星新一と習字 | kyupinの日記 気が向けば更新

星新一と習字

これもずっと以前の記憶なのだが、星新一は大学生時代に不安感に襲われ、緑色の奇妙な夢を見るようになったという。理性では雑念のような無意味なものとわかっているのだが振り切れない。おまけに昼間は周囲におかしい感じが伝わらないように注意するので一層苦しんだという。

あまりに酷いため、精神科を訪れた。

ところが、その時の主治医は習字をするように勧めて、それ以外、これといったアドバイスをしなかったらしい。これには全く拍子抜けしたと言う。その後、実際に習字道具を揃えて習字を始めてみた。

彼が言うには、確かに習字をすると精神統一できるというか、雑念が弱まる効果があったという。その後、そのような不安感は良くなったので、たぶんノイローゼ症状に効いたのだろうと。

だいたいそんな風に書かれていたような気がする。彼はその後、睡眠薬を常用していたらしいので、重い内因性疾患ではなかろうが、神経症圏の不眠症くらいはあったのかもしれない。洞察できていると言う点ではいかなる疾患であろうが、軽いといえた。

またああいう仕事(エッセイスト)だからこそ重くならなかった面もあると思われる。(参考

僕が高校時代、芸術系の科目は選択科目とされていて、音楽、美術、習字のうちどれかを選ぶことになっていた。僕は美術は締め切りがあるのが嫌いだし、音楽というのもなんだかな~と思ったので、最も得意な習字を選択した。

今は見る影はないが、小学校時代は習字を出せば最低でも入選は堅かった。母親系の血筋のせいで達筆だったのである(過去形)。

なぜかその後、突然、字が下手になった。それも精神科医になった年の夏頃に急激に落ちたような気がする。まさしく不連続に下手な子になったのである。

最も気にするのは生命保険の診断書を書くとき。

いつだったか、先輩精神科医の提出した診断書の字が読めず、わざわざ生命保険の会社の人が、いったい何と書かれているのか尋ねて来られたことがあった。その時、別の先輩ドクターと話したのであるが、こういうことは、呆れ果てるというか、どう見ても恥ずかしいことではないかと。

それからあのような不祥事にはならないように、気合を入れて読める程度には書くようにしている。

まさに小学校頃の入選は堅いというのが泣いている。

参考
星 新一