占い師と患者さんの話 | kyupinの日記 気が向けば更新

占い師と患者さんの話

一部の患者さんに、占い師好きの人がいる。そのような人は、しばしば遠方の占い師の話を聴きに行く。占い師好きの女性患者さんは時に診るが、男性はほとんど見かけない。

占い師以外には、除霊師とか、占いもかなりできる整体師、有名な霊能者、巫女さんも好きなようである。この人たちの相違はなんとなくだがわかる。

そのような占い師ないしそれに近い人に会ったと言われたら、後学のために見立て、内容を聴いておく。

精神科医であれば、患者さん本人がどのようなお告げをされ、その結果、精神面にどのような好影響ないし悪影響を及ぼしたかをチェックしておきたい。

いつも会ったために悪い経過になったのなら、今後控えるように指導することも可能だ。基本的に占い師にかかるかどうかは、僕は中立の立場を取っている。つまりノーコメント。


一般的に、占い師に会って良いかどうかを精神科医に聴く人はほぼいない。

僕は、漠然とだが占い師は顧客に積極的に薬を止めるように命じる人は稀だと思っていた。

必要な薬を止めさせた場合、悪化するのは見えているわけで、営業上、リスクは取らないと考えていたのである。それは精神科に限らず、内科薬なども同様である。

ある時、双極1型の患者さんが、整体師及び占い師の人を訪問した際に、

薬を止めなさい。

と告げられたのには驚愕した。その理由は、あまりにも大胆不敵な助言だったからである。

詳しいことを聴いてみた。彼女によると、その薬(リーマス)のため、体に悪い影響が出ていると言われたらしい。個人的に、リーマスは毒性が強い方の薬なので、何らかの悪影響が出ているのは十分に理解できる(過去ログ参照)。

向精神薬は、その人の「人生」及び「社会」を考慮し、デメリットよりメリットの方が遥かに上回るから処方されているのである。

少々の副作用など、出ていておかしくはない。

しかし興味深いことに、彼女はその年配の整体師の助言を聞き入れず、薬も止めなかった。

これは自画自賛するわけではないが、日頃の自分の精神療法や服薬指導の賜物である。いい加減な指導だと、彼女のように真の病識などない人ならすぐに中止したであろう。

ちょっとワカランのは、「あの人は整体が上手いので・・」と僕にも受診?を勧めたこと。

個人的に、精神科的にはトンチンカンな助言をしていても、整体師としては上手い可能性は十分にあると見る。その理由は、その整体師は「リーマスの身体へ及ぼす有害性」をほぼ盲目なのに見抜いているからである。

彼女に料金を聴くと、7000円と言っていたのには絶句。7000円出すなら、マッサージにでも行ったほうが良い。

占い師といえば、彼女のリウマチの発病を顕在化する5年以上前に僕は予見し注意喚起している。しかし、リウマチはたぶんだが、あらかじめ予防する方法などないのではないかと思う。

そういうこともあり、近年は本当にその通りになるのもなんだか不吉だし、具体的な疾患名を挙げて悪い予見はしないことにしている。(膠原病など免疫疾患に気をつけなさいくらいに留める。早めに検査し早期発見に努める)。

占い好きの人は、知る人ぞ知る霊能者を見つけてくるもので、本当に行った直後に、記憶が薄れないうちに、訪問時の興味深い話を聴くことにしている。

ある人は、占い師(霊能者?)に、

貴方はすでに治っている。

と言われ、大ショックを受けたらしい。本人は実感的に治っていないから治療目的でわざわざ訪れたのである。「もう治っている」と言われてしまうと、もはや祈祷してもらう必要などない。

しかし、「既に治っている」と言われるのは、北斗の拳のケンシロウに、

お前はもう死んでいる。

と言われるよりは遥かにマシだと思う。そう思う理由は、そういうタイプの見立てと言うか結論を下す占い師もいるようだからである。(例えば、「貴方の肝臓と腎臓は既に腐っている」みたいな・・)

霊能師や除霊師の人たちは、精神に障害を持つ人たちに、「治療的なもの」を依頼されることが結構多いと予想する。

しかし、結果的に酷くこじれて、やっと精神病院にかかるように命じる人もいるようなのである。これは、いじくりまわして、最終的に精神病院に捨てられたに等しい。

これは、何が悪いかと言うと、精神疾患に対するスティグマの存在も大きい。本人の特に家族にも責任の一端があるが、社会がそういう風に迷走させている面もあるのである。

また、前回の記事で触れた内容にも関係するが、近年は現場を知らない人の向精神薬のネガティブ・キャンペーンが酷すぎることもある。また、マスコミもそれに同調している風もある。

特に今回の向精神薬の投与制限は、救急外来での大量服薬の患者の多さなど、救急医療に携わる医師の苦情も関係している。

特にベンゾジアゼピン系の不安薬および眠剤は、ここ15年以内に新規発売されたものははほとんどないし、新薬の処方箋数もたいした数ではない。ルネスタくらいである。(注:ルネスタはGABA受容体に作用を及ぼすが、非ベンゾジアゼピン系の薬物。シクロピロロン系)

むしろ、眠剤などの大量服薬が社会問題化したことは、精神科における疾患性の変化(厭世観や希死念慮を持つ人の増加)や不景気の長さなど社会的なものが関係している。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬や眠剤を大量服薬されたら、これらを安易に販売しているのがおかしいとか、処方数が多すぎると言うものは、精神科医からするとかなり論点がずれているように感じる。

ナイフを使った殺人事件が多くなったのは、ナイフがあるからではないし、どこでも買えるからではない。

今後どのようになるかだが、大量服薬の衝動は、SSRIや抗精神病薬では容易には止められないと思うので、ベンゾジアゼピンが減量された分、他のよりincisiveな薬物が増え、一層リスキーになるように思われる。種類が制限されるならより強力な薬を投与される確率が高くなる上、いつかも書いたが、少量だけ処方しても、溜め込んで服薬されたら同じことだ。

ただし、今、発売中のSSRIの大量服薬では簡単に死ぬことなど出来ない。それだけの話である。簡単に死ぬことが出来ないのは、ベンゾジアゼピンも同じである。結局、救急外来の医師は苦情を言ったところで、仕事は減らないのである。

占い師の話に戻るが、個人的に憑依のような病態(つまり神経症、この場合ヒステリー)であれば、霊能者のなんだかわからないフォースで改善する可能性があると思う。

しかし、内因性疾患はそう簡単にはいかない。(重要)

実際、精神病院を廃止してしまったイタリアでは、除霊?治療のために、エクソシストに出てくる神父風のオッサンが、十字架を持って祈りを上げているのをディスカバリーかナショジオで見たことがある。

しかし、その少女は神父の必至の祈りも通じず、修道院から出て健康を取り戻すことはできなかったのである。

(おわり)

参考
甲状腺と霊感
リウマチの人は統合失調症になりにくいという謎