抗精神病薬の多剤併用のテクニック(前半)
一般に、精神科では単剤処方が推奨されているので、こういう記事を書く人はあまりいないと思う。過去ログでも特に統合失調症の人の治療で、多剤併用の考え方や、その意味を解説した記事がいくつもある。(参考1、参考2、参考3、参考4)
誤解してほしくないのは、ここで言う「多剤併用のテクニック」は患者さんの寛解の質を高めるとか、結果的に「コントミン換算値を低下させる」目的のものを言っていること。
なぜこのようなことを書くかと言うと、画一的な単剤推奨のため、精神科医が頭を使わず、結果的にリスパダール12㎎とか、ジプレキサ20㎎+リスパダール6㎎などの酷い処方が生じていると思うからである(後の処方は2剤だが、これはジプレキサ20㎎でうまくいかないため、このような事態になる)。
ある時、知り合いの薬剤師の人から、うちの病院は単剤率が60%以上だと言われた。
そういう言い方をする理由だが、現代社会の精神科病院で、いかに多剤併用が行なわれているかを示している。単剤率が高いことは精神病院の質が良いことの代名詞として使われているし、それは概ね間違ってはいない。
僕は質問した。
それでコントミン換算値はいくら?
その質問の答えはだいたい600㎎台だったので、これも良い値である。日本の平均コントミン換算値は800㎎程度と言われている。
うちの病院の平均コントミン換算値はたぶん500㎎を切っていると思う・・
だいたい、自分の感覚でそういう風に言ったのであるが、実際はどうなのかを調べてみることにした。
まず、平均を調べる患者さんは厳格に統合失調症の人を選択しなくてはならない。広汎性発達障害系の人は薬に弱く、このような人を加えていると、かなり少量の症例が混入し、平均を大幅に下げてしまうから。
果たして、うちの病院の僕の担当の入院患者さんのコントミン換算値の平均は、540㎎であった。これは数年前からすると少し下がっているが、この値は、正直、意外であった。もう少し低いと思っていたからである。
1人ずつ計算してみて思ったのは、やはり長く患っている人は相対的に高く、また入院したばかりの陽性症状の活発な人も高い。しかし少ない量の人も多いので、平均すればこの値になってしまう。この統計のメカニズムは平均在院日数に似ている。
この人たちは、長く入院しているからこそ、コントミン換算値が高いのである。外来の統合失調症の患者さんも含めたコントミン換算値はもう少し低いと思われたので、ある日、外来担当日の統合失調症の人のみの平均を調べた。外来の統合失調症の患者さんは、たまたま来院した僕以外の担当の患者さんも少しだけ含まれる。その日は統合失調症の人に限れば、21名が再診し平均のコントミン換算値は380㎎であった。(外来の統合失調症は人数的には少ない)
ということは、病院の外来・入院全ての統合失調症の患者さんの平均値は400㎎台になりそうである。ということは、あの予測で言ったことは概ね間違ってはいないことになる。
単剤率を調べてみると、僕の担当の入院患者さんは25%が単剤であった。21名再診した日の単剤率は40%で、これもちょっと意外であった。
日本の場合、特に統合失調症の入院患者さんだと、夜にベゲタミンBやレボトミンの少量を追加しているために単剤にならないケースが結構多い。ベゲタミンAやBはコントミンが少量含まれるからである。このような僅かに混入する抗精神病薬を除外した場合、単剤率はかなり高くなる。
そういう少量の眠剤的抗精神病薬を除いた場合、単剤率は入院患者さんで45%、外来で55%であった。これはまあまあの値だと思う。僕は非常に多剤併用が多い精神科医らしいが、酷く多剤併用しているほどではない。
一般に非定型、定型にかかわらず、多剤を併用を考慮する前に、気分安定化薬を試みるべきだと思う。このような処方は本当は多剤併用とは言わない。例えば、このような処方である。(参考)
エビリファイ 12㎎
デパケンR 400㎎
レキソタン 10㎎
ラミクタール 25㎎
僕は、メインの抗精神病薬があり、それに加えて眠剤にベゲタミンBやレボトミンを25㎎追加することはあまり多剤併用の意識はない。これは一般的にもそういう精神科医が多いと思われる。
(後半に続く)
参考
多剤併用についての話
単剤処方は美しいのか?
エビリファイとデパケンR。果たして1+1は2なのか?
剤型が大きくなることの意味
寛解のクオリティについて
誤解してほしくないのは、ここで言う「多剤併用のテクニック」は患者さんの寛解の質を高めるとか、結果的に「コントミン換算値を低下させる」目的のものを言っていること。
なぜこのようなことを書くかと言うと、画一的な単剤推奨のため、精神科医が頭を使わず、結果的にリスパダール12㎎とか、ジプレキサ20㎎+リスパダール6㎎などの酷い処方が生じていると思うからである(後の処方は2剤だが、これはジプレキサ20㎎でうまくいかないため、このような事態になる)。
ある時、知り合いの薬剤師の人から、うちの病院は単剤率が60%以上だと言われた。
そういう言い方をする理由だが、現代社会の精神科病院で、いかに多剤併用が行なわれているかを示している。単剤率が高いことは精神病院の質が良いことの代名詞として使われているし、それは概ね間違ってはいない。
僕は質問した。
それでコントミン換算値はいくら?
その質問の答えはだいたい600㎎台だったので、これも良い値である。日本の平均コントミン換算値は800㎎程度と言われている。
うちの病院の平均コントミン換算値はたぶん500㎎を切っていると思う・・
だいたい、自分の感覚でそういう風に言ったのであるが、実際はどうなのかを調べてみることにした。
まず、平均を調べる患者さんは厳格に統合失調症の人を選択しなくてはならない。広汎性発達障害系の人は薬に弱く、このような人を加えていると、かなり少量の症例が混入し、平均を大幅に下げてしまうから。
果たして、うちの病院の僕の担当の入院患者さんのコントミン換算値の平均は、540㎎であった。これは数年前からすると少し下がっているが、この値は、正直、意外であった。もう少し低いと思っていたからである。
1人ずつ計算してみて思ったのは、やはり長く患っている人は相対的に高く、また入院したばかりの陽性症状の活発な人も高い。しかし少ない量の人も多いので、平均すればこの値になってしまう。この統計のメカニズムは平均在院日数に似ている。
この人たちは、長く入院しているからこそ、コントミン換算値が高いのである。外来の統合失調症の患者さんも含めたコントミン換算値はもう少し低いと思われたので、ある日、外来担当日の統合失調症の人のみの平均を調べた。外来の統合失調症の患者さんは、たまたま来院した僕以外の担当の患者さんも少しだけ含まれる。その日は統合失調症の人に限れば、21名が再診し平均のコントミン換算値は380㎎であった。(外来の統合失調症は人数的には少ない)
ということは、病院の外来・入院全ての統合失調症の患者さんの平均値は400㎎台になりそうである。ということは、あの予測で言ったことは概ね間違ってはいないことになる。
単剤率を調べてみると、僕の担当の入院患者さんは25%が単剤であった。21名再診した日の単剤率は40%で、これもちょっと意外であった。
日本の場合、特に統合失調症の入院患者さんだと、夜にベゲタミンBやレボトミンの少量を追加しているために単剤にならないケースが結構多い。ベゲタミンAやBはコントミンが少量含まれるからである。このような僅かに混入する抗精神病薬を除外した場合、単剤率はかなり高くなる。
そういう少量の眠剤的抗精神病薬を除いた場合、単剤率は入院患者さんで45%、外来で55%であった。これはまあまあの値だと思う。僕は非常に多剤併用が多い精神科医らしいが、酷く多剤併用しているほどではない。
一般に非定型、定型にかかわらず、多剤を併用を考慮する前に、気分安定化薬を試みるべきだと思う。このような処方は本当は多剤併用とは言わない。例えば、このような処方である。(参考)
エビリファイ 12㎎
デパケンR 400㎎
レキソタン 10㎎
ラミクタール 25㎎
僕は、メインの抗精神病薬があり、それに加えて眠剤にベゲタミンBやレボトミンを25㎎追加することはあまり多剤併用の意識はない。これは一般的にもそういう精神科医が多いと思われる。
(後半に続く)
参考
多剤併用についての話
単剤処方は美しいのか?
エビリファイとデパケンR。果たして1+1は2なのか?
剤型が大きくなることの意味
寛解のクオリティについて