「体育館でのお昼ご飯も、すっかり馴染みの風景になってきましたわね。」
「ええ、お嬢様。みんな時間を惜しんで練習してますから、お弁当を体育館に持ち込んで即練習、という効率的ですね。」
「赤尾先生と一緒にお昼を食べる口実ってわけだ!」
「違うわよ、真理亜!
私達はメインキャストとして細かい打ち合わせを…。」
「そうですよ!僕は決して特定の生徒には…。」
「キャ~赤尾先生可愛い~。
篠山先輩の魔性ぶりはユダにぴったりだから、リアルでも魅了されちゃ駄目ですよ~。」
「こら、人聞き悪いわね!本人と真逆だから役になりきれるとも言うでしょ!」
「はは、そうですね。讃美歌を歌ってる時の篠山さんは、とてもユダを演じてる女生徒には見えませんよ。」
「やだ、赤尾先生聞いてたんですか?恥ずかしいです…。」
(いい感じじゃない…頑張りなさい五月…。赤尾先生が貴女しか見えなくなるにはもう少しよ…。もう少しなんだから…。)
「でも、あの理事長がこの演目『その男ユダ』を了承してくましたね…。」
「真理亜だけの提案だったら即却下だったろうけど、これは演劇部に私達が出さして貰うだけじゃなく、聖歌隊コーラス部と、聖書研究会の共同制作だからね。
それにあくまで創作演劇なんだから宗教的、政治的な思想とは別よ!」
「ありがとう、みんな…。持つべきものは信頼出来る仲間ね…。
でも、理事長が首を縦に振った最大の理由は『この演目を認めないと、私達は懺悔室パブを強行…。』」
「こら~!赤尾先生の前でそれは秘密!」
「どうしました、篠山さん、三好さん?」
「ううん、なんでもありませ~ん。」
「それよりも五月、赤尾先生、剣崎『監督』この演目の最大の見せ場なんだけど…。」
「その話はお断りしたはずですわ!
高校生の演劇としてはあまりにも破廉恥な…。」
「でも、それがあってのユダとイエスの間柄よ。避けて通れないわ。」
「真理亜どういうこと?ごめん、私いまいち聖書の話って苦手で…。」
「剣崎『監督』気にし過ぎですよ。仮に演目が『ロミオとジュリエット』なら当たり前の様に挿入されるシーンよ!」
「三好さん、それって最後の晩餐で…。」
「流石、赤尾助祭様。そうよ、ここがクライマックス。ローマの衛兵達に、誰がイエスかを教える為に、『僕がキスする相手がイエスです。』って、苦悩の末に口づけを交わすユダと全てを受け止めるイエスの場面よ」
(続)