パニック障害と広汎性発達障害のパニック | kyupinの日記 気が向けば更新

パニック障害と広汎性発達障害のパニック

パニック障害のパニックと広汎性発達障害のパニックは、便宜的に同じ「パニック」という用語が汎用されているが、この2つは異なる精神所見のように思われる。

広汎性発達障害の人のパニックはいわゆる「緊張病症候群」の近縁に存在している。あるいは、広くとれば「緊張病症候群」そのものかもしれない。

緊張病症候群には「昏迷」と「興奮」があり、これらはコインの表裏の関係になっている(参考)。古典的には緊張病症候群を呈する疾患群は3つあると言われていた。

緊張病症候群を呈する疾患
①統合失調症
②躁うつ病
③ヒステリー


このうち、このブログ的にはヒステリーは器質性疾患と記載しており、③は器質性疾患による緊張病症候群の1つと考えられる。実際、脳炎後遺症や脳腫瘍などでヒステリーを生じることがあるし、身体疾患に由来する症状精神病も同様である。③の「ヒステリー」はこれらを象徴した疾患と考えると辻褄が合う。

このような文脈から、広汎性発達障害のパニックは③ヒステリー性昏迷~興奮に近いものと考えることができる。つまり生来の器質性に由来する面が大きい。

安易に「広汎性発達障害のパニック」と言われているものは、何らかの違う表現をしないとパニック障害の人のパニックと混同されると思う。

ただ、このブログ的にはパニックはてんかん的色彩が強いなどと言っているので、やはり器質性の視点で捉えている。もしパニック障害と広汎性発達障害のパニックはスペクトラム的に連続していると言う意見があるとしたら、それも考慮すべきで議論の余地がある。

パニック障害のパニックと広汎性発達障害の人のパニック様状態は持続時間がかなり異なる。また臨床所見でも広汎性発達障害のパニックは、亜昏迷模様になる人(フリーズしてしまう人)から、かなり動きがある人まであり、精神症状の多様性があるように思われる。

そういう点も併せて、広汎性発達障害的のパニックは「緊張病症候群」的である。(興奮の要素を孕んだ亜昏迷模様など)

統合失調症の人の特に緊張病性昏迷は、治療の際に強い抗精神病薬を処方すると時に悪性症候群に移行する。だから極めて注意しなけらばならない病態だと思う。

それに対し緊張病性興奮は、深刻な事態であり鎮静的な抗精神病薬を使うかECTをかけるか、いずれにせよ積極的に治療せざるを得ない。緊張病性興奮も時に悪性症候群に移行するが、元々、緊張病症候群と悪性症候群は病態的に近縁にあり、ある種の「相移動」が起こっているだけと思われる(参考)。

重要な点は、統合失調症の緊張病症候群は内因性ながら、病態的には器質的な局面であることであろう。

神経症性のパニックはしばしばマニュアル的にSSRIが処方されるが、成人ではこれで寛解に至る人も多い。少なくとも発作の回数や、予期不安の回数が非常に減る人がいる。

ところが、SSRIでかえって不安定になる人もいるのである。だいたいSSRI自体がほとんど服用できない人もいる。服薬でき、社会不安障害的なものがなにがしか減少したとしても、希死念慮やアパシーが悪化したり、リストカットが収まらず実用になっていないケースもある。特に若い人はそういう風になりやすい。

治療的には、広汎性発達障害系のパニックはやはりSSRIよりは気分安定化薬(抗てんかん薬)、抗精神病薬(定型、非定型)、カタプレス(シナプス前α2アドレナリン受容体作動薬)のような特殊な薬物がむしろ良い場合が多いと思う。この理由は、このタイプのパニックは従来のパニックとは異なり、上に書いたような病態であるからであろう。

(このエントリは一連の記事がもう1つある)

参考
悪性症候群の謎
古典的ヒステリーは器質性疾患なのか?
リストカットはどのように治るのか?
エビリファイの副作用(続き)の後半