105kgから62kgまで減量した人 | kyupinの日記 気が向けば更新

105kgから62kgまで減量した人

いつか少しだけ触れた人であるが、ある女性で、治療過程で105kgから62kgまで減量した人がいる。

体重が105kgもあった理由だが、たぶん体質である。ある時、心因反応を呈し、ある精神科病院に受診したが、激しい興奮、大量服薬、自殺企図、過食嘔吐など多彩な症状が診られ、境界型人格障害に類似することもあり、極めて悲観的な告知をされたようである。何度目かの入院の際に、偶然その病院が満床だったため、うちの病院に転院し入院することになった。

初診時、表情は硬いものの統合失調症ではなく、あの程度の精神症状で、なぜ医師がそこまで悲観的な告知をしたのか謎であった。よく知っている医師だったからである。僕は楽観的なことは言わなかったが、今までの病状を説明する意図で、精神症状の主な背景は「おそらく広汎性発達障害のようなものでしょう」と母親にのみ告知した。

ところが、大変なショックを受けたと言われたのである(広汎性発達障害は母親は特に責任を感じるようである)。

この日を最後に、僕は統合失調症に加え広汎性発達障害(アスペルガー症候群も含む)も原則、告知しないことにした。ただ、とりわけ家族が精神科治療に理解がない場合、告知することもある。

今から考えると、これらの一連の事件は母親のリテラシーの問題もあったのかもしれないと思う。ひょっとしたら、前医はそこまで悲観的な告知などしていなかったかもしれないのである(悪く受け取るという認知)。

入院後、次第に激しい症状が改善し、それまでむしろあまり目立たなかった摂食障害が前景になってきた。特に「食べるに食べられない」といった所見である。彼女は社会不安障害やIBS(過敏性腸症候群)もあり、入院時はセロクエル、デプロメール、テグレトール、漢方薬などで治療している。この摂食障害の面倒を見ているうちに70kg台になった。

女性と言うもの、105kgと70kgでは見かけは大変な違いがある。まさに民放のビフォー&アフターの世界である。(この人は実はこんな人だったんだ・・と言った感じ)

次第に激しい症状は落ち着き、病棟でも穏やかに生活できるようになったため退院させた。その後、単身でアパートで生活していた。最初は働くことは難しいと思われたため、デイケアに参加するように指導した。彼女にとって、日々、デイケアに参加することすらストレスだったようである。(精神病院は何かしら居心地が悪いところがないとダメだと思う)

そのうち短い時間であれば、スーパーやコンビニでも働けるようになった。最初、ほんの2~3時間働くだけで過食・嘔吐が悪化していたが、時間が経つとかなり仕事にも慣れてきた。

治療の終盤、ブプロピオンを勧めてみた。デプロメールを服用している限り、自覚的に全快という感覚にはなりにくいようなのである。また広汎性発達障害の視点では、デプロメールよりブプロピオンの方が優れている。過食に対してもマイナスにはならない。彼女のうつ状態、感覚過敏、IBS(過敏性腸症候群)も改善するのではないかと思われた。彼女は胃腸が弱く下痢をしやすいのである。

彼女は極めて薬に弱く、ブプロピオンも少量でも効果が出た。当初、ブプロピオンを処方するとパニック様症状が悪化するのではないかと思っていたが、いざブプロピオンを追加すると、恐れていたほどの悪化はなかった。

ブプロピオンを処方する直前の処方
デパケンR 400㎎
ワイパックス 1㎎
メトリジン  2㎎
メイラックス 2㎎
セディール  20㎎
コロネル   2000㎎
ツムラ柴苓湯  9g
コントミン   12.5㎎
ビオフェルミン 2.0
デプロメール  25㎎


コントミンは主に制吐目的で追加している。ブプロピオンを処方後、うつ状態が最も改善し、IBSもほとんど問題にならなくなった。

腸はあたかも独立した脳を持っているようなもので、デプロメールなどのSSRIはこれらに悪影響を与えている。

過食・嘔吐についてはブプロピオンは中立であり、悪化はないが改善もほとんどなかったので、トピナを併用することにした。トピナは25㎎から開始し、いったん150㎎まで増量し、その後、100㎎まで減量している。トピナの効果はまあまあと言えた。

トピナ 100㎎
ワイパックス 1㎎
デパケンR 200㎎
ビオフェルミン 1.0
ブプロピオン 75㎎


この処方もシンプルで美しい。無駄なものなどなく必要かつ十分だからである。

そうして遂に62kgになった。

僕が治療して15~20kg程度の減量はザラにあるが、ここまでの減量はなかなかない。ある日、病院に来た時、彼女が、

私、結婚して良いですか?

と訊いた。

なぜ僕に聞くんだ!(みたいな・・)

彼女は今は結婚している。

参考
ダイエットの達人
トピナは精神療法をするのか?
精神科治療における体重への配慮について
体重の減量のテクニック