して描いたとされることが良くわかるものでした。

そういえば、画中の虎に混じり一頭の豹が眠っている姿も・・これは当時、豹は虎の牝だと思われていたことの象徴なのかもしれませんね。


「七賢の間」では3人の童子を伴った七賢老が竹林の中に佇む「竹林七賢図」全8面の襖絵が観る人の心に静かに爽やかな風を送り込んでくれるような感覚に陥らせます。

特に右面3枚目の人物が描かれていない絵の中の一本の竹のしなり具合がなんともいえない揺らぎを感じさせ、観ていて飽きない世界に誘ってくれました。


この展示室①は襖絵の展示が主なのですが、展示されている襖の高さがちょうど畳に座したときの目線にあわせてあるので混雑していないときに各間の真ん中に立ってぐるっと見渡すとまた感じ方も変わるかもしれません。

また、この部屋の襖に使われている「引き手」にもご注目・・中央の座金部分に「金」の文字が・・特製の引き手が使われています。


展示室②「奥書院」から「伊藤若冲」が手がけた「上段の間」、「岸岱」が手がけた「春の間」「菖蒲の間」「柳の間」が再現されています。


「上段の間」では「伊藤若冲」による「花丸図」の繊細な筆さばきに思わず見入ること必至・・

本画で展示されている襖絵4面を食い入るように観ている人の多さにちょっと驚きますが作品の前に立つといつの間にか自分も引き込まれていって・・

描かれている40の花の中では特に「こでまり」「やえやまぶき」「さくら」といった白が特徴の小さな花が目を引きました。

図録によるとちょうど相国寺に納められた「動植綵絵」を描いている間の作でこの「花丸図」以降の「動植綵絵」が若干平面的に描かれているノは「花丸図」の影響があったのではないかと類推しています。


また、此処では若冲筆とされる「飛燕図断片」(定蓮寺蔵)も公開されています。


「菖蒲の間」では「岸岱」の「水辺花鳥図」の水鳥の繊細な表現がひときわ目を引きます。

羽根の一枚一枚、足の皮膚・・今にも動き出しそうなリアルな絵にものを観て描くということの本質が伝わってきます。


ただ、この展示空間では作品保護の観点からも仕方のない点もあったのだとは思いますが、展示室①のように、その空間の中に入って見渡すということができなかったため、作品が一方からしか観る事が出来なかったのがとても残念でした。


展示室③④「金毘羅宮所蔵の宝物から」

ここでは、「長澤芦雪」による「鯉魚図」(軸装)、「伝狩野清信」による「象頭山社頭並大祭行列図屏風」(六曲一双)、が目を引き、また此処でしか公開されていないという「狩野派の絵師」による「36歌仙図」などが観られます。

(作品の一部は図録にも掲載されていないので、お見逃しなく・・)


また、途中のヴィジョンに映し出されている「金毘羅宮DVD」もお見逃しなく・・

今回は観られなかったところも含め、金毘羅宮の見所が14分にわたって紹介されています。


2階へあがって、常設展示室①は「高橋由一」の展示。

日本洋画界の黎明期に活躍した「高橋由一」のコレクションでも知られる金毘羅宮から、全27点が展示されています。

数年前、「油絵を解剖する」(歌田眞介書) という本に出逢ってから、ずっと観たかった作家だったので今展の中でももっとも楽しみにしていた展示でした。

いずれの作品も期待以上に素晴らしいものでしたが、その中でも特に「鱈梅花」のふきのとうや「ひうち具」の木片などのリアルな質感や「貝図」の中のいろいろな貝の描きわけなどはやっぱり流石だなと感じました。

また、風景でも「愛宕望嶽」「田子富士」「牧ヶ原望嶽」等に見る空気層の描き方、「墨堤桜花」「琴平山遠望」の計算されつくした空間バランスが絶妙で、沢山の方が溜息をついて見入っていました。

そういえば、由一と金毘羅宮との出逢いは伊勢の「二見ヶ浦」を描いた一枚を奉献したことから始まっているのだとか・・

「三重」との繋がりはこんなところからもあるのですね。


もう一度、下へ降りて今度は県民ギャラリーへ・・此処では現在活躍中の「田窪恭治さん」による「椿書院障壁画」の公開制作が観られます。

(釣竿の先にパステルをつけては慣れたところから描く技法、画面に近づいて色を込めていく様子などが観られました・・会期中に何処まで出来上がるかも楽しみの一つかも・・)


金毘羅宮の過去と現在が一気に楽しめるこの展覧会、「三重」の次はフランスの「ギメ東洋美術館」へ行くため、門外不出の貴重な作品を国内で観るにはこの機会を逃すと当分訪れることがないと思います。

気候も良い時期、季節の花も美しく咲き競う三重の地にぜひともお出かけくださいませ・・


おまけ・・

美術館の中庭にはこんな可愛らしい子達が・・


<「こんぴら狗」といいます>


この可愛らしい置物は金毘羅宮でも人気のあるもので、参詣が叶わなかった飼い主の変わりに首から「こんぴら参り」と書かれた袋(中には代参を頼んだ人の名前、初穂料、路銀などが入っていたそうです)を提げた犬を代参をさせる風習(旅人に託し、先々で供が代わっていったのだとか・・)の名残の置物で、当時の人々の温かい気持ちが偲ばれました。