非定型うつ病とドパミン | kyupinの日記 気が向けば更新

非定型うつ病とドパミン

今日のエントリは昨日の「重篤感がないこと」の続き。

最近、よく言われている非定型うつ病(新型うつ病)は、本人が好きなことをして遊んでいる時は、やはり重篤感はゼロである。調子が悪い状況から、同じ日に突然変われることはある意味凄いことだ。

非定型うつ病では、これが疾患性でもあるのだが、そのような点で周囲の人の共感が得られないのは大きい。だから、甘えだとか、本人の努力が足りないなどと叱責されるのである。

また、叱責された時に不満を持ち、反論したり屁理屈をこねたりするため、一層立場が悪くなる。

非定型うつ病は、特にドパミン系に問題があるように思われるため、薬物的に治療に値する精神疾患である。

もともと、非定型うつ病は、MAO阻害薬で治療するとかろうじて浮上できる疾患である。MAO阻害薬はセロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンをトリプルでアップさせる。

ところが、今の日本では積極的にドパミンをアップさせるような薬物があまりない。他の2つをアップさせる薬は山ほどあるのだが。

ドパミンをアップさせる薬物は最近は少しずつ発売されてきている。例えば、リフレックスやエビリファイである。古いものではかつてのリタリンもそうである。(コンサータなどは普遍的に使えないのでここでは対象にしない)

ところがリフレックスのドパミンの増加させる能力はたいしたものではない。またエビリファイもアゴニスト的な量では腰折れのような状況になりやすい。(多い量では遮断的に作用するため、それもまずい)。

ごく最近の薬物では、サインバルタは前頭葉でドパミンを増加させると言われている。だから、サインバルタは理論的に非定型うつ病に奏功しておかしくない。

つまり、サインバルタはバランスは異なるが、MAO阻害薬のようにセロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンをトリプルでアップさせるのである。

ただし、過去ログにあるようにドパミンへの効果は腰折れしやすいため、最初は良くても次第に元気がなくなり経過が思わしくないと言う人も珍しくない。サインバルタにおけるドパミンへの作用は強くもないし持続性もそこまで長くはないように見える。そのような理由で時間が経つと、あたかもSSRIでうまくいっていないような病態になりうるのであろう。それでもなお、サインバルタのドパミンへの効果は1つのスパイスとなっている。(参考

抗うつ作用を持つジプレキサも前頭葉でいくらかドパミンを増やすと言われている。

よくサインバルタとリフレックスの同時処方はカリフォルニア・ロケット燃料と言われているが、この2つは作用機序がかぶらない部分が多い抗うつ剤であり、相乗的に働くためにたぶんそういわれている。ロケット燃料とは、つまり強力な併用療法という意味である。

サインバルタとジプレキサの2つも同時に使うと、相乗的(相補的というべきか?)に作用し、思わぬ浮上作用を持つ。サインバルタとジプレキサの組み合わせは、非定型の病態に処方した場合、お互いの欠点を補うパターンになっていると思う。

例えば、サインバルタの嘔気などの作用がジプレキサの過食を抑え、一方、サインバルタの時に奇異的と思われる興奮状態をジプレキサが抑制するからである。(他にもある)。

その点ではドパミン増加の視点で、ジプレキサとジェイゾロフトの併用より、ジプレキサとサインバルタの併用の方が非定型うつには期待できる。

ある時、あらゆる抗うつ剤でうまくいかない女性患者さんがいた。ある時期、全く動けない状態になり、歯磨きさえできないという。彼女の場合、万策尽きており、思いつくような気の効いた方法が全くと言って良いほどなかった。

そこで、思い切って、セロクエル600mg、ジプレキサ10mg、サインバルタ60mgを最初から使ってみたのである。

普通、それぞれ、セエロクエルとジプレキサは最初から使うことがあるが、たぶんサインバルタを60mgから始めることは滅多にないと思う。まして、彼女は統合失調症ではなく、単に非定型うつ病なのである。

彼女はジプレキサは過食・肥満が生じうることを知っているため嫌がったが、今はそれしかうまくいきそうにないと伝え、その量で試みた。

すると、彼女によれば、服用した翌日には少し動けるようになったと言う。なんと5日目にはデパートに買い物に行けるほどに急回復したのである。

当初は嘘のように副作用がなかった。しかし、すっかり回復すると食欲が出すぎるという。そのため、10日ほどでサインバルタとジプレキサのみ中止している。彼女の場合、サインバルタの単剤処方は何度も失敗しているので、長く続けて一層よくなるようには思えない。(何度も痛い目にあっているので・・)

サインバルタとジプレキサはカンフル剤だったな・・

まさかここまでうまくいくとは思わなかった。彼女はアナフラニール点滴もブプロピオンも使えないのである。

なお、彼女にセロクエルが使ってある理由だが、彼女は元々、セロクエルしかうつに効果がなく、600mg使ってなんとか仕事ができるような人なのである。また不思議なことに過食、体重増加などの副作用も出現しない。むしろ減量するほど。(彼女は750mg服薬しても全く平気である)また、少量では効果が出ない。不思議な人。

彼女はいったん浮上すると、しばらくの期間はセロクエルなどでなんとかやっていける。非定型のうつ状態はサッカーと同じく、1点取るまでが大変な疾患だと思う。

ここから、ブプロピオンについて話そうと思ったが、面倒になったので中止。

過去ログにたくさん書いてるしね。

(終わり)

参考
目の輝きはドパミンに関係が深い
精神疾患における非日常の考え方(12)
リフレックスはドパミンを増やすのか?
エビリファイはなぜうつに効くのか?(前半)
ブプロピオン