「あ! もうすぐ12時(24時)や!!」


昨晩のこと。

いつものように、アタシは恋人のもとを訪れていた。

2人して眠っていたところ、彼が電話で呼び出しをくらい、起きたついでにアタシもトイレに行って、帰ってきたところだった。


時刻を確認しようとケータイを取り出すと、23時56分。

あと4分で日付が変わる。


「あー、そやなぁ」


それが何? とでも言いたげな彼の口調。


「あと4分で妹の誕生日や!」

「あぁ、そやな」


何日か前からずっと言っていたので、彼も覚えていたようだった。


「21(歳)やで、21(歳)!」

「21(歳)かぁ。若いなぁ。俺と同じやな」

「はぁ? なんでやねん(笑)」

「俺と同じで若いわ(笑)」

「ていうか、10歳以上違うし」

「ふふふ。知ってる。ひと回り違うやろ」

「……あ、そっか。ヘビ(年)やっけ?」

「うん、俺ヘビ(年)やで」

「ホンマにひと回りやぁ!!」


おそらく以前にも、“ちょうどひと回り違う”というような話をしたことがあったように思う。

でも、アタシは完全に忘れていた。

どうやら彼のほうが覚えていたっぽい。


「うちね、父親もヘビ(年)やねん」

「あー、そうかー。ヘビだらけやな(笑)」

「うん(笑)」


巳年の人に縁があるのかな、なんて、ちょっと思ってしまった。



「21(歳)かぁ……」

「まだ21(歳)か。若いな」


彼の言い方が、ものすごくオッサンくさい(笑)


「そっか、人から見ると“まだ”ってなるんや。アタシにとってはさ、やっぱり歳が離れてるからやと思うけど、“あの娘がもう21歳!?”って感じなんよねー」


アタシが彼に出逢った のが、ちょうど21歳のときだった。

だから余計にそう思うのかもしれない。


あの頃はまだ、彼も“四捨五入して二十歳”と言える年齢で……そう思うと、ずいぶんと年を重ねた気がする。





付き合って、来月半ばで丸8年。

でも、プチ遠恋&仕事の休みが合わないゆえ、最初の5年ほどは、会うことすらままならなかった。


しかも、彼がマメではない&アタシが頻繁に連絡を取り合うのが苦手な性格だったため、電話もメールも必要最低限しかせず。

というか、最初の半年は、お互いのメールアドレスすら知らなかったっけ(笑)



ちなみに必要最低限というのは、


1.デートの日程と待ち合わせ場所、時間の調整

2.デート当日、待ち合わせ場所に着いたという連絡

3.デートの後のお礼


おおかた、この3つに限られていた。


だから、1カ月会えないときは1カ月、2カ月会えないときは2カ月、まったく音沙汰なし。

友達からよく、「それってホンマに付き合ってるの?」と言われたりした。



会うことも少なければ、連絡を取り合うこともない。

会えたとしても、数時間でバイバイということも少なくなかった。


だから、付き合っている年数は長くても、会っているトータル時間は他のカップルに比べてずっと短く……。

それに比例して、関係も希薄なんじゃないかと、不安に思う気持ちもあった。

だったら、もっと頻繁に連絡を取り合えばいいのだろうけれど、それはやっぱり、精神的に負担で。


3年半前に彼が2つ目の仕事を始めてから 、会える頻度が多くなり、さらに2年前、アタシがひとり暮らしを始めてから 、落ち着いて会えることが増えた。

だけど、“昼間”であるとか、“お出かけ”であるとか、そういったキーワードには相変わらず縁がなく、不安はぬぐい去れなかった。


たまに実家に帰ると、歳の離れた妹が、毎週のように彼氏とデートをし、テーマパークへ遊びに行ったり、旅行へ行ったりしていて、さらには両親までが、その妹の彼氏のことを親しげに呼んでいて、先を越された感が否めず、自分たちの関係が一層希薄に感じられて焦りを覚えた。




でも……


昨晩、こんなことがあった。


アタシを舌でさんざん攻めた後、彼は、「なんか最近、楽しくなってきた」と、うれしそうにつぶやいた。


「それはなんで?」


そうアタシが尋ねると、


「わからん(笑)」


と、彼。

しかしそのすぐ後に、


「まぁ、それはあれちゃう? あなたが気持ちよさそうやからちゃう?」


と、まるで他人事のようにそう言った。


「やっぱりあれってきもちい?」

「え……うん……(汗)」


アタシが目を逸らすと、彼は可笑しそうに笑う。


「まぁ、エッチっていうのはさ、もちろん愛を確かめ合うっていうのもあるんやけど、究極のコミュニケーションの形でもあると俺は思ってるねん。だから、こないだも言ったように、よりよくできるものなら、よりよくしたいって思うわけよ」

「うん」


彼の言葉に頷く。

ちょうど、彼が言う“こないだ”のこと を、前の晩にブログにアップしたな、と思いながら。


「もうさ、恥ずかしくもないやろ? ……やっぱりまだ恥ずかしいとかあるん?」

「え~、恥ずかしいよぉ……」

「こんなにお互いのこと知り尽くしてるのに? もう付き合いだってだいぶ深いわけやしさ、恥ずかしいことなんてないやろ。だって、知らんことのほうが少ないやろ?」


付き合いが“長い”ではなく、“深い”と言ってくれたことが、妙にうれしかった。


“付き合って8年”というと、おそらく長いほうに分類されるだろう。

でも、かえってそれが、アタシを苦しめていた。

“8年も付き合っているのにまだこんな希薄な関係なのか”と。


だから、人から“長い”と言われることは、ときに苦痛だった。

それをわかっていたわけではないだろうけれど、彼は“長い”ではなく“深い”という言葉を選んだ。

無意識的にそう思ってくれているんだと、救われた気分になった。



「うん、そうかも。でもね……知り尽くしてたとしても、恥ずかしいもんは恥ずかしいんやもん(泣)」

「ふーん、そうなん?」

「うん……」



(そっか、人と比べて焦る必要なんてないんだよね。アタシはこの人を信じていれば、それでいいんだ)


そう思うと、心がスーッと軽くなった。




今頃、彼はバスの中。

スキー&スノーボードツアーで、白馬へ向かっている。


普通のカップルであれば、こういうとき、“今からバスに乗るよ”“行ってらっしゃい。気をつけて”なんてメールのやり取りをするのかもしれない。

しかし、相変わらずアタシたちに、そういう習慣はない。


みんながそうだからといって、無理してそんなやり取りをしなくてもいい。

アタシたちは今までどおり、お互いを信じ、自分たちのペースで、自分たちのやり方で、付き合いを“深めて”いけばいいんだと、今はそう思える。


(怪我しないで無事に帰ってきてね)


バスの中で寝てるであろう彼に、とりあえず念を送っておいた。