私たちの身の回りの世界を見渡すと、
実数が散りばめられているように感じます。
1,2,3,4,・・・ といった自然数に加え、
マイナスの数や分数、
さらに、ルート2のような無理数まで、
これらの数のことを実数といいます。
数直線を考えると、
すべての実数が1本の直線上に含まれています。
それが、私たちが実数を身近で親しみのある数
と感じている理由かもしれません。
じゃあ、実数を超える数を考える必要はあるのでしょうか?
ここでは、そんなことを考えてみます。
ある数自身を2回かけること、
つまり、△×△のことを2乗といいます。
-3×(-3)=9 のように、
どんな数も2乗すれば必ずプラスになります。
△×△=9 という式を考えると、
これを満たす△は、
△=3,-3
となります。
ここで、x を使うと、
x×x = 9 という式の解が、
x=3,-3 となることを意味します。
しかし、
2乗してマイナスになる数はないので、
x×x = -9 という式は、
解が存在しません。
せっかく方程式を考えたのに、
「解なし」 というのはどうなんでしょうか?
実がそこが、完全と思いがちな実数の不完全な部分なのです。
そこで、実数を超える複素数が登場します。
2乗してマイナスになる数はないのですが、
そのような数 (または、記号) を導入します。
2乗すると-1 となる数 i を考えて、
i のことを虚数といいます。
そして、
2+3i のように
実数と虚数を含む数のことを複素数といいます。
3や5のような実数は、
3 は 3+0i,
5 は 5+0i
というように解釈できるので、
実数も、複素数の一部だと考えられます。
ただ、
2乗すると -1 という性質や
虚数というネーミングから想像すると
虚数 (または、複素数) は、なんだか実体のない数のように思えてきます。
虚、影、幻、 ・ ・ ・
といったイメージがついてしまいがちです。
ですが、
虚数は本当に幻なんでしょうか?
そこの所を、数学的に解明したいと思います。
たとえば、
因数分解を考えてみます。
x×x + 9 という式 (多項式といいます) はこれ以上因数分解できません。
しかし、
複素数まで数の世界を広げることで
(x + 3i)(x - 3i) と因数分解できるようになります。
これは何を意味しているかというと、
x×x = -9
という式は、「解なし」 でしたが、
複素数まで数の範囲を広げることで、
x = 3i, -3i
と解をもつことを意味します。
実数ではできなかったことが、
複素数まで広げることで、できるようになるのです。
さらに、
複素数を考えることで、すべての方程式も解をもつことが分かります。
正確には、
「すべての多項式は、複素数の範囲で(必ず)1次式の積に因数分解できる」
と表現されます。
これを 「代数学の基本定理」 といい、ガウスによって証明されました。
もちろん、実数の範囲ではこんなことは成り立ちません。
すなわち、数を複素数の範囲まで広げることで、
因数分解を完全に行うことができて、
どんな方程式も必ず解をもつことになるのです。
すなわち、
実数から複素数へ数を広げることで、
完全な形で方程式や多項式を扱うことができます。
このようなことから、
「複素数」 は 「実数」 より奥が深い 「本質的な数」 といるのです。
決して、幻のような便宜的な数ではないのです。
もしかすると、
この世界は複素数の方が実体で、
実数の方が影のような存在かもしれません。
存在しないと思われがちな複素数が、
実は深く本質的な数であることが分かりました。
■ さらに詳しくは、私の本 『数の世界』 をご覧ください。
数の世界 自然数から実数、複素数、そして四元数へ (ブルーバックス)
(Amazon)
『数の世界』 では、
自然数から実数、複素数、四元数、八元数への「数の広がり」
について、数学的に詳しく書かれています。
【コラムの執筆者】
松岡 学
高知工科大学 准教授、博士 (学術)
数学者、数学教育学者
大学で研究や教育に携わる傍ら、
一般向けの講座を行っている。
アドラー心理学の造詣も深く、
数学の教育や一般向け講座に取り入れている。
音楽 (J-POP) を聴くのが趣味。
ファッションを意識し、自然な生活を心がけている。
出版物:『数の世界』ブルーバックスシリーズ、講談社。
『5歳からはじめる いつのまにか子どもが算数を好きになる本』スタンダーズ社。
< 数学コラム >