repentanceⅥ 「芽吹いた心」


軍事施設の万全なセキュリティーをかいくぐって


ここに侵入できる敵のスパイは考えられない


だとすれば、内部の人間の仕業カモシレナイ


私は相手の手を捻って投げ飛ばすが


躱され、そのままナイフで突いて来られた


明らかに軍人だ、的確に無駄な動きもなく急所を狙ってくる


暗がりでハッキリと相手は見えないが


突きをかわすと、今度は相手の手を捻りナイフを取り上げ


そのまま羽交い締めして、相手のクビにナイフを当て電気をつけると


その相手がミラネー大佐である事が確認できた


確かにいつでも、自分の命を狙って良いと言っていたので


彼女の行為を咎める事はしない


「随分と、安易な暗殺を試みたな」


「うるさい、お前は多くの同胞を無残にも踏みつぶした」


人間の彼女としては、当然の感情の発露だろう


しかし・・・


「軍人としては、自分の感情に振り回されて、目先のチャンスに飛びつくのは感心しないな」


「お前の評価など求めてはいない」


ハラハラと涙がこぼれ落ちるのを確認した


彼女は軍人としては余りにも感情の制御が未成熟過ぎる


「お前は本当に正規の訓練を受けた軍人なのか?」


「うるさい、私は16歳まで、自分の能力に気付かず、民間人として暮らしていた、三年の訓練を受けて特殊能力者部隊に配属されている」


成る程、それなら納得出来る


恐らく瞬間移動の力は能力者の中でも特殊で


それを訓練する力がグパザルーン共和国には無いとみて良いだろう


だから彼女は三年間、武器類と格闘系の技術のみを訓練されたのだ


私は彼女をロープで縛ると


ソファーに座らせた


そしてテーブルを挟んで彼女と対峙するカタチで座る


「状況が変った、私はグパザルーン共和国と講和に持ち込む事が出来ればと今回の作戦を立案し実行したが、我が国は討伐し属国にする方針へと流れ込んでいる」


私の言葉に彼女は大きな目を開け驚きの顔になった


やはり彼女は軍人としては未成熟過ぎるな


「程なくグパザルーン共和国への侵攻命令が私に下るだろう」


彼女の顔が怒りに強ばっていくのを確認しながら


「そこでだ、君をその戦線で逃がす事にした」


強ばった顔が驚きにまた変る


「一体何を考えている」


「今回の国の方針は私の本意では無い、もちろん戦う限り相手を殲滅するが、このまま祖国を悪魔に売り渡すつもりもない」


困惑している彼女に私は続けた


「これは私のポリシーに反する行為ではあるが、祖国の為ならそれを曲げても実行しようと思う」


息を飲んで彼女は私の次の言葉に耳を傾けている


「今の政権を交代させ、政界と悪魔を切り離し、祖国に改革を行う、その時グパザルーン共和国と講和し、友好条約を結びたい」


「私にその手助けをしろと言うのか?第一そんな話信じられる筈は無いだろう」


「お前を逃がす私のメリットを考えて見てくれ、恐らく軍人としては何一つないだろう、私は本気だ」


「仮にその話が本当だとして、お前にその力があると?いや、お前にはあるかもしれないが、私は単なる軍人の一人だ、上層部に対する影響力は無い」


「敵軍に捉えられ、特異体質に最も多く接したお前に上層部が興味を抱かない筈は無いだろう、恐らく特異体質の存在は認識されていても、その実態は彼らも知らない」


これはカマをかけたのだが、見事に彼女は引っかかった


「どうしてそれを・・・」


「今お前の口から確証を得た」


彼女はまた怒りを露わにしたが、観念したのか目を瞑った


「何故、能力を阻害するのか、そのメカニズムについて、恐らく喉から手が出る程知りたい筈だ」


「お前の情報を売る事で、上層部に信用を買えというのか」


「直接特異体質者と接触したのだ、敵に捕らえられたとは言え、脱出して生還すれば、罪に問われる事はないだろう」


「お前は判っていない、我がグパザルーン共和国は裏切りを許さない、捕虜になってしまった私が帰っても処刑されるだけだ」


「ほう、すると君は生還するのではなく、私に一矢報いて共に消えるつもりか」


「もはや、私の家族も親族もろとも処刑されている・・・」


そこまで言うと彼女は言葉を止めて、閉じてしまった貝の殻のように


その口は開かなくなった


恐らく、彼女は何らかの方法で、グパザルーン共和国軍とコンタクトをとり


自分の置かれている状況を知らされたというのが自然だろう


その手段は考えるまでもなく能力者に違いない


「成る程、テレパシーで情報を交換したという事か」


彼女は目を見開き驚きの顔で私を見た


たった三年の訓練では、心理戦には対応できないようだ


「すでに、帰る場所は、無くなったのか」


彼女の頬から涙が流れ落ちる


「もう私を縛るものは何も無い、お前を倒して一矢報いるだけだ」


不思議だが、私が祖国と信じているこの国も


本当の自分の国では無く


自分のいるべき所は何処にも無い


そんな考えに襲われ始めた


私は首を横に振って考えを正そうとしたが


もしかすると、私が存在できる場所なんて、何処にも無いのかも知れない


その考えを否定出来る根拠が何処にも無い現実に


どうしても辿り着いてしまう


私とミラネー大佐の立場に、一体どんな違いがあるだろうか


頭の中で何度否定しても、彼女の立場と自分が重なってしまう


私は孤独なのだろうか?


人間の心を持たない私が、孤独を感じるなど考えられない


ただ彼女と自分の類似点を見つけ出し


同じ分類になっただけのことだ


そう自分の心に折り合いをつける事にした


「すまなかった」


なのに、そんな言葉が自分の口から出てくるなんて


驚きの顔で私を見る彼女よりも


きっと、私自身が驚いていると認識できる


「お前の口からそんな言葉が出てくるなんて、思わなかったぞ」


当然だ、私自身も同じ感想を持った


「境遇で言うなら、私とお前に大差は無い」


「それはどう言う意味だ」


「もともと私はこの国の人間ではないからだ、私の両親は日本という名前しか知らない国の人種で、DNA上の母親は奴隷としてこの国に売られて来たが、すでに私を身籠もっていて、私を産んでのち、亡くなったと聞かされている」


何故彼女にこんな事を話したのか


自分でも不思議でならない


「その母の記憶はなく、実感も湧かないが、それを知っているこの国民は私が戦跡をあげる度に白い目で私に対する偏見を露わにしてきた」


そうか、これは私が人間の心を持てば当然感じる感情というものだろう


私は彼女と対峙することで


自分が人間であると仮定して


一つの仮説を立てているのかも知れない


「この国を祖国だと感じた事は無い」


「では何故、お前は戦っている」


「私は軍人として訓練され今まで生きて来た、ただ任務を遂行するだけが自分の存在意義だと考えている」


いや違うな


私は彼女と対峙する事で


恐らく何かの答えを出そうとしているのかもしれない


「しかし、ここに来て、その定義も揺らぎ始めてきた」


人間で無い私も、軍人でありながら、真っ直ぐに生きている


ミッフェ将軍や、彼女のような存在と接することで


ある種の影響を受けているのかもしれない


時として人との出会いが、


その人の生き方を変えるきっかけになると言われているが


私もその法則に引っかかっているのかもしれない


「恐らくお前は信じないかもしれないが、私は流血を好まない」


「はぁ~?あれだけの我が軍の基地を破壊する為に、多くの血を流したお前が言っていい言葉ではないぞ」


怒りを露にして叫ぶように彼女は言ったが


「これは資格の問題ではなく、事実だけを言っている、もし、あの悪魔達の手にこの国を委ねてしまえば、もっと多くの流血が起こるだろう」


「一体何の話をしている」


「恐らく私は祖国と呼べる国は何処にも存在しない、逆にそれに縛られること無く物事を考え判断する事が出来る、君も今、私と同じ立場にいると仮定して話している」


彼女は何か言いかけたが、言葉にならないといった感じで止めたようだ


「例え自分の失敗といえど、家族、親族までも消し去ったその国に、君は捉われる必要は無いのではないか」


彼女は暫く放心状態のようになっていたが


やがて目を瞑り次に私を見た


「話を聞こう、このロープを解いてくれ、もちろん私を信用出来ればの話だ」


私は彼女の呪縛を解いた


軍人としては考えられない選択だが


人を信じた事は今まで一度もなかったが


今は信じてみたくなったからだ


私が人間を信じてみたくなったのは


彼女やミッフェ将軍と出会ったからに他ならない


「お互い祖国という呪縛から開放された立場で考えてみよう、その呪縛がある限り国益を大前提にしなければならず、物事の本質からズレてしまいやすい」


これは今まで考えても居なかった自分の意思


つまり自分がどうしたいのかを追求しているのだと、この時はっきりと認識した


「再度言うが、今回のグバザルーン共和国の三つの基地を殲滅したのは、講和に持ち込み友好条約を結ぶように先導するためだった、しかし、私のこの作戦成功を捻じ曲げて自分の思いのままこの国を動かそうとする者が現われた、このままではその悪魔に私は利用される事になる、一軍時としてはそれに逆らうことは出来ない、これが今現在私の置かれている立場と思ってくれ」


彼女はゆっくりと私の説明を噛みしめるように頷いた


良くも悪くも彼女は、軍人としての感受性よりも、


民間人としての感受性をより多く有している


だから、色眼鏡で歪んだ感覚で物事を捉えない


「恐らく、他の国を平らげる方策に打って出るだろう、実際この国には、それだけの準備が構築されている、もし君たちのような能力者部隊を手に入れる事が出来れば、この国と敵対する残りの三つの国を掌握する時間が短縮されるだろう」


彼女は真っ直ぐ私を見つめて


事の真実を見極めようとし始めたように感じられる


「その為には、是が非でもグバザルーン共和国を属国にする必要がある、友好条約では能力者部隊を思うまま使えないと考えて不思議は無い」


突然彼女は燃え上がるような目つきへと変貌して


組んでいた腕を放し、拳を握り締めた


「そんな事は、断じてさせてはならない、例え私の家族、親族を消し去り、私を切り捨てた国だとしても、他の国に踏み躙られては黙っていられるものか」


極めて人間的な感情なのだろう


私は彼女のその感覚に好感を抱いたが


同時に、結局彼女も祖国に縛られ、


その外側の世界には辿り着けないと痛感した


それでも・・・


「私たちは同じ土壌には立てないかもしれないが、今のところ手を組むという可能性はあるようだ、君はその祖国の為に、私もまたこの国のしがらみのために、悪魔の国として後世の歴史家達に悪評をされない為に、なんとしても阻止しなければならない」


「それで私に何をしろというのだ」


「先ず元首を失脚させる、次に私が今のところ最も脅威を感じている相手と戦う時、君の能力を貸してくれないか」


検証でもなく、問いかけているのでもない


私の心は既に決まっていて、それを実行するように頭脳も働いていた


ただその認識だけが遅れていたようだ


私は彼女に感謝すべきかもしれない


何故なら、彼女とこうして向き合う事で


結局自分の心と向き合い本心を認識する時間が短縮されたからだ


この短縮時間は大きい


「解かった、私はお前を信用する事にする」


「そんなに簡単に信じて良いのか?」


「お前は簡単にこのロープを外した、それは私を信じてくれたって事だろ」


「君を安心させ油断させる為だとは考えないのか」


やれやれ、自分の懐疑的な思考が


ここに来て出てきてしまうとは


彼女が気持を変えてしまう可能性だってある


ところが、彼女の顔から笑顔が漏れた


「本気でそんな事を考えている奴は、決してその悪巧みを口には出さない、それに私は軍人としては不適格かも知れないが、疑うより信じる方が好きなんだ」


漠然と彼女に感じている好感の正体はどうやら


ミッフェ将軍と同じ、真っ直ぐな心を彼女の中に感じたからだと理解できた


「私はお前を利用する事になる」


「それは、お互い様だ、私も祖国の為お前を利用する、カタチはな、だがお前の心意気に心が打たれた」


どうやら彼女は論理的に動くタイプではないらしい


「グバザルーン共和国の人間全てとは言わないが、すくなくともその心意気を大切にする民族である事を理解してもらいたい」


「その話が事実なら、私の心はこの国よりも、グバザルーン共和国に傾きそうだ」


私なりのジョークのつもりだったが


「お前はこの国の人間より、グバザルーン共和国の人間に近いと私は今感じたぞ」


彼女はそうは受け止めなかったようだ


これが人間の世界でいう感情の結びつきというものだろうか


もしこれが強化された形で軍隊を動かす事が出来れば


その軍隊は侮ることは出来ないだろう


ミッフェ将軍はどうするだろうか


彼の真っ直ぐな気性は、国に対する裏切り行為だと認識してしまい


私と対立する立場に立つかもしれない


しかし、私は彼と敵対したくは無い


でも何故そう思うのだろう


彼の能力が惜しいからか、それとも純粋に彼と戦いたくないと思っての事か


もし後者なら私は軍人失格となる


もし前者なら人間失格だろう


もちろん、人間でない私には愚問と言うものだ


私はミラネー大佐と対峙したように


ミッフェという一人の人間と向き合う事にした


これは一つのクーデターと思ってよい行為だから


話す限りはもし彼が敵対する立場になった場合


彼を倒す覚悟をしなければならない


或いは彼には秘密裏に事を進めるという道もあるが


あの几帳面な性格は、恐らく私の不穏な動きを察知しない筈は無い


だから、どうしても彼とは向き合わなければならない



つづく



第二十八話「決着」



repentanceⅤ「魔物との対談」


repentanceⅣ 「常勝無敗」


repentanceⅢ 「作られた英雄」


repentanceⅡ 「モンスターの影」


repentanceⅠ「frozen spiritを持つ者」


第二十七話 「革命児の心」



初めから読む


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ヾ( ̄o ̄;)いやいや


思わぬ方向に向かって行き始めましたよΣ( ̄ロ ̄lll)あせる


またもや、キャラの暴走か・・・


どう話をまとめるか


マジでヤバイかもです(゚ω゚;A)


何とか考えて見ます(`・ω・´)ゞ

まる☆



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