《第四十八回:美髯の流儀》

「寄せ集めにしては、なかなかだ……」

飴と鞭、褒賞と恐怖で傭兵たちを
コントロールしている《リンクス》の
リーダー・リカルドのやり方を
美髯は見ている。

「たとえ戦闘の只中にあっても
耳を澄ませ、心を澄ませておけば
見えぬものが見え、聞こえぬものが聞こえる」
という黄龍の教えを美髯は体感しようとした。

「突っ込めー‼」
リカルドは不利な戦況を好転させようと
奇襲と突撃を繰り出す。

その防戦を美髯はこともなげにやれると
自負していたが
この戦闘に負ければ、また縄張りを失うという
崖っ淵の強さがリカルドを鬼のように前進させ
美髯の部隊は時として押されてしまう。

それでも、美髯は防戦する配下の中心に
静かにたたずんでいるだけだった。

「ここで奴らと真正面から戦うのはたやすい。
しかし、それでよいのかどうか……」

負傷し、倒れた傭兵に罵声を浴びせながら
前進してくるリカルドを美髯は眺めていた。

そこへ伝令がやってくる。
「雪麗さま、見事に勝たれました。
春麗さまもご無事です。探偵さんもそのお仲間も」

「そうか」とだけ返事をすると
美髯はまた静かに敵を眺めていた。

戦闘の音が、遠く遠くなっていく……。

突然、大銅鑼が鳴り響いた!

各門、各出入り口は
マダムフラワーの配下・ブラックさんの部隊で包囲され
中華街の各門の大将がこの大通りの戦いに
参戦するという合図である。

リカルドの傭兵の中には逃げるものもいた。
そして、配下たちも大銅鑼の合図が
何を意味するかを知って逃げていく。

残された傭兵の数を見て
リカルドは小さく笑うと
美髯の部隊の正面に自ら出てきた。

「オメーはこの肉まん臭い場所に
産まれたのが最大の幸運だな。
それだけの話さ。
お贅沢過ぎてブラックタピオカと
一緒に毛玉を吐くんだろ」
リカルドはゲラゲラと笑った。

美髯の部隊の背後に
春麗、雪麗、番餅、青龍
そして黒龍らが精鋭を連れて現れた。

少し離れた焼売屋の軒先に
何やら頬張りながら私立探偵アサンガが立っている。

「のんきな奴だ……」と美髯は笑いたくなった。

アサンガは美髯を見つめたまま
小さな鶏肉のスモークを噛んでいた。

その目は、美髯の出す答えを
待っているかのように見える。

いや、中華街に関わるすべての
猫たちが美髯の出す答えを待っていた。

華陀の手当てを受けた黄龍も
目を閉じて、何かを待っている。

風が吹いた。
美髯は再びアサンガを見る。

アサンガは、真っ直ぐに美髯を見ながらも
ひたすら鶏肉のスモークを頬張り続けていた。
口元には笑みが浮かんでいる。

美髯の口からふと白楽天の詩が出た。
「蝸牛角上争何事……」

「成敗くれるぞ!」
美髯はぐいと胸を張ると
リカルドの部隊に自ら単身で飛び込む!!

次回、私立探偵アサンガは





《おまけ・飼い主さんのご感想》
あら〜。
いよいよ最終回ですか。
タイトルロールのアサンガ君
ほぼほぼ活躍しませんでしたが
終わるとなると寂しいですね(笑)

《バックナンバー》
第四十三回 私立探偵アサンガ
第四十四回 私立探偵アサンガ
第四十五回 私立探偵アサンガ
第四十六回 私立探偵アサンガ
第四十七回 私立探偵アサンガ