最初のご挨拶

ミュージカル『レ・ミゼラブル』を観るために原作を読んで予習しています。今回は七回目になります。

<今までの記事>

第一回①「フランス革命期の年表」「執筆時のユゴー」

第二回②「序文に見る作者の想い」「版画について」「ヴァルジャンの生立ちと19年の刑の内訳」

第三回③「ミリエル司教の原作での設定とヴァルジャンへの対応の心理」「ファンテーヌのパートナーについて」

第四回④「ヴァルジャンが工場長、市長へと上り詰めた過程」「ジャヴェルの生立ちと性格」

第五回⑤「マリウスの生立ちと思想の変化」

第六回⑥「ABCの友の仲間とそれぞれの設定」

まず、断っておきますが…

原作を読んだときの私の読書メモを見ながら記事を書いていますので、理解力の無さによってユゴーの真意を汲めてなかったり、勘違いしているところもあるかと思いますので、軽い気持ちで(そして優しい気持ちで)見てみてくださいニコあと、私はあくまで「原作の設定では」という視点で書きますので、舞台版でその設定を踏襲しているとは限りませんパー

今回の内容

ジャヴェルの自殺までの心の動きを見ていきたいと思います。

 

私がレミゼの原作を読み始めたのはまさにこの部分を読みたいと思ったからなのです。

作者ユゴーは登場人物の内面の葛藤を恐ろしく細かくしつこく執拗に表現します。この部分は実に約20ページを割いて葛藤が語られます。

映画や舞台では語られない細かなジャヴェルの心の動きを原作に即して見ていきます。

ミュージカル『レ・ミゼラブル』を観るための資料として

ジャヴェルの自殺までの心の動き

まずは原作における葛藤に至るまでの経緯をご紹介

ここはミュージカルと設定が異なります。
前々回ちらっと書きましたが、負傷したマリウスを背負ったバルジャンが下水道から出てきたところに、その一帯を張っていたジャヴェルに見つかってしまいます。ジャヴェルとバルジャンは一緒にマリウスを祖父ジルノルマン氏の元へ馬車で送り届けました。それからバルジャンが「あと一つだけお願いを聞いて欲しい」と、連行される前に自宅に寄ってもらうように願い出ました。その願いは聞き入れられます。
二人がバルジャンの家に着くと、ジャヴェルは付き添わずにバルジャン一人で家に入らせます。バルジャンが二階に上がって外を見た時、そこにいるはずのジャヴェルが消えていました。
 
こうしてバルジャンから去り、一人になってからのジャヴェルの葛藤を原作ではどう書かれているか見ていきます。

ジャヴェルの変調

ゆるやかに街を去る。初めて両手を後ろに回して歩いた。それは「遅疑」の態度の現れで、今までは「決意」の態度である両腕を組んで歩いたことしかなかった。

緩慢に、沈鬱に、心痛の中、恐ろしい苦悶を抱えセーヌ川への近道を歩いた。そこは水夫も恐れる危険な急流の場所だった。

 

数時間前から乱される心。本心に二分した義務をごまかすことは出来なかった。互いに相いれない二つの道を見た。

悪人のおかげで命拾いし、その負債を甘受し償却した自分は悪人と同等の位置にいる。

恩に恩で返し、私的な動機(命拾いしたこと)から一般的義務を犠牲にし(警察官として罪人を捕らえる義務を怠った)、自分の本心に忠実なために社会を裏切った。

 

ジャヴェルの驚き

ヴァルジャンは自分を殺すことができたのにしなかった。彼が自分を赦したことに驚いた

そして、自らがヴァルジャンを赦したことは自身を茫然とさせた

 

では、どうすべきだったのか

*ヴァルジャンを捕らえるべきだったか

*ヴァルジャンを自由にするべきか

…前者は「官憲の男が徒刑場の男より早く堕ちる」ことを意味し、後者は「徒刑囚が法より高く上がり、法を踏む」ことを意味する。よってどちらも不名誉である。

 

内心の反乱

心痛の一つは”考えなければならなくなった”こと。

自分のしたことに戦慄した(…したこととは:警察規則に反し、司法組織に反し、法典全部に反し、自ら罪人を放免したこと)

このことは個人的には至当だが、私事のために公務を犠牲にしたことになる。

よって取るべき手段は、ヴァルジャンを下獄させること…

しかし成し得ない。何かがその道を塞ぐ。激しく当惑する。

 

次第に恐ろしくなる夢想

傷害の支柱だった定理がヴァルジャンの前に崩れた。自分への寛容に圧倒される。

皆から尊敬されたマドレーヌ氏(ヴァルジャンが市長をしていた時の偽名)の姿が重なり崇敬すべきものとなる。囚人への賛嘆の情が魂に染み入るのを感じ慄然とする。悪漢の荘厳さを認めざるを得ないことは耐え難い。天使に近い徒刑囚という怪物の存在を自認した。

 

最大の苦悶

最大の苦悶は確実なものがなくなったこと。法典はもはや何でもない。

合法的肯定とは異なる感情的啓示が起こったが、それは人間に依存する正義とは反対方向の神に依存する正義だった。未だ知らなかった道徳の太陽が昇るのを見て、怯え幻惑した。

 

自分の行動の意味とは何か?

自身が迫害するほどに追い詰めた男が、私への復讐の機会を逃し、私を助け赦したのはなぜだったのか。そして私も彼を赦したが、それはなぜだ?

義務以上の何かか?…果たしてそんなものは存在するのか?

 

神という上官

正義を謀る天秤の秤が外れてしまった。

一方の皿は深淵へ、一方は天へ。

それまで上官は警視総監だけで、神という上官の存在を考えたことがなかった。

神という新たな拠り所を意外にも感得し、心が乱された。

神という上官に対してどうしたらいいかわからない。

上官に対する対処として今まで知っていることは、部下は身をかがめ、背反・誹謗・議論してはならず、あまりに無茶な上官へは辞表を出すしかない。

…では、神への辞表はどうするべきか?

 

存在理由を失う

もはや自分自身が分からなくなり、自分の行為の理由も見失ってしまった。信じていたことが全て消散した。今後は別の人間にならなければならない。

自己が空しく、無用となり、過去の生命から切り離され、罷免され、崩壊されたのを感じた。

”官憲”は彼の内に死滅し、存在理由を失った。

 

自らこれらを認めざるを得ないということは何ということだろうか。

無謬(間違いがないもの…法とか)は必ずしも無謬ではなく、信条の内にも間違いはあり得る。法典は全てを説きつくすものではなく、社会は完全ではない!

 

心の内に清廉の崩壊が起きる。今まで完全だったものがたわむ。

 

ジャヴェルの感銘を押さえ、止め、訂正する全てのものが消え失せた。社会・人類・宇宙も皆彼の目には忌まわしいだけに映った。

法や信条は全て破片となり混沌となった。

こうした魂の内の恐るべき幻は耐え得ることではなかった。

 

こうした深淵から脱する2つの道

一つはヴァルジャンに向かい、彼を牢屋へ返すこと。

もう一つは …

 

葛藤を終え…

こうした葛藤の後、彼は川近くの分署に向かった。

分署の中で、紙に文書を書いた。

内容は、職務上の注意事項10点について、警察や司法が憂慮すべき点を指摘するものだった。

その文書に封をして「制度に関する覚書」と書き、テーブルに置いて出て行った。

 

再び同じ場所へ戻るジャヴェル

闇、静寂、水が渦巻き泡立つ激流の音を感じる。広大無限なものが口を開けているようだった。下にあるのは水ではなく深淵。暗黒の口を眺め佇む。

 

突然帽子を脱ぎ、壁に立ち、川に身をかがめ、また直立して、暗闇の中にまっすぐに落ちて行った。

鈍い水音がしたが、水中の暗い姿の痙攣はただ影のみが知るところだった。

 

以上

ジャヴェルの自殺までの心の動きでした。

第4回目の記事でジャヴェルの生立ちと性格の設定を書きましたが、それを踏まえてこの葛藤を見ると、こうした心の動きに妙に納得させられます。

(原作を無理やり凝縮してそのまま書いただけなので、読んでない人にきちんと伝わっているか不安ですが。。。)

 

それにしても激しい葛藤でしたね。

読んでいて感じるものが壮大というか、重いというか、世界が大きすぎて安易に感想を言葉に出来ません。言葉に出来ないのは何も感じていないのではなくて、感じすぎてしまって、脈絡のない感情が混沌として、その中で迷子になっている状態なのです。

 

皆さんはどんなことを感じたのでしょうか?

 

最後までお読みくださりありがとうございましたニコ

 

お詫び

ジャヴェルとヴァルジャン。

ジャベールとバルジャン。

2種類の表記が混在してしまいました。お詫びしますが、面倒なので修正しません。

ごめんなさいぶー

 

**追記**

まるこのレミゼ関連記事まとめページ作りましたひらめき電球

レミゼ記事まとめ

******

手作りアクセサリー販売始めましたラブラブ

ぜひ覗いてみてくださいね目