山口瞳『新東京百景』(山口瞳氏と浅草ロック座)② | 60歳を超えて

60歳を超えて

なんだかんだといっても人間60歳の還暦を迎えてしまい、今までの経験したことなど反省の意味を込めて残して行こうと思っています

前稿の続きです。

山口瞳氏『新東京百景』の第三景の「浅草ビューホテルからの眺め」とある部分です
 ※所々乏しい私の経験上から注を入れました。

1986年(昭和61年)3月20日、(当初の予定では21日であったが、雅麗華さんの出演が20日までだったので早まった。当時は10日刻み?)書き出しはこうだ、"千変万化であるという。・・・浅草のロック座というストリップ劇場に雅麗華という人気一番の踊り子がいて、その、なんだ、ナニが千変万化するという話を聞いた。"から始まる。それを確認する必要がある!で行くことになったのである。ところが山口瞳氏は前日毎日新聞社で、こってりとした仏蘭西料理を食べたので胸がムカムカ、年度末のことで道路も渋滞して、国立から浅草まで3時間もかかった上、その上、治そうというつもりで当日飯田屋でさらし鯨で酒を飲んで、泥鰌のマル、を腹に収めて劇場に向かう。最前列でロック座の音響、照明のなかにいるうちに・・・そこでの感想は"ロック座の踊り子は、顔もいい肌もいいスタイルもいい、踊りも巧い・・・"ついに嘔吐を催し、廊下に出て長椅子に横になる。

"それでも、例の千変万化を見るまではと頑張っている。雅麗華嬢も出た筈なんだが、確とはわからない。どうも小型でスタイルのよくないのが一人いたが、それがそうらしい。とにかく非常に若くてイキのいいのがいた。"見かねた劇場の人が劇場主の住居が7階にあるから・・・とそこのソファーに案内される。そしてホテルへ帰る時に劇場のトイレに行ってそこで失神する。(ご存知の方は、浅草ロック座は客席を通って舞台下手側にあるので、客席を通らねばならないのである)

トイレでの様子からは脳溢血や脳梗塞に酷似していたので、救急車ということになる。救急車の到着と公園派出所の警官二人、客席はどよめいたであろうと推測される。担架に乗せられて運び出されるときに片目を開いて"そこで僕は、ついに見たのである。出臍(盆)狭しと乱舞する雅麗華嬢の部分が妖艶かつ可憐に千変万化するのを・・・(後で香盤表で調べると、曲は「ジャポニカ」であったようだ)"とある。

※雅麗華さんは1985年08月01日浅草ロック座でデビュー、2007年1月30日 浅草ロック座にて引退されました。
 山口瞳氏が観たのは、雅さんがデビューしてまだ一年生の時です。残念ながら当日の香盤は不明です。
 「舞姫伝説」では「浅草ロック座の華」(10・15号の2回登場しています)
 原芳市氏は10号では:雅の舞台はいつも華がある
        17号では:舞姫になるキッカケは何かの不思議な出会いが・・・
とコメントされている。

山口瞳氏がそこで辞世の句を思いつかれた。(それぐらい苦しかったようで)
 今開く雅麗華の股座(またぐら)を眼にとめて世を去らむとす
 
※この時のロック座の出来事を雅ママは覚えていらっしゃるだろうか・・・「居ざっく」に行く時のネタが・・・
ちなみに、「居ざっく」の最近は「スザンヌさん」のBlogにレポートがあります

浅草寺病院に担ぎ込まれた。そこで"浅草ビューホテル、ロック座の人たち、救急隊員、浅草寺病院の医者と看護婦、全ての男女が実に親切だった。その親切のやり方が下町風だった。人情に親身があってアッサリとしている。(同行した編集人は)ここに永住したいと言い出す始末である。"と、そんな事件があったのだが、山口瞳氏は浅草がとても気に入っておられる。浅草のことを"下駄履きで歩ける町という人がいる、僕は無精ひげで歩ける町と言う。"と、これからも浅草ビューホテルを拠点に4月に。(今度は雅麗華嬢がいない)江東区の夢の島へ。

第9景では浅草ROXへ、それから随分あとになるが、ここの地下一階に糸井重里さんの店があり、そこに吉本ばななさんがアルバイトしていたのは先に述べた。→吉本ばなな
そこでROXの店にも入って"ROXは・・・、これに対して浅草は老人の来る町だから、もっと老人の心が癒されるような店があってもいいのではないかという声を聞いた。僕には判断がつかない。ナニ、若者だって、すぐに老人になるのだ。不思議なことに、浅草というところは、何をやっても、たちまち浅草になってしまう。原宿全体を浅草に持ってきても、浅草になるだけだ。・・・"と、されている。私も度々取り上げてきたが、浅草にはそういうところがある。再開発の波が押し寄せている昨今だが、数多の文人文豪の愛した浅草が残っていくことを祈ろう。でもどう変わろうが浅草は浅草で有るから、どっこい浅草にしてしまうのだろう、楽しみである。

この『新東京百景』は実に面白い、ことに国立市民でもあり、年齢的にも「ウンウン」と馴染みのある場面が出て一気に読んでしまった。機会があれば一読をおすすめします。ただしバブル時代を多少ともご存知ならばもっと面白く読めます。