repentanceⅣ「常勝無敗」


グパザルーン軍の侵攻から、たった一週間で私は作戦を開始した


これには理由がある


まず第一に、敵国は自分たちが攻撃していると未だに思っていて


ニセモノの定期報告を送っているため


未だ敵国を翻弄していると思い込んでいる


まさか、その日のうちに、


能力者部隊が全滅し基地が奪還されたとは考えないだろう


本来侵攻軍を組織して準備するのに最低一月はかかるが


私は軍備を縮小させて、少数精鋭部隊を組織する事で


準備期間を短縮させた


できうる限り早いほうが良いのだ


敵国が、事態を把握する前に侵攻する事に意味がある


多少のリスクを背負ってでも、今回の作戦は完遂する必要がある


ミラネー少佐によって敵国の前線基地の位置は把握した


もちろん、彼女も今回同行してもらっている


瞬間移動という、危険な能力を保有している彼女は一人で


数千の部隊に匹敵する戦力があるとみた方が良い


迂闊に国に残しておけば、アキレス腱になる可能性は否めない


少なくとも私が傍にいる限り彼女の力は充分に発揮できないのだから


妥当な判断だと言えるだろう


今回の作戦はかなりのリスクを伴う


前線基地を三つ占拠して、敵国を翻弄させるには


基地を横向きに落としていくのがセオリーだろう


しかし、それでは弱い


そこで、我が軍は基地を敵国の都に向けて縦方向に三つ落とす


帰路を絶たれて、全滅する危険はあるが


敵国に絶大な精神的打撃を与えることが出来る


しかも、最も強固で難攻不落だと、グパザルーン共和国が思い込んでいる


ザレーネ基地をまず叩く事にした


「たった4000の兵士に二十台の戦車で、三つの基地を占拠出来るのですか?」


ミッフェは不安を隠しきれない様子で尋ねてきた


ザレーネ基地を前に、静寂が我が軍を包み込んでいる


「今から面白いものを見せてやろう、後学のためにシッカリ心に刻みつけておくが良い」


密かに、迅速配置した戦車が


私の合図と共に崖を滑り落ちていき


岩によって止まると一斉に砲撃を開始した



突然の襲撃に敵は臨戦態勢もとれず、


乱れた指揮系統は統率する舵取りを失った


厳しく訓練された組織であればあるほどに


指揮系統の乱れは命取りになる


何故彼らがこれほどまでに乱れているのか


種明かしすれば簡単な事だけれど


まず、敵軍は自分たちが敵国を攻めている立場にあると思い込んでいる


つまり狩りをしているのは自分たちで


追われているのは敵国であり、まさか自分たちが狩られるとは思っていなかった


そこに油断が生まれる


まして、難攻不落と呼ばれたこの基地に


敵が真っ先に攻め込んでくる可能性を考えてはいないだろう


何故この基地が難攻不落なのか


それは背中と両脇に崖を背負っているカタチニなっているからだ


決して側方向から攻撃されるはずは無い


警戒するのは常に前からの攻撃だと信じ込んでいる


こんな時に、突然両側方向から攻撃をされるとパニックを起こす


それが崖から滑り落ちるカタチで


両側面の崖の岩の上に辛うじて止まった戦車から


一斉に砲撃を受けるとは思わない筈だ


たった六台の戦車からの砲撃だとしても


パニックを起こした奴らには、数百台もの砲撃だと映るだろう


しかも


六台の戦車の中から二台が


敵基地の背後に聳え立つ崖を撃っているのだから


崩れた岩が基地の頭上から落ちて来る


この基地が岩に埋まるのに、然程時間はかからなかった


「どんなに訓練された軍人といえど、想定外の方向から攻撃された場合、少なからず精神的な打撃を受ける、その機を逃さないで、徹底的に攻撃すれば、簡単に落とせる」


グパザルーン共和国の人々が難攻不落だと讃えた基地は


今や岩の下敷きとなり、基地としての機能はもはや認められない


我々は戦車をこの基地周辺に隠して


崖の上の軍事施設を占拠、敵の戦車と武器を奪い


また、敵の軍服に着替えて


次のガールデン基地に向かった


ミラネー少佐は、一言も口を利かず


ただこの状況を見ている様子だ


我々はガールデン基地を通り越し、やがて反転して


グパザルーン共和国の都がある方角から基地を取り囲み


一斉に砲撃した


人間は外的に対しての防御は鉄壁にしようと強化するが


内側からの攻撃はあまり警戒しない


味方の軍から砲撃される可能性を見失いやすい


恐らくガールデン基地は背後を突かれ味方から攻撃されている


そんな錯覚を起こしているだろう


私はありったけの砲弾を撃ち尽くすまで、攻撃の手を緩めるなと命令した


ガールデン基地が沈黙するのに時間はかかっていない


「どんなに戦力差があったとしても、敵軍に攻撃する余地を与えなければ、戦力差など無いに等しいものとなる」


私はミッフェ将軍の将来性に期待して


戦術の手ほどきでもしているのだろうか


それとも、彼の純粋で真っ直ぐな心に危惧を感じ


それを補えるだけの知恵を授けたいとの行動なのだろうか


私の戦術理論を彼に伝えている


彼は真摯に受け止めて、一つ一つ学習しているように感じられた


この真面目さが快い



そのまま敵軍の武器を奪取して


軍を二つに分け、東西にそれぞれ進んで


最後に落とすバーナール基地の側方から挟み打ちにするカタチで砲撃した


バーナール基地が沈黙するのを確認すると


敵の武器類に時限装置付きの爆弾を設置して


そのままザレーネ基地に戻り自国の戦車と武器を取り


帰還の途についた


もちろん、時限装置付きの爆弾は各基地に設置している


暫くすると、大きな爆発が次々に起こっていく


それぞれの基地に仕掛けた爆弾が爆発したのだ


「ここまでする必要があるのでしょうか、すでに敵の三つの基地は機能出来ない状態になっています」


やはりミッフェは一つの正義感のような思想を有していて


軍人としては不必要な感傷に浸る傾向があるようだ


人間としては、賞賛に値するし、


私はこのようなタイプの人間を好む傾向があるけれど


そんな性質はやがて彼自身を苦しめる事になるだろう


「忘れるな、進軍は攻めるときよりも、引き際が一番危険なんだ、立て続けに三つの基地を落とされた時、お前はどう思った、そして我が軍はどんな反応になっただろう、最初はパニックを起こしたかもしれないが、次第に深い怒りと憎悪を敵軍に向ける事になる、たった4000の兵力で怒りに燃え上がった数万の兵と戦って勝てる確率を考えれば、相手の出鼻を挫く位のトラップを仕掛けておかなければ、全滅させられてしまう」


ミッフェはゆっくりと頷いて、次に敬礼した


彼の敬礼の真意はわからないが


我々が戦争をしている事は認識できたとみて良いだろう


こうして帰還した我が軍は


国民達に大いなる歓待で迎えられた


今回の作戦で敵基地が落とされていく状況を録画した映像は


軍のみならず全国民に放映された


「我々が奪われた誇りは、敵の三つの基地をもって償わせた、我が同胞よ無念ではあるが静かに眠れ、お前達の仇は見事、敵基地と共に敵軍の血で贖われたのだ」


私は嫌悪を感じながらも、見事な演説で国民の心をつかみ取った、


国家元首ローフェン・エルド・ライラスの演出には驚異すら感じた


「そして敵軍に占拠された基地を見事奪還し、更に我らの同胞の仇を討ち、奪われた誇りを敵の三つの基地を壊滅させることによって取り戻した、彼を英雄と呼ばずして、一体誰を英雄と呼び得ようか」


私は生まれて初めて、


半狂乱になって叫ぶような国民と兵士達の歓喜の声を聞いた


見事だ、私を英雄に仕立て上げる事で


自分の権威と力を彼は手に入れた


彼は王族でもあり、元老院とも精通している


私はとんでもない怪物に力を与えてしまったのではないだろうか


深い野心を心の内に秘めて冷徹なまでに


己の野望を遂行してしまう


歴史には、時として爆発的な革命を起こす者が現れる


この男は、明らかに我が祖国、


いや世界を巻き込む革命を起こす危険性を持っている


そんな漠然としている不吉な予感が過ぎったが


数日して、その予感は的中してしまった


敵に精神的な打撃を与えたので、平和的講和条約を有利に結ぶ


キッカケになれば良いという私の目論見は奴によって潰された


彼は、この機に一気にグパザルーン共和国を属国にするよう


全国民を焚き付け、国の派閥をもまとめ、ついに元老院をも動かした


そして


軍上層部から、グパザルーン共和国討伐軍の総司令官に


私が任命されたのだ



つづく


repentanceⅢ 「作られた英雄」


repentanceⅡ 「モンスターの影」


repentanceⅠ「frozen spiritを持つ者」


第二十七話 「革命児の心」



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やっと半分です(゚ω゚;A)


ちょっと寄り道が過ぎますね~


さらりと書いていますが


結構えげつない戦術なのですよ((>д<))


戦術については


私が考えるようなものだから


こんなもんですよ(--。。


よもや期待されている方はいないと思いますが


万が一おられたらごめんなさい(T▽T;)汗


まる☆



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