ボクは多分ものこごろついた頃には


植物の気持ちが理解できた


最初は言葉というハッキリしたものではなく


ただ気持ちが伝わってくる程度のものだったかもしれない


小学生くらいになると


ボクがたくさんの言葉を覚える度に


植物や動物達の気持ちは言葉のように感じるようになった


それはまだ、小学生にもなっていない頃の事


その日は蒸し暑かった


真夏でセミの声が響いて


まだコントロールがうまくいかないので


強い思いは僕の心に直接ダメージを与えた


無数のセミ達の思いが一斉に僕の心に流れ込んできて


ボクは気が変になりそうになったとき


一人の子供がボクに近づいて来た


その子はおへその下あたりに手を当てて


「ここだよ、ここで息をしてごらん、ゆっくり」


その子の言う通りにすると少しずつセミ達の思いは小さくなっていった


「君は虫の気持ちがわかるんだね」


その子は少しボクより年上だろうか


最初は女の子かと思うくらい可愛らしい顔立ちで


その優しげな笑顔が心に残った


「虫だけじゃないよ」


ボクは公園に植えられていた、ひまわりを指差した


その子が何か言いかけたとき母が呼んだので


そのままその子と別れた


「もしさっきのような事があったら、今のように息をしてね、他の事を考えると良いよ、例えば今日のおやつの事とかね」


別れ際にその子は教えてくれた


そのお陰だろうか


少しずつコントロールが出来るようになってきた


ボクのこの力は、ボクの成長と共に強くなって行く感じだ


やがて動物達の気持ちも感じ取れるようになると


ボクはとても悲しい現実とぶつかる事になる


それは季節では秋だったけれど


まだまだ昼間は暑い日が続いたある日


少年と出逢った公園に


最近二匹の猫が住みついていたのだけれど


その一匹がボクが近づくと


(来るな、近づいて来るな)


そんな風にボクを睨んでいた


よく見ると、もう一匹のお腹に矢のようなものが刺さっていた


その猫は虫の息でかろうじて生きている


誰かが面白半分に猫に矢を当てたのだと


小さかったボクにも直ぐに理解できた


涙が止まらなくなった


「ごめんよ」


ボクがしたわけではないけれど


これは人間がした事だ


こんな酷いことをする人を責めるだけなら


ボクは人間ではなくなる


人間である以上同じ人間がした事に対する責任を感じるべきだ


そうでないと、他人事になってしまう


人間の世界だけでのことならそれも良いだろうけれど


相手は人間以外の生き物なのだ


人間が酷い目にあわせてしまった相手には


自然と出てくる言葉だと


ボクは頭ではなく心で感じていた


「酷いことするよね、ごめんよ」


当時はまだ小さいボクにはその猫を助ける術が思いつかなかった


「どうしたの?」


そのとき、ここで出会った子の声が後ろから聞こえてきた


「この猫が酷いことに・・・」


胸がいっぱいでボクはそれ以上何も言えなくなってしまった


その子は猫を見ながらボクの肩に手を置いた


「大丈夫、今ならまだ間に合うよ」


そういうと、猫に手をかざした


「君、この矢を抜いてやってくれ」


ボクはいわれるまま矢を抜くと


血が吹き出した


ところが、猫の傷はみるみる治って行く


「お水をあげよう」


もうスッカリ元気になった猫にボクたちは誰かが置いていったお皿に


公園の水道の水を汲んできて猫達にあげた


「このことは、ボク達の秘密にしよう」


「どうして?」


「ボク達のこの力は、きっと特別なものではないと思う、ただみんなはまだ目覚めていないだけ、だけどね、早く目覚めすぎる人はみんなから拒絶されてしまう」


ボクより少しだけ年上なのに


その子は難しい言葉をたくさん知っているようだった


「きょぜつ?」


「受け入れられないんだよ、恐いと感じるから消してしまいたくなる、だからね、君も誰一人君の力の事は言ってはいけないよ」


「お母さんにも?」


その子は頷くと念をおすように「誰にもだよ」と言う


「うん」ボクが頷くと、その子は手を差し伸べてきた


それが握手というものだとボクはテレビで知ってる


ボクは初めて握手というものをした


ちょっぴり大人になったような気持ちで嬉しい


そして、その子の優しい心が流れ込んできたように思えた


「ボクは伊集院悠里だよ君の名前は?」


「ボクは真風詩織だよ」


ボクが女の子のような名前なのには理由があった


ボクは実は双子だったけれど、妹は生きて生まれる事は出来なかったらしい


その時用意されていた妹の名前をボクにつけることで


父も母も心の折り合いをつけたようだ


そのことを知ってから


ボクは妹の人生を背負っていると思うようになった


これが悠里との出会いだ


ボクと悠里とその弟の汰加耶の三人はまるで本当の兄弟のように育った


ボクにとって幸運な日々だったと思う


この血の繋がらない兄弟は


悠里の家の家督争いで、


悠里と弟の汰加耶は引き離されてバラバラになってしまった


そして、ある日悠里が消えてしまった


突然ボクはたった一人何も無い荒野に置き去りにされた気持ちになった


悠里が僕を置いて何も言わず何処かへ行くとは思えない


だから、ボクは悠里は何ものかに連れて行かれたと思う


小学生も高学年くらいになると


人の心も少しずつ感じるようになっていった


悠里が僕の力について研究してくれたお陰で


ボクは力のセーブや心のバリヤーをつける術を身につける事が出来た


つまり、力のセーブが出来るようになる事で


気持ちを感じる事をを限りなく0に出来るようになった


その分力を解放すると人の心が言葉のような感じで伝わってくる


この力は最初リューディングだと思っていたが


そのうち、


ボクの考えを言葉を使わず直接相手の心に伝える事も出来ることに気がついて


ボクの力はテレパシーなのだと判明した


ただまだ人間には、上手く伝わらない時がある


植物や動物とは会話を交わせるようになっているけれど


この力は僕の成長と共に成長して行くのだとわかってきた


しかも鍛えなければ強くならない


「この力はスポーツや楽器の演奏と同じで日々修練しなければ上手く使えないらしい」


悠里の考えはそのようだった


「今はまだ科学では解明されていないだけで、きっとこれも人間が本来持っている力なのだと思う、いずれ科学が成長すればこの力の正体も解き明かされるだろう」


悠里はいつもボクの道を示してくれていた


彼がいなくなった今、まるで羅針盤をなくした船のように途方にくれてしまう


家督争いの為にボクは伊集院家に出入り禁止になっている


悠里の部屋の前の庭に行く事さえ出来れば


そこにいる植物達にことの経緯を聞く事も出来るのに


ボクは何度も忍び込もうとして捕まった


この力の事は誰にもいえない


第一誰も信じないだろう


だから、彼の部屋の前の庭に入るだけで


彼がいなくなった手がかりが掴めるかも知れないなんて説明できない


悠里の弟、汰加耶もこの力の事は知らない


けれど、彼と会うことさえ出来れば道は開かれてくるのだけど


悠里がいなくなってから家に閉じこもったまま出てこなくなったらしい


携帯も持たない僕には彼とのコンタクト方法が見つからない


そんなある日


伊集院の邸宅の前にある池に立っている松にもたれて腕を組んでいる


まるを見つけた


もう二年も前、小学生だったボクは悪がき達に絡まれていた時


彼女に助けられた


彼女は空手をしていて、あっという間に悪がきたちをやっつけた


一発だけ蹴られたけれど


それは道に生えているタンポポを庇っての事だと直ぐに判った


タンポポが彼女にありがとうと言っていたからだ


「ケッ口ほどにも無い、組み手の練習にもならなかったぜ」


「ありがとう」


「礼はいらない、丁度ムシャクシャしていたから、八つ当たりだ」


そういうと、大笑いした


「ボクではなくて、そのタンポポが君にありがとうって言っているよ」


最初ビックリした顔をしていた彼女だけれど


タンポポに向かって


「礼には及ばないよ、私のケンカに巻き込んでこっちこそ悪かったな」


その言葉は明らかに自分が人間であり


だからこそ、人間以外の生き物に対する優しい気持ちだと感じた


「ボクのことを信じてくれるの?」


彼女は暫くボクを見ていたが


「お前は嘘がつける程知恵があるとは思えない、第一そんな嘘は意味が無い、という事は信じ難い事だけれど、お前がコイツの気持ちを感じ取れると思うしかないからな」


彼女は常識には捉われていない思考の持ち主だと直感した


「気持ち悪くない?植物の気持ちが解るなんて・・・」


ボクは初めて悠里との約束を破ってしまった


「なんで?便利じゃないか、落し物した時とか植物に聞けば解るし」


そういうと大笑いした


なんなのだろう?彼女といるとボクは心が救われて行く気持ちになる


「人間の心も読めるのか?」


「時々は感じる事もあるよ、でも殆ど判らない」


「それは良かったな、判らないほうが面白いからな」


彼女は完全にボクの力を認めてくれている


「でもボクが成長すると、この力も成長するみたいなんだ、だからそのうち人の心も感じるようになるかもしれない」


「そっか~それは難儀だな、その力コントロール出来ないのか?必要なときだけ使えるようになればいいだろ」


彼女のお陰でボクたちは力のコントロール方法をあみ出す事が出来た


「私はまるだ、お前はなんていうんだ」


「真風詩織だよ」


「詩織かぁ~可愛らしい名前だな、もっと女の子らしい服着れば可愛いと思うぞ」


そういう彼女は短パンにTシャツでしかも男物だった


しかも、完全にボクが女の子だと誤解している


「ボクは男の子だよ」


流石の彼女もそれには驚いた顔をした


「うそつけ、そんな可愛らしい男子がいてたまるものか」


「本当だって、ボクは男の子だよ、確かに名前は女の子っぽいけどね」


突然まるは大笑いした


「お前って何から何までややこしい奴だな」


そういうとまた大笑いする


「そんな事言われても全てボクのせいじゃないよ」


まるは笑いながら「違いない」と何度も頷く


ボクはその度に今までの心に受けた傷が癒されて行くのを感じた


彼女にしてみれば、ボクの力なんてものはただそこにある自然の木と同じ


あるのだから仕方が無いくらいにしか感じていないそう思える


「まぁ~これも個性だ、持って生まれたものだから諦めてどうそれと付き合うか考えるんだな」


彼女の一つ一つの言葉に救われて行く


「世の中がまるのような人ばかりなら良いのに」


ボクは自然とそんな事を考え口にした


「バカな事言うなよ、私みたいなのがゴロゴロしてみろ」


そういうと、ツカツカとボクに近づいてきておでこが当たる位顔を近づけた


「そこら中ケンカだらけになるぞ」


また大笑いして、ボクの肩を叩いた


ボクは生まれて初めてドキドキと心が高鳴るのを感じだ


これがきっと初恋というものなのだろう


「じゃあな、あっこっちにも、じゃあな」


まるはボクとタンポポに挨拶して去っていった


ボクは暫く寝ても覚めても彼女の顔がチラつく日々を送った


それから二年それも淡い初恋の思い出になっていたけれど


こんな所で、まると再会するなんて


ボクの心は、またドキドキと高鳴り始める


そういえば、彼女との出逢い以来、誰にもこんな感情を抱いたことがなかった


「あの、ボクの事覚えている?」


ボクはたまらず、まるに話しかけてしまった


「詩織か、今考え事しているから少し待っていろ」


彼女はまるで、昨日分かれた友達のようにボクに話しかけてきた


あれから二年も経っているというのに


まるでそんなものは彼女には関係もない


別世界の価値観だと思えるくらい自然な言葉だった


「詩織、お前この邸宅の住人で伊集院悠里って知っているか?」


「うん、友達だよ」


「お前何泣いているんだ?」


「えっあっ多分まるがボクの事覚えていてくれたのが嬉しかったからかも」


「はあ?そんな事ぐらいで泣くんじゃない、相変わらず女の子みたいな奴だな」


どうしてなんだろう、ボクはいつも彼女の何気ない言葉に救われる


「でもどうして悠里の事を?」


「ちょいと理由があってな、その悠里って奴を見つけ出さないといけないんだ」


「ボクも丁度悠里を探しているんだよ、悠里を見つけてどうするの?」


「そうか、そいつをみつけたら、思いっきりぶん殴ってやる」


「えええっなんで?」


「優しすぎるのも大概にしろってなっっ」


「優しすぎると殴るのか?」


「お前は判らないのか、優しすぎるってのはどれだけ残酷な事か、私の親友の心をどれだけ傷つけて来たのか」


ボクは西園寺比美香の顔がチラついた


ボクは彼女が嫌いだった


でも悠里はまるで彼女の為に生きているように優しかったのを思い出す


でもそれがその比美香を傷つけて来たのだと


まるは解釈しているらしい


「それは西園寺比美香って子のことかい?」


「おおおとうとう人の心を読めるようになったのか」


ボクは首を縦に振ると


「でも君の言ったとおり力をセーブしているから今は何も感じていない、ただ悠里が好きな子だったからね、なんとなくそう思ったんだ」


「良かったじゃないか力をコントロール出来るなら余計な事知らないで済む」


「でもボクは彼女が好きじゃない」


「そうか、私も大嫌いな奴だよ」


「えええ?大嫌いなのに親友なの?」


まるは頷くと初めて大笑いした、とても懐かしく感じる


「いちいち泣くな、あの高慢ちきな高飛車女を好きな奴なんているのかね」


そういうと大笑いして


それでもその後とっても優しい顔になった


きっと本当は彼女の事が好きなんだと


力を使わなくて解る


まるはその比美香の為に悠里を見つけ出すつもりなんだと思った


「でもボクには判らないよ、好きな人が行方知れずになっているのに探しもしないなんて」


「まったくだ、アイツは頭が固すぎるんだよ、余計な理屈で凝り固まると人間生き辛くなるばかりだよな」


まるの口ぶりだと、探さないのは彼女の本心ではなく


彼女の考え方がその気持ちにブレーキをかけていると言う事になる


「だから、その考えをぶっ壊してやることにしたんだよ」


「えええどういう事?」


「お前って百面相だな、それだけ表情豊かだとなきっとボーカー弱いだろ」


図星だったテレパシーを操る力を持っていながら


ボクは思っている事が直ぐに顔に出てしまうので


結局相殺されて、心理戦はまるっきり弱かった


「どちらにしても、悠里って奴の手がかりがまるで掴めない」


まるは伊集院邸の門を見つめた


ボクはまるの前に立って門を見つめると


「あの中に入ることさえ出来れば、何か手がかりがつかめるかもしれない」


「それはどういうことだ?」


ボクは振り返りまるをみた


「忘れたの?、ボクは植物とも心がを通わせる事がてぎるんだよ」


「面白い、それなら手を組もう、今のところ私等の目的は同じだからな」


彼女は手を差し伸べてきた


ボクは二度目の暖かい握手をした


こうして、ボクはまると一緒に悠里を探し出す事になった



本編はこちら


↓↓↓↓


氷の世界~君はまだ知らない~第一話



ありきたりな日常、特別出ない日 第一話




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ブログ友達にまるには恋人できないのと言われて


色々と考えてみたんだけど


どうしても浮かばない・・・・(--。。


それでも、ずっと考えてみたら


詩織が生まれた(≧▽≦)


果たして恋に発展するかどうかは判らないけれど


まるに恋する女の子のような男の子


その詩織の視点でかいてみました\(*´▽`*)/


これは、まるが比美香に宣戦布告する前の話ね


勘のよい人なら、


伊集院家の珍騒動を起こしたまるの狙いがこれで見えてきたかもですね


不定期なのに、外伝ってありえないかもですが


この詩織は恐らく今回のキーマンの一人になりそうです♪


久々に書く時間が出来て良かったです☆☆☆



まる☆