《第四十六回:挟撃と抱擁のあらすじ》

狭い市場通りでの
イリーガルとの戦いに苦戦した雪麗は
春麗を自警団【缶帝猫】の別働隊と
合流させるため、廻り道させ
イリーガルを前に囮になることを選ぶ。

イリーガルはジワジワと雪麗の部隊を包囲した。

しかし、その背後には番餅の部隊が
そして前方には私立探偵アサンガと
オレイユ、そしてオルソが駆けつけている。

番餅は黄龍から
「我らが劣勢となった時はいち早く門外へ逃げよ」
とだけ伝えられていたが
雪麗のことを思うと血がはやり
一存で出陣してきたのだ。

猛虎の陣を構え
その中心に番餅と八宝が身を潜める。

「八宝よ、早く仕掛けないと雪麗が危ない!」

イリーガルの部隊に囲まれた雪麗の部隊は
小さな手傷に徐々に体力を奪われ
息が上がってきている。

「お嬢ちゃんには悪いが
おれ様を相手にするのが百万年早かったな」

笑い声を上げて
イリーガルは雪麗に猫缶手裏剣を投げた。

配下が雪麗をかばおうと
身を投げ出すところへ、また手裏剣を投げる。

雪麗も配下も傷を負ってしまった。

「ヒャ、ヒャ、馬鹿な奴らだ。
それは、なんという陣構えだ。
負け犬の庇い合いか?
いや、猫だったな!」

イリーガルとその配下が声を上げて笑った時
「ギャ〜!」と1匹が悲鳴を上げる。

「そいつあ、愛を知らないお前には
構えることのできない陣立てさ」

イリーガルの配下を蹴飛ばした猫が
屋根から見事な着地をして現れた。

私立探偵アサンガである。

「メタボ探偵が!!」

イリーガルは、瞬時にアサンガを
配下で囲んだ。

シュッシュッと音を立てて
猫缶手裏剣がアサンガに投げられたが
アサンガの姿はすでに屋根の上!

「確かに。ちいと重いなあ……」

オルソがアサンガの体に巻いた
ロープを引き上げてから文句を言う。

狭い市場通りでは包囲した相手に
高所からの手裏剣がとても有効だ。

その攻撃をかわし、いかに素早く反撃できるかが
勝負の分かれ目である。

「今よ!」

雪麗はすぐに反撃に出た。

それと同時に、屋根のあちこちにラードを塗り終えた
オレイユが合図をして
アサンガとオルソ、オレイユも戦闘に加わる。

イリーガルが包囲していた後方部隊に
急ぎ、合図を出したその時

「今でござる!」

八宝の合図に番餅は采配を振り
イリーガルの部隊に突撃した。

狭い市場通りから分かれる
細い路地での激戦!

そこに、自警団【缶帝猫】に部隊を
合流させた春麗が
配下の華雲に部隊の指揮を任せて
少数の精鋭と共に引き返してきた。

春麗につけられた精鋭は
美髯の部隊の猛者である。

「雪麗!」

春麗の声に、危機を感じたイリーガルは
配下を見捨て、いち早く屋根へ上ったものの
オレイユの塗ったラードに脚を滑らせ
屋根から落ちることになってしまった。

凄まじい突撃を繰り出して
市場通りまで入り込んだ番餅の部隊の目の前に
屋根からイリーガルが落ちてくる。

「こいつか!!」

戦いの興奮から
仁王のごとき形相に変わった番餅が現れた時
イリーガルはすぐに察知しなかった。

しかし
「こいつは、へなちょこ二代目のボンボンじゃないか」
と気づいた時には
「えい!」という番餅の
気合いのこもった野太い声と共に
右脚の肉球に激しい痛みを感じることになる。

番餅はイリーガルを捕縛して
春麗と雪麗に引き渡した。

番餅の出陣と番餅が猛虎の陣で
突撃したことに姉妹は驚愕する……。

八宝が前に出て言った。
「番餅様の侍医が到着しました。
我らがお守りしますのでどうか傷の手当てを」

雪麗とその配下、そしてアサンガたちも
番餅の心配りに感謝し、手当てを受けて
短い休憩を取った。

春麗は、雪麗が深手を負わなかったことと
配下の奮戦を雪麗と抱き合って喜び
アサンガたちと番餅に深く感謝の言葉を述べた。

「珍しく殊勝じゃないか」
アサンガの呟きをオレイユが遮る。
「それにしても、番餅さんの突撃は凄かったですね」

春麗はうなずいて
「番餅さんのお祖父様は突撃の鬼と言われる方でした。
隔世遺伝なのかしらね……。
あら、雪麗はどこ?」

アサンガやオレイユもキョロキョロと
見回してみたが、雪麗の姿はみえない。

その時、小籠包500円と書かれた看板の陰で
雪麗と番餅は抱きしめ合っていた。
温かく、強い抱擁である。

次回、私立探偵アサンガは……。




《バックナンバー》
第四十三回 私立探偵アサンガ
第四十四回 私立探偵アサンガ
第四十五回 私立探偵アサンガ
第四十六回 私立探偵アサンガ