素晴らしき哉、音楽人生!――山下久美子からのクリスマスプレゼント | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

Jポップスの黄金時代は80年代から始まった。

そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

フランク・キャプラが監督し、1946年に公開された映画『素晴らしき哉、人生』(出演:ジェームズ・スチュワート ドナ・リード ライオネル・バリモア)。雪のクリスマスの夜から物語が始まる同映画は、米国ではここ数十年、クリスマスの夜にTV放送されているという。いわゆるクリスマス映画の定番であり、古き良き(勿論、古き悪しきも含む)時代のアメリカを偲ぶ古典でもある。ジェームズ・スチュワートは同映画以外にも『スミス都へ行く』や『裏窓』、『飛べ!フェニックス』など、印象に残る作品も多い。私も好きな俳優だ。映画評論家の町山智浩のSNSを見ていたら12月23日(木)にDOMMUNEで、ジェーン・スーやMs.メラニーとともに『素晴らしき哉、人生』を見ながら語る“WatchParty”を開催すると出ていた。残念ながら同パーティには参加できなかったが、改めて、同映画をアマゾンプライムで見直した(多分、学生時代にテレビなどで見ているはずだが、大人になって見るのでは見え方や感じ方も違ってくる)。ストーリーは詳述しないが、運命に翻弄され、夢は必ず叶うというものではなく、少しほろ苦くて、切なくもなるが、見終わった後は人生もまんざらではない――と、どこか、心温まるものがある。町山智浩が“人生に一度は御覧ください”というのも納得だった。

 

少しひねくれた考えかもしれないが、クリスマスは審判の日か、と思うことがある。家族や愛する人、親しい友などと時を過ごす。しかし、中には“きっと来ない”し、“ひとりきり”なんていうこともある。こんな日がなければ寂しく、切ない思いをしないで済むかもしれない。和気藹々だけでなく、悲喜交々もある。勿論、一人でも差しさわりないという考えも浸透しつつある。いずれにしろ、2020年と2021年は同日に限らず、散々だったが、人生いろいろ、人それぞれのクリスマスがある。

 

 

おそらく、山下久美子にとって今年最後の限定ライブ&配信ライブになる12月11日(土)に東京・築地「BLUE MOOD」で行われた「山下久美子 ONE STEP CLOSER“LIVE”Sweet Rock’n Roll Acoustic2021 FINAL」。

 

今回は限定とはいえ、観客数は45名と少しずつ増えてきている。また、歓声は上げられないものの、前回に続き、スタンディングは許されている。今回も前回に続き、配信で見る。クリスマスモードの電飾が揺れる中、「宝石」でスタートを切る。1曲目から総立ち。総立ちの久美子、三度だ。間髪入れず、「星になった嘘」、「抱きしめてオンリー・ユー」を会場へ放つ。ボルテージが一気にあがる。

 

 

山下久美子を支えるのは後藤秀人(G)、伊藤隆博(Kb)、倉井夏樹(Harmonica)、笠原敏幸(B)、椎野恭一(Dr)というお馴染みのラインナップ。笠原は久しぶりのサポートだが、いうまでもなくPaPaのメンバーとして椎野とともに最初の“総立ちの久美子”を知るミュージシャンだ。

 

山下は“今日もみんなと、元気で会えたことが嬉しい。元気でいてくれ、会いにきてくれて、ありがとう。みんなの声がマスクから聞こえてくる。今日もスイートロックンロールを最後まで楽しんで欲しんでください。ありがとう”と観客に伝える。そして。“私の大好きなクリスマスソング。年末に向けて、「ベジタリアン」”と、曲名を告げる。戸沢暢美が作詞をし、亀井登志夫が作曲をした同曲を自らに歌いかけるように思いを込める。同曲は山下がイギリスとイタリアで孤軍奮闘しながら作り上げたアルバム『SMILE』(1997年リリース。プロデュースはレニー・ザカテク)に収録されている。同じく同作に収録された「you used to-SMILE」が続く。その歌詞には“天使のような 優しい笑顔 悪戯な思い出”とある。

 

山下は“クリスマスということで、(ステージに)電飾を仕込みました。イルミネーション、嫌いじゃないですし、どちらかというと好きです。LEDになってしまったけど、本当はタングステンの淡い感じが好きです”という。“クリスマスツリーを飾った人は?”と、観客に問い掛ける。山下の自宅は飾り付けを終え、クリスマスモードになっているらしい。

 

“自分の中のクリスマスソング”という「Close Your Eyes」(シングル。リリースは1995年)、「ロマンス」(『JOY FORYOU』に収録。リリースは1991年)を歌う。「Close Your Eyes」には“Holy night”、“聖なる光”、“キャンドナイト”、「ロマンス」には“silent night”、“神の名の元”……などの言葉が散りばめられている。

 

続いて「ファンタジア」を歌い終えると、第1部は終了。第2部は10分後になる。このインターバルはただの休憩ではなく、換気をするためのものである。これが2021年の風景というものだろう。まだ、予断は許さない。次の波が来るかもしれないのだ。

 

 

第2部は「ベリンダ」、「涙に閉じ込められて」、「Love Glitter」と、アルバム『CENTURY LOVERS』(1991年)からのナンバーを畳みかける。世紀の恋人達に捧げた切ないラブソングが続く。“胸キュン”の面目躍如と言っていいだろう。

 

“永遠のスイートなナンバー。BLUE MOODの今年の最後を飾るのに相応しい3曲を歌います”と語り、「微笑みのその前で」(アルバム『Baby alone』収録。リリースは1988年。シングルとしてもリリースされている)、「Single」(アルバム『1986』収録。リリースは1986年。シングルとしてもリリースされている)、「Stop Stop Rock'n Roll」(アルバム『Baby alone』収録。シングル「微笑みのその前で」にカップリングされている。ライブ・アルバム&DVD『stop stop rock'n'roll“LIVE”1988.12.5 TOKYO BAY N.K.HALL』に収録)と、スウィートなロックンロールなナンバーが披露される。会場は山下に煽られ、さらに山下を煽るかのように“総立ち状態”になっていく。

 

 

山下は“2020年と2021年とここまで辿り着けましたけど、でもこういう楽しい時間をなくさないように、これからもやれるようにしていけたならと思います。みんなが立つ、総立ちになる――当たり前のようなことが当たり前ではないんだ。改めてそう感じることが出来ました。来年も元気に会いましょう。最後にそんな祈りをこめるように歌います”と、「Baby Don't Cry」(アルバム『CENTURY LOVERS』収録。シングルカットもされている)を披露する。

 

痛みを伴った歌詞だが、聞くものにエールを送る。この生きづらく、捻じれた日常というやつを蹴とばすような勇気をくれる。山下は“泣いてばかりじゃ天使になれない”と、歌いかける。会場にはたくさんの笑顔が溢れる(想像!?)。“Thank you so much! 愛しているよー”と感謝の言葉を残し、山下と彼女のバンドメンバーがステージから消えた。

 

 

アンコールを求める拍手に促され、山下がステージに戻って来る。観客に“ありがとう。今日も最高に楽しいライブでした”と告げ、山下曰く最強のメンバーを呼び込む。そして、「赤道小町ドキッ!」が歌われる。同曲では倉井のハーモニカによるクリスマスソングがフィーチャーされた。いまのところ、彼女の最大のヒット曲で、山下久美子の名前を世に知らしめたナンバーである。同曲はこの11月5日(金)、6日(土)に「日本武道館」で行われた「~松本隆 作詞家生活50年記念オフィシャルプロジェクト!~『風街オデッセイ2021』で歌われている。山下は11月5日に出演。松本隆が作詞し、細野晴臣が作曲して、そして大村憲司が編曲した同曲を軽やかにに歌いあげた。久しぶりの武道館を堪能したという。ヒット曲とは不思議なものだ。歌い手を思いもかけないところへ連れて行く。松本隆の50周年のイベントへはっぴいえんどや鈴木慶一、林立夫、横山剣、亀田誠治、森口博子、B’z……などとともに出演して、「赤道小町ドキッ!」を歌うなど、39年後の未来を予想しただろうか。山下久美子を支えた数多の人達の願いや祈り、思い、熱気、行動があればこそだろう。

 

そして、最後にはデビュー曲「バスルームから愛をこめて」で今年最後の「BLUE MOOD」でのライブを締めくくる。見事な大団円ではないだろうか。

 

 

『素晴らしき哉、人生』の中に天使が翼を貰うとベルが鳴るという台詞と場面がある。「BLUE MODE」を出ると(勿論、気分だけ。実際は配信で見ている)、築地の街からベルの音が鳴り響くのを聞いた。素晴らしき哉、山下久美子の音楽人生――並走するものを多幸感で包んでいく。

 

 

 

なお、文中にある12月23日(木)のDOMMUNEの『素晴らしき哉、人生!」の“WatchParty”の模様は翌週、28日(火)にAmazon Musicでポッドキャストとしてアーカイブ公開されるという。

 

https://music.amazon.co.jp/podcasts/18d23c4d-333c-498c-b37c-fdf478d052b8/dommune-radiopedia

 

 

12/11 Kumiko Yamashita ONE STEP CLOSER “ LIVE”

at BLUE MOOD

 

01.宝石

02.星になった嘘

03.抱きしめてオンリー・ユー

mc

04.ベジタリアン

05.you used to-SMILE

mc

06.Close Your Eyes

07.ロマンス

08.ファンタジア

 

*10分間の換気休憩Time

 

09.ベリンダ

10.涙に閉じ込められて

11.Love Glitter

mc

12.微笑みのその前で

13.Single

14.Stop Stop Rock'n Roll

mc

15.Baby Don't Cry

en

En1.赤道小町ドキッ!

En2.バスルームから愛をこめて