第四話 「手がかり」



子供の頃、同じような不思議な能力を持った悠里と出逢った


お互いに自分たちの能力は危険であると感じて


ボクたちは、自分の能力をあるキーワードを元に暗示で封印する実験をした


ところが、それでは充分に封印は出来なかった


そこで、自分の能力で自分の能力を相殺する方法を見つけ出せた


それが出来るようになるまでに三年もかかったけれど


今では、自分の意志の力で能力をある程度までコントロールできるようになった


これで、突然人の心が響いてきて混乱する事もなくる


ボクの能力は最初植物や小さい動物の心を感じ取るだけだったが


次第に人の心が感じられるようになり


やがて、自分の心の声を相手に伝えることも出来るようになる


しかし、それは自分の意志の力でコントロールした訳ではない


中々コントロールするのは難しいのだけれど


それでもボクたちは諦める事無く研究に実験を繰り返した


最初の頃は能力を押さえつける事ばかり考えていたけれど


逆に鍛える事によって制御するレベルまで向上するのだと気がついた


それからは、この能力を極限まで鍛え


相反する力を同時に使う事で相殺する方法が見つかった


それは丁度、前進する力とバックする力が同時に働くと事で


動くことが出来ない状態に近い


勝手に発動した能力に対して、それとは逆の方向へ能力を使う事で


能力を相殺させて無効化する技なのだけれど


これを習得するのに二年かかっている


それでも、完全な形で相殺できているわけではない


例えば、その人の事に興味を持つと、自然と相手の事が流れ込んできてしまう


もちろん、心の声を聞くのではなく


なんとなく、どんな考えで生きているのかを


言葉ではなくイメージで感じてしまうのだ


相当辛い思いをしてきたとか、誰かに対しての強い気持ちとかも


イメージとして感じてしまう


まると一緒に行方不明になった悠里を探す事になってから


ボクは黒子というまるのクラスメートを紹介された


まるは彼女の事を全面的に信頼しているようで


彼女にボクの能力の事を話してよいか聞いてきた


ボクは迷った、悠里との約束もあるし


この能力の事が知られる事は、とても危険な事だと今は理解できるから


だけど、ボクはまるを信じる事にした


最初に黒子という人物と出会ってビックリしたのは


まるで幻想の世界にいる妖精のようなイメージだった


汚れを知らない純粋無垢な妖精は


とても毒舌で悪辣な言葉をはなしている


肌は透き通るように白く、日本人とは思えない堀の深い面長で美しい顔立ちで


面長なのだけれど、まるみを帯びている為面長に感じない


背はボクより高いけれど、とても華奢だった


椅子に座ってじっとしていると、まるで人形のように感じる


それに驚いたことに彼女はボクの能力の事をあっさり受け入れてくれた


まるで、そんな事があっても、何の問題も無いといった感じで


その能力が使えるのかどうか、その事にしか感心がないようだ


ボクはまるが何故彼女に話したのかが、そのとき解ったような気がした


世の中には、ボクの能力の事など気にも留めない人もいるのだと


ボクに教えてくれたのではないだろうか?


まるは、本当に不思議だ、心がどんどん軽くなって行く


空だって飛んでいけそうな気分になる


しかし、黒子はそうとうの苦労をしていて


辛い思いを乗り越えてきているのは感じる


「君は、今不幸だと思っている?」


ついそんな質問を彼女にしてしまった


「お前、私の心を読んだのか?」


とても興味津々に彼女はボクに近づいてきた


まるで心を読まれる事を恐れている様子は感じない


むしろ、ワクワクとしている感じだ


「いや、心は読んでいないよ、ただなんとなく感じただけなんだ」


「ふーん」


途端につまらなそうにそっぽを向いた


「幸福だとか不幸だとか、そんなのは幻想に過ぎない、自分を不幸だと思うから不幸になるだけだ」


彼女は溜め息交じりにそう言ったかと思うと


突然何かを思い出したかのように、僕を見た


「強いて私の今の心境を言うなら、楽しいだ、特にこのまるとつるんでいる時は楽しくて仕方が無い」


とても純粋で屈託の無い笑顔に変わって行く


黒子はとても複雑な考え方をしているようだけれど


決して悲観したり暗く物事を受け止めているわけではないようだ


そしてこれだけは言える


黒子は、誰かに対して悪意を持って生きてはいない


ボクは何人も、そういう人と出会ってきた


とても立派な考えで生きていて


立派な事をしてきている人であっても


誰かに対して悪意を抱いてしまうと、


黒いオーラのようなものに包まれてしまう


悠里は邪気とか呼んでいた


誰かを妬んだり、恨んだり、憎んだりする心の状態が続くと


その心の状態が呼び寄せる邪悪なオーラのようだ


人々から尊敬されていて、とても悪い人に見えないのに


その黒いオーラに包まれている人を何人もみてきた


この黒いオーラは少しずつゆっくりとその人に染みこんでいくと


その人の心は自分でも気がつかない位に少しずつゆっくりと歪んでいく


やがて気がついた頃には自滅を止められない所まできている事は少なくない


黒いオーラは、その人をゆっくりと壊してゆくのだ



黒子は口では辛辣で、醜い物言いをしていて


さらに、悪を賛美しているにも関わらず


黒いオーラを感じない


そうか、彼女は誰も恨んでいないんだ


誰に対しても悪く思っていない


どんなに酷い目にあってきたとしても


彼女なりの解釈で、悪意を相殺して来たに違いない


ボクはすっかり黒子の事が好きになった


考え方や生き方は、心が成長すれば変わって行くものだから


彼女はきっと・・・


「おいまる、コイツ何故泣いているんだ?」


「気にするな、コイツは生来の泣き虫なんだ」


そうか、ボクはまた泣いてしまったんだ・・・・


「まるに関わる奴は変人ばかりだね~」


黒子はとても楽しそうに笑った


それは屈託の無い子供のような笑い顔だ


そして、まるの方へ視線を移すと


彼女は跡形もなく消えていた


「まるの奴はまったく神出鬼没だわね」


まるが何故いつも単独行動をしているのか


多くの人は誰も信用していないからだと思うかもしれない


だけど、まるは黒子の事を全面的に信頼している


そうでなければ、ボクの能力の事を彼女に話したりはしないだろう


そして多分、比美加さんの事も信じている


では何故、単独行動に拘るのか・・・


まるは、自分がどれだけ無鉄砲で一か八かの賭けをしているのか自覚している


だから、失敗した時に被害を受けるのは自分だけ


そういう立場に常に立とうとしているんだ


ボクにはそんな風に感じて仕方が無い


多分これはまる自身、自覚しているわけではなく


無意識にみんなを守ろうという気持ちが働いているのだろうから


ボクは敢えて口にはしないけれど


時々彼女の暖かい気持ちが伝わってくるのを感じるから


これはボクがまるの事が好きだから、そう思い込んでいるわけではないと思う



黒子は空き巣の手口を徹底的に調べ上げ


伊集院家の警備状況もハッキングしながら、ルートを割り出して提案してくれた


「いいかお前を信じた訳ではないが、もし何かあった場合は、このボタンを押せ、一瞬だけ気を失える、能力が万が一暴走した時の用心だ」


黒子はスタンガンの原理で、


自分が感電する超小型の機械を作って手渡してくれた


彼女は自分が信じていないと思い込んでいるだけで


本当はとても純粋に人を信じてしまう性質をしているのかもしれない


しかも、心では信じているのに


信じていないと頭で思い込んでいる所が笑える


こうして、伊集院家の侵入を決行した


邸宅に忍び込むと、懐かしい匂いが感じられた


家にはそれぞれ、その家独特の匂いがある


どんなに消臭に気を配っていても、その特有の匂いは中々消せない


懐かしいにおいを感じながら歩いて行くと


悠里の部屋の中庭に辿り着いた


庭の木々たちはボクを歓迎してくれているのを感じる


ボクはその中で一番部屋に近い木に聞いてみた


(「悠里が何処へ行ったのかわからない?)


((ユウリ ワ サラワレタ))


その木が言うと、木も草もみんなが一斉に叫びだした


「悠里がさらわれた?」ボクはショックを受けた


今まで考えても見ない答えだったから


「まる、悠里が、悠里がさらわれた、悠里は自分の意志で出て行ったのではなかったんだ」


ボクはまた涙が止まらなくなった


こうなると、悠里の安否が不安定になって行く


「やはりそうか、泣くな、どんなルートで何処へ連れて行かれたか、植物を辿って行く事は可能か?」


「うん、やってみるよ」


まるは、やはりそうかと言った


最初から解っていて、ただ確認に来た感じに思えた


不思議だけど、さっきまでボクに纏わり着いてきた不安の闇のオーラが


まるの言葉で一瞬にして消えたのを感じた


まるは予見していたんだ


そして、悠里は生きている、まるは悠里を探すことを諦めてはいない


合理的で無駄を嫌う彼女が、生死の判らない相手を探すなんて考えられないから


勇気が心のそこから沸き起こってきた


「これはまだ、試した事は無いんだけれど、ひとつの可能性を試してみる」


そういうと、一番部屋に近い木に額を当てて目を閉じた


深い暗闇の中にイメージが薄ぼんやりと見えてきた


そのイメージは悠里の部屋になって行く


それは丁度、現像液に沈められた写真の画像が少しずつ浮かびあがるように


そのときの悠里と、三人の男の姿が映し出されて行く


これは写真ではなく映像のようだ、動き出した


会話の内容までは判らない


木たちは人間の言葉を理解していない


気持ちを感じ取っているだけだから


悠里はこの三人と会話して、暫く考え込んでいたがやがて


首を縦に振った


無理やり連れて行かれた訳ではないようだ


メモを書くと、三人に導かれるまま、外へ出た


三人に悪意は感じない、けれどとても急いでいる様子で


悠里の手を引っ張って行くので


中庭の草木たちは、さらわれたと勘違いしたのかもしれない


ボクは、今見た事をまるに言うと


まるは、少し考えるとそのまま外に出ることにした


悠里たちは外に止めていた車に乗ったらしい


その車の追跡まではとても出来ない


悠里の行方はますます、見えなくなっていく


「詩織、念写って知っているか?」


黒子からの携帯の言葉だ


僕たちの一部始終は彼女につけられた、超小型マイクとカメラで把握しているようで


「念写すればいいね、そこからは私が何とか探し出してやるから」


携帯からの黒子の声は冷淡なほどクールだった


「念写ダメでも、モンタージュというてもあるから、心配ないね」


この淡々とクールに話す声から、暖かい気持ちが流れ込んでくる


そうだよね、まだ諦めるのは早いよね


ボクも頑張ってみるよ、


念写はした事は無いけれど


頑張ってみる


「詩織は泣き虫だな~、収穫は充分あった、私が思ったとおり過ぎて興ざめしたけどな」


まるの言葉の響きは希望に満ちているように感じられる


どうしてだろう、ボクは勇気に満ちてくる


「ここからだ、やっと相手の存在を掴んだ、一体どんな手を使って悠里を連れて行ったのかは判らないが、見つけ出すのも時間の問題だ、なぁ~黒子」


「ブラックチルドレンの力を見せてやるね」


携帯から黒子の楽しそうな声が響いてきた


「まるは最初から悠里は自分の意志で出て行ったのではないと知っていたみたいだけど、どうして解ったの?」


「悠里はとても優しい男だったんだろ」


ボクは首が取れるかと思うくらい首を縦に振った


「そんな優しい奴が、家督相続問題の解決のために、最愛の人を悲しませるような真似はしないと思ったからだよ」


それは多分比美加さんの事だよね


悠里は口にはしなかったけど、比美加さんを深く愛している事は


能力を使わなくても解る


「悠里の事は調べたが、相当頭が良いようだ、多分比美加を遥かに凌ぐほどにな、そんな奴がこの家督相続を治める事で苦労するとは思えない、まして比美加が悲しむような行方不明なんて選択をする筈は無いんだ」


「比美加さんは悲しんでいるの?」


「アイツの心に、雨が降っている、ずっと降り続いていて晴れやしないから、私が無理やり晴らしてやるしかないんだ」


そういうと、まるは夜空に輝く月を見つめた


頬に一滴流れ落ちたのは、比美加さんを思う熱い気持ちなんだね


そうか、比美加さんは悠里がいなくなって悲しんでいるんだ


ボクは今まで彼女はなんて冷たい人なんだと思っていた


悠里が行方不明になってから、一度も悠里を探そうとはしていない


風の噂で、無責任な男に興味は無いなんていっていると聞いていたから


だけど、まるに涙を流させるのだから


間違いなく、比美加さんは、とても深く悲しんでいるんだ


きっと、比美加さんは意志が強過ぎて、心の奥まで感じないタイプなんだ


時々子供でもそういうタイプがいる


能力を使っても奥まで感じられない


ボクは理不尽かもしれないけれど


比美加さんが、悠里の事で心を痛めた事が嬉しく思った


彼女は決して冷たい人ではなかったのだから


「行くぞ詩織、悠里を見つけ出し、引きずり戻してやる」


「うん」


まるといるとボクは笑顔になれる


そして心が勇気と希望で満たされて行くんだ


きっと悠里は見つかる、今はそう信じられるから



つづく


外伝黒この場合 「純粋なる悪・前編」  ←黒子の物語

*

外伝 初恋 「そしてボクは君が好きになる」  ←詩織の物語

*

第三話 「矢部健吾のつぶやき」

* 

初めから読む

*

もっと、初めから読む  ←ありきたりな日常、特別でない日



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詩織の視点で書くと


泣き虫がうつるみたいで、書きながら涙がこぼれてきます(--。。


なんだろうね~


この子は決して純粋だけではないんだけれど


まっすぐに生きている感じがします


彼の視点で見ると


今まで見えなかった黒子の一面がいとも簡単に見えてしまうΣ(@@;)


とっても不思議です


きっとこれが個性というものでしょうかね


人それぞれ見えるもの見えないもが違うから


自分には見えていないものが、友人には見えていたり


友人に見えていないものが私にはみえていたり


もしかすると


真実には一人では辿り着けないのかもしれない


一人では通過できない道もあるって感じました


単独行動大好きな私が言うのも変な話ですが(>▽<。。)ノ))




まる☆