このチラージンSは多すぎるので減薬してほしいと言う内科医の指示 | kyupinの日記 気が向けば更新

このチラージンSは多すぎるので減薬してほしいと言う内科医の指示

かなり前の話だが、ある時、双極性障害のうつ状態にあった患者さんが内科医院で甲状腺を検査し、

このチラージンSは多すぎるので減薬してほしい。

と内科医に指示されたことがあった。

しかし、これは精神科医がわかってやっているのである。その患者さんは、freeT3、freeT4はともに正常域にあり、TSHだけは下限以下にあった。

つまり、フィードバックがかかり、身体としては甲状腺ホルモンは過剰と感知されているのである。そのためにTSHは減少している。

この、チラージンSまたはチロナミンでもそうだが、服薬していることで自然な身体の反応が出ていると言えた。

以下、過去ログから抜粋。

甲状腺剤だが、実は精神科ではチロナミン(T3)を使うことになっているのだが、これはおそらくT3の方が甲状腺機能に対する活性が高いからであろう。チラージンSのT4は代謝されてT3に変化するのでそれで良いといえばそうなのであるが、活性型に果たしてなるのか保証がないし、たぶん普通はチラージンSではなくチロナミンなのである。(正式にはうつ状態にチロナミンもチラージンSも適応はない)

アメリカでは病型によりチロナミンとチラージンSが使い分けられているようであるが、日本ではたいていチラージンSが選択されている。チラージンSはチロナミンに比べいくつか良い点がある。チラージンSはチロナミンに比べ半減期が長い。チロナミンは活性が高いのはそれなりにメリットだが、半減期が短くその分、やや扱い辛いし老人にはやりすぎになりかねない。特に心臓が弱い人には。だからトータルでは効果が不足したとしてもチラージンSの方が使いやすいという考え方もできる。

アメリカのエキスパートコンセンサスガイドラインなどを見ると、双極性障害の病型によればT3よりはT4を推奨する医師もいる。これはアンケートなので、まあ「クイズ100人に聞きました」の世界で、いろいろ意見が食い違うのは当然だろう。そのようなことを思いつつ、このおばあちゃんにはチラージンSを選択。僕はチラージンSとチロナミンは7:3か8:2くらいの割合で使っているが、これで良いのかどうかは自信なし。

例えば、双極性障害に対するうつ状態に甲状腺剤を処方する場合、追加投与していくとフィードバックがかかり、TSHが正常域下限より低値になる。これはいかにも良くないように見えるが、それでもfreeT4やfreeT3が正常の150%くらいの代謝亢進レベルまで上昇させてみる。甲状腺剤が多すぎると、老人の場合、骨粗鬆症や心臓への負担が考慮されるが、若い人なら経過を観察しながら様子を診るくらいで良い。基本的にはほとんど作用、副作用とも見えないような薬物である。僕は甲状腺剤よりカタプレスの方がはるかに効果が目視できる。

以前、このブログでも取り上げた急速交代型の女性患者さん(参考)は、甲状腺剤の服用のため長い期間TSHが極端に低値であった。フルスロットルだったからだ。彼女の経過にそれがいかなる風に影響したのかは謎だ。専門書を読むと、TSHがどの程度までの低下なら問題ないとか出てくるが、あれは臨床的には難しすぎる。あれを書いた人が実際に臨床をしつつ書いたものか、相当に疑わしいと当時思った。

実際、精神科臨床では橋本病の治療より、リーマスの処方で甲状腺機能が抑制され、チラージンSが使われていることが多い。うつ状態に漠然と甲状腺剤を併用している場合、薬を整理する際に、いつ中止すべきか非常に迷う。僕は結局、効果さえ謎のままいつか整理してしまうことも多い。こうなる理由だが、あまり甲状腺剤の効果が目視できないからだと思う。患者さんが転院してきて、甲状腺剤を追加しようとしたら、「なぜですか?」と聞かれることが良くある。これはあんがいそういう処方が多くはないのかもしれないと思ったりする。定番なのに。(参考

これを読んでみるとわかるが、内科医は精神医療での甲状腺剤の処方手法を知らないのである。

つまり、オーバーして使い続ける価値があると言う感覚のなさ。

難治性うつ状態における増強療法のT3のエビデンスグレードはBであり、リーマス、ブプロピオン、モディオダール(モダフィニル)と同じレベルにある。

参考
慢性倦怠のおばあちゃん(前半)
単極性、双極性の激うつ対策本部