けいれんを抑える薬、そうでない薬 | kyupinの日記 気が向けば更新

けいれんを抑える薬、そうでない薬

向精神薬には、てんかんへの適応がなくても、潜在的にけいれんを抑える薬がある。また、逆に、けいれんの副作用が出現しうる薬もある。

これは向精神薬に限らず、精神科以外の薬物や食物にもそのような作用を持つものがある。

例えば、銀杏を食べる過ぎると、「けいれん」が起こると言われている。イチョウは、ギンコトキシンという神経毒を産生する。これはビタミンB6と構造的に拮抗し、哺乳類のピリドキサールキナーゼの活性を減少させ、その結果ビタミンの活性化を阻害するらしい。これらの薬理作用によりけいれんの副作用が生じうる。

また、抗生剤のチエナムなどでもけいれん発作を生じることがある。

向精神薬のうちベンゾジアゼピンは、リボトリールやマイスタンのようにてんかんの適応があるものもあるが、適応がなくても「けいれん」には抑制的である。


つまり、ベンゾジアゼピンは効果の柱の1つとして、抗けいれん作用があるのである。

ベンゾジアゼピンには、抗けいれんの他、抗不安、催眠、筋弛緩などの作用も持ち合わせているため、それに沿い抗不安薬として使われたり、催眠作用を期待して眠剤として使われたりする。

一方、抗うつ剤は副作用としてけいれんが生じうるものがあり、薬物によればルジオミールのようにてんかんに禁忌になっているものもある。

トレドミンは本邦で最初に発売されたSNRIだが、時にけいれんの副作用が生じる。友人とトレドミンの話をしていると、たいていトレドミンによるけいれんの副作用を経験している。トレドミンはセロトニンよりノルアドレナリンを優位に上昇させるSNRIであり、その点でサインバルタと逆になっている。

ドパミンとノルアドレナリンの再取り込み阻害作用を持つと言われるブプロピオンも、けいれんの副作用を持つ。

つまり、抗うつ剤でノルアドレナリンとドパミンを上げるような薬理作用を持つものは、けいれん発作の既往のある人には、慎重に投与すべきなのがわかる。相性が悪いのである。

一般に、一度だけ「けいれん発作」があった人には、医師は抗てんかん薬を投与しないものだ。その理由だが、初回発作の後、2度と発作を起こさない人が半数近くいるためである。いったん抗てんかん薬を投与し始めたら、薬が効いていて発作がないのか、服薬しなくても発作がないのかよくわからない。


抗うつ剤でも、SSRIのようにセロトニンを主にアップさせる薬は、上記ノルアドレナリン、ドパミンを優位にアップさせる薬に比べ、けいれんの副作用はずっと少ない。

過去ログでは、広汎性発達障害系の患者さんはセロトニンをアップさせると、往々にしてアパシー、希死念慮、衝動行為を促進し、非常に使い辛いという話が出てくる。

自閉症スペクトラムの人たちは健康な人に比べ、てんかんの合併率が高い。これは彼らが潜在性に脳に器質的背景を持っていることを示唆している。

けいれんの既往がない人でも、脳波異常を伴う人は、けいれん発作に親和性の高い抗うつ剤を単独で使用するのは推奨できない。むしろ、危険性のある抗うつ剤より、抗てんかん薬を主体に治療を進める方が安全である。使用するにしても、抗てんかん薬と併用した方が安全性が高まると思われる。


過去ログでは、「パニックはてんかんに似た病態であり、そういう風な視点で治療するとうまく行きやすい」という奇妙な記載がある。

少なくとも、日本ではパニックはベンゾジアゼピンかSSRIで治療を始めるのが一般的であり、いずれもてんかんに治療的か、少なくとも悪化はさせにくい。

ブプロピオンはパニックを悪化させることがあり、また不安感にも治療的ではない。ルジオミールも一般にパニックには使わないし、治療的でもない。トレドミンで不安感が悪化する人がいるが、これはトレドミンはセロトニンよりノルアドレナリン優位に上昇させることに関係がありそうである。

SNRIは、SSRIに比べ、不安、パニック方面の適応の広がりが少ないのは、その辺りに理由がありそうである。(アメリカではベンラファキシンのみ、全般性不安障害、社会不安障害に適応がある)。

SNRIは疼痛に対し有効性が高いことが有名であるが、これはノルアドレナリンを上げる作用による部分が大きい。

パニックはあまりノルアドレナリンをアップすべきではないのは、てんかんに似ていると思う。

このような副作用の幅はかなりあり、全てが禁忌とされていないのは、それを示唆しているともいえる。

治療方針を立てる際に参考になるといったところである。

参考
希死念慮の謎
パニック障害と広汎性発達障害のパニック
70%の確率