25年以上デパスだけ服用していた人 | kyupinの日記 気が向けば更新

25年以上デパスだけ服用していた人

デパスのテーマでは、統合失調症の人が長期に渡りデパスだけ服用していた話がいくつか出てくる。

今年、久しぶりにそのような人に遭遇した。彼はなんと25年以上デパスだけ服用し、病状が改善しないまま悲惨な生活を送っていた。

発病した当時は運転手などをしていたという。その後、突然、幻覚妄想が出現し、2回ほど単科の精神病院に入院したようである。(記録も残っておらず詳細は不明)。

その後、金銭的な理由で精神科に受診しなくなった。25年前は既に今の自立支援法に当たる32条があり、精神科窓口の支払いは5%で良かった。

この32条とは、通院医療公費負担(精神保健福祉法32条)を指し、通院医療費の95%を公費で負担すると言うものである。ただし、残りの5%も他の公費で負担し外来精神医療が実質無料だった都道府県も少なからずあった。当時の32条は適応疾患の範囲が狭く、神経症などは認められなかった。

従って治療が続かなかったのは金銭的な理由だけでなく、病識などの欠如や周囲の支援がなかったことも大きい。また、納付要件を満たしていなかったため、障害年金は受給できなかったようである。

病状が改善した後、本人と話した範囲では、ここ25年くらい、何度かアルバイトをしようとしたが、全く続かなかった。

一般に、ニートを「自宅警備員」と呼ぶことがあるが、実際に自宅内の一定の業務に従事している人が稀ではない。また、少なくとも、いつも家の中にいるので空き巣に入られない。これは、基本的にニートの人は就労はできないものの、幻覚妄想のような統合失調症の陽性症状らしきものがない人が多いというのもある。

現代社会のニートの人は、年老いた両親を車でかかりつけの病院に連れて行ったり、銀行のATMでお金を下ろしてくる、あるいは料理や掃除など一定の家事をしている人がいる。

しかし、一見して就労できそうなのに、アルバイトさえできない。これもある意味、統合失調症らしくない点だと思う。一方、統合失調症で一定のレベル以上の病状の人は、一見して仕事はできそうにない。

いつだったか、ある犯罪で、犯人はいつも両親の代わりに銀行のATMでお金を下ろしていたらしく、「誰も本人を発達障害とは思わなかった」というものがあった。つまり、一般の人々の多くが、発達障害をIQの高低だけで論じているから、そのような感想が出るのである。

最初のデパスの人も、普段、重い身体障害を持つ母親の世話をしていたらしい。買い物に行ったり、簡単な料理も本人がしていたと言う。収入は母親のわずかな年金だけだったので極めて貧しかった。薬は近所の内科でデパスを貰っていたという。

その患者さんは、ある日、亜昏迷状態に至り、母親の世話を始め全てが出来なくなった。しばらく何も食べていなかったようである。どこにも連絡が出来なかった場合、そのまま2人とも餓死していたと思う。

遠方に住む親戚に何とか連絡できたため、彼らに同伴されて25年以上ぶりに精神科に初診した。しかし、お金が続かないので短期間しか入院できないと言う(同伴した親戚の人の話)。

普通、このような際、亜昏迷だけにジプレキサを試みたいところである。第一感では、ジプレキサが良いと思った。しかし、もし翌日に退院し帰らなければならないなら、ジプレキサは推奨できない。というのは、ジプレキサは、かえって幻覚妄想が増悪する危険性があるからである。

そこで、そういう悪化がなく、即効性があり、しかも安価なセレネース液を選んだ。

セレネース液は、幻覚妄想がかえって悪化する裏目のパターンがほぼない。

彼は、入院した時点では、ほとんど会話が出来ない状況だった。しかし、セレネース液を2cc使ったところ、2日で霧が晴れるように清明になった。ジプレキサでも良かったかもしれないが、セレネース液でも十分だったのである。

入院費が払えないという話だったため、わずか3日で退院させた。入院時に、状況的に生活保護が受給できると思われるので、PSWに市の福祉のケースワーカーに連絡してもらった。

この人の場合、状況的に生活保護を受給できる要件が揃っている。しかし、そういう社会資源を利用できない、あるいは思いつかないのも精神所見の1つである。(重要)

セレネースは極めて有効で、その後1日1ccに減量して続けているが、今は会話は普通に可能である。

彼は、25年間以上の貴重な時間を損失した。

現在の病状の程度から察するに、きちんと治療を受けていれば、あのような悲惨な生活が25年以上も続くことはなかったであろう。

参考
デパスのテーマ
精神科医は時間の販売員?
ひきこもりは治癒過程ではない
精神疾患と生活保護受給について