モーズレイ処方ガイドライン(11版)のうつ病の薬物治療と自殺に関する記述 | kyupinの日記 気が向けば更新

モーズレイ処方ガイドライン(11版)のうつ病の薬物治療と自殺に関する記述

英国のモーズレイ処方ガイドライン(11th 2012年刊行)は、イギリス人が向精神薬嫌いなこともあり、その記述もかなり辛口である。

過去ログでは、英国ではレスキューレメディーを救急隊員が持っており、現場に駆け付けた際に、血だらけで興奮している患者にまず飲ませるといった記載をしている。もし日本で、このような手法をとったとしたら大問題になると思う。

英国には、もう一つNICE(英国王立臨床評価研究所)というナイスでないガイドラインがある。これは、たとえば疼痛性障害のガイドラインも、何だこりゃ?と思うほど奇妙なもので、モーズレイに輪をかけて薬嫌いである。これは薬嫌いだけではなく、医療経済的なものも加味したものになっているのもあるのかもしれない。

モーズレイでは、うつ病における抗うつ剤の治療について、以下のように辛口の記載で始まる。

抗うつ剤

効果
うつ病がどの程度重症だと、抗うつ薬がプラセボよりも有益であるのかは明らかではないが、重症であればあるほどより有益性は増すという考えが一般的である。少なくとも中等度以上であれば、通常は治療の第一選択として抗うつ薬が推奨される。中等度以上のうつ病では、およそ20%はまったくの無治療でも回復し、30%はプラセボに反応、50%が抗うつ薬に反応するといわれている。すなわち、まったくの無治療に対して抗うつ薬治療の治療必要例数(NNT)は3であり、プラセボに対して実薬のNNTは5である。臨床試験での反応は、うつ病の評価尺度のスコアが50%減少した場合と定義されることが一般的ではあるが、これはやや恣意的な2分割法であり、連続的なスコアそのもので評価すると、抗うつ薬群とプラセボ(それ自体、うつ病の治療法として有効である)群における平均値の差は比較的小さい傾向にある。抗うつ薬群とプラセボ群の差は、主に方法論の変化により時間とともに小さくなっている。

また、診断を満たさない閾値下うつ病の場合、抗うつ薬とプラセボ間で反応率の差はほとんど認められない。重症のうつ病を過去に経験している場合(現段階では診断を満たさないものの、新たなエピソードが出現した可能性がある)や、症状が遷延している場合でなければ抗うつ薬は必要ないといえる。気分変調症の患者(うつ症状が2年以上持続)では抗うつ薬は有益である。しかしその一方で、最低どのくらいうつ症状が継続すれば抗うつ薬が有益であるかは不明であり、患者によっては抗うつ薬の副作用のほうがその小さな有益性よりも問題である場合がある。

上記のように記載されている主な理由は、たぶん2008年から2010年に軽症うつ病には抗うつ剤の有効性はないと言う論文が出たことが関係している。そのようなこともあり、上記のNICE(英国王立臨床評価研究所)は、軽症うつ病治療では抗うつ薬をルーチンに選択しないという内容のガイドラインを発表している(軽症うつ病治療の第1選択の1つに認知療法を掲げている)。

しかし、近年、軽症うつ病でも抗うつ剤の優位性を否定しない論文が発表されたこともあり、次回のモーズレイのガイドライン(今年の5月頃発売になる)では、もう少し辛口でない記述になる可能性もある。しかし、NICEはあまり変わらないのではないかと。(笑)

このモーズレイのガイドラインでは、うつ病の自殺に関して以下のように記載している。

自殺関連の問題(希死念慮,自殺企図:suicidality)について

抗うつ薬による治療が、希死念慮および自殺企図の増加と関連しているといわれている。特に思春期や青年期の患者においては、治療早期に自殺関連の危険性について警告するべきであり、仮にそのようなことが生じた場合には必要な援助が受けられるようにしておかなければならない。すべての抗うつ薬が関連しているといわれており、主にうつ病以外に保険適応されている薬剤(アトモキセチンなど)も含まれている。しかし以下のことを忘れてはならない。(1)ある患者群においてはプラセボよりも自殺関連の相対的なリスクは増加するかもしれないが、その絶対的リスクはとても小さく、(2)希死念慮および自殺企図を防ぐ最も効果的な方法はうつ病を治療することであり、抗うつ薬による治療が現在用いることのできる最も効果的な方法である。ほとんどの場合において、自殺関連の危険性は抗うつ薬による治療で大きく減少する。過量服薬した際の毒性には、抗うつ薬のグループ間およびグループ内で差異がある。

なお、あのNICEでさえ、ECT(電撃療法)の有効性を認める発表をしているのは特筆される。これはおそらく、ECTは狭義の抗うつ剤が使われないからではなく、否定的論文がなさ過ぎて、否定しきれなかったためと思われる。(否定するとガイドラインとして成り立たない)

以下は、神経障害性疼痛のガイドライン。NICEのガイドラインに注目。



参考
ハルシオン
アンプリット
バッチフラワーレメディーの不思議さ