《第四十五回:合力の花のあらすじ》

自警団【缶帝猫】の出陣の合図である銅鑼の音が響き
春麗は後方に控える配下を振り返る。

頼みとする従兄弟の春雷をはじめ
多くの配下が初戦で負傷し
最終決戦に出陣する陣容には不安があった。

「雪麗、私の右翼へ」

春麗の言葉に、古参の華雲が静かに前に出る。
「右翼はどうか私めに」

ホッとしたような空気が
配下中に流れた。

しかし、春麗は
「右翼は雪麗のほかになし!
華雲殿は私の武芸の師。
どうか要の陣に身を置き、私とともに戦ってほしい」
と言い放つ。

これを聞き、見守っていた配下も華雲も涙ぐんだ。

春麗が決戦に用いる布陣「雲中白鶴」は
右翼が遊撃隊で囮である。

春麗が劣勢になれば
身を持ってその敵の追撃を食い止める
最も死傷率の高い部隊だ。

血縁で信頼の厚い歴戦の猛者が
受け持つに相応しい部隊である。

雪麗は春麗の妹で、姉同様戦上手ではあるが
この役目は重過ぎると、配下は心配した……。

しかし春麗は、華雲を右翼に置いて犠牲の盾とは
しないという気持ちを配下に表明し
華雲には、春麗と同じ部隊で戦い、
「私のために死なず、私とともに死ね」
と言っているのである。

春麗は武技においても、その心意気においても
「雲中白鶴」を陣として実施できる
希有な猫であり、当主だ。

妹の雪麗は、春麗の言葉を聞くと前に出て
配下に向かって笑顔で言い放つ。

「私が右翼に立って戦うには
味方の手勢が多すぎます。
転ばぬようについて来てください」

負けず嫌いの威勢のいい雪麗の言葉に
春麗も配下も勇気づけられる。

黄龍からの伝令が駆けつけ、
「ご出陣を」とだけ告げて去って行った。

市場通りまではほぼ直線の通路を選び
市場通りへの通路の入り口に立つと布陣の通り
遊撃と囮の右翼が前に出て雪麗が前進していく。

自警団【缶帝猫】が少し離れた所で奮戦している音がしている。

敵が現れると、雪麗は自ら先頭に立って戦った。

「これは、面白いことになったな。
可愛いお嬢ちゃんじゃないか」

敵のスパイの頭領であるイリーガルが
雪麗を屋根から見下ろして呟く。

イリーガルが動き出すと、猫缶手裏剣が雪麗の部隊を襲った。

姿を見せない敵と突如現れる敵の攻撃に雪麗の部隊は後退し
春麗に急ぎ廻り道をして
【缶帝猫】の別働隊との合流をするように進言する。

「それは、それだけは、おやめください」
華雲が激しく言ったが、春麗は、
「分かった」とだけ言って
雪麗の部隊を残して廻り道を急いだ。

「見捨てられちまったなあ、ひでえ姉貴じゃないか」

イリーガルは嘲笑って鼻を舐めると、屋根から降りる。

「お嬢ちゃん、なかなかの奮戦だが、オレ様にとっては遊びさ」

イリーガルの部隊が雪麗の部隊の退路にも現れ
ジリジリとイリーガルは雪麗の部隊を包囲する策に出た。

「あれだ!」
息を切らして駆けつけたアサンガたちが
雪麗の部隊を見つけた時に
もう一部隊、息を切らして駆けつけて来る部隊があった。

「はあ、はあはあ……。まだ先か?
八宝、まだ走るのか?」
よろめいて、番餅が聞く。

「し〜、敵がおりまする」
八宝が合図し、番餅の率いる部隊は、陣容を整えた。

息があがったままの番餅を囲むように
指球のように布陣された「猛虎の陣」は
雪麗の退路に立つ敵の後方に静かに身を隠しす。

緊張で膨らんだ尻尾を立てた番餅を見て
八宝がニヤリと笑って言った。

「若、恋は命がけでござるな」

次回、私立探偵アサンガは……。





《おまけ・ちょっとした解説》
番餅君、お久しぶり!

「番餅」横浜市民以外には難読漢字ですよね〜。
多分(笑)。

読みは「ばんぴん」です。
中華街の老舗「重慶飯店」さんの名物お菓子。

見た目はがっつり超重そうに見えますが
意外とあっさりとしていて
おいしい名品です。

《バックナンバー》
第四十三回 私立探偵アサンガ
第四十四回 私立探偵アサンガ
第四十五回 私立探偵アサンガ


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