星 新一 | kyupinの日記 気が向けば更新

星 新一

子供の頃、星新一のエッセーを読んでいたとき、睡眠薬を服用して眠る話が出てきた。うろ覚えなのだが、寝る前に睡眠薬を服薬してだんだん眠くなってきて、ああこれで眠れる、などと思っているうちに眠りに落ちてしまうという。彼は睡眠薬なしでは絶対眠れないらしい。

この話はまだ小学生の僕にとって、特別にインパクトのある話だった。それには理由がある。当時の母親の話で、職場の上司が睡眠薬を常用していて、机の上に伏せて寝てしまったところ、卓上の蛍光灯が倒れ掛かってきて顔に大やけどをしたのだという。今から考えると、当時の睡眠薬はむしろ麻酔薬に近いものであったし、こういう事故も起こることもあったのだろう。現在のベンゾジアゼピンなら、普通はやけどになる前に目が覚める。ただ、大酒を飲んで眠ったり大量服薬のケースではその限りではない。

そういう話から、漠然と睡眠薬は怖い薬だという感覚があったのである。睡眠薬に先入観があったので、この星新一の話はあまりにも新鮮というか、それまでの考え方を吹き飛ばすようなものだった。星新一は睡眠薬を常用しているのに、あのように面白い話も書けているではないか。睡眠薬という特殊な薬が、そうでもない薬に少しだけ近づいた瞬間であった。当時、睡眠薬なる薬を身近な人で服用している人が全然いなかったのもある。

僕は高校2年時体調を崩して入院したのだが、入院当初は全然眠れなかった。きつくて眠れないというのがあるが、そういうのでもなかった。毎日横になっている時間が多いので運動不足や、あるいは多少は昼寝をするので睡眠のバランスが崩れているのもあったのだろう。

主治医の先生に、全然眠れませんと言うと、セルシンの2mg錠を処方してくれた。ただ、このセルシンの印象があまりないんだな。星新一が書いているような「ああこれで眠れる」というようなクライマックスに近づくような臨場感がまるでなかった。セルシンで不眠が解消したかというと、そうでもなかった。だいたい夜になるとクーラーが止まってしまい、病院の中はずいぶん暑くなるのである。暑さと不眠で夜は悶々としていた。

そのうち、ただ眠る少年になった。1日、14時間ぐらい眠っていたような気がする。院長回診の時、「君は、本当によく眠るね」と言われたほどだ。

僕は、現在は常用している薬はない。ずっと以前だが、少し尿酸が上昇していたので、ユリノーム半錠を1年以上服用していた。服用の理由は少々尿酸値が上がっていても通風にならなければ自覚症状はないのだろうが、高尿酸血症を放置すれば動脈硬化が早まり、通常の人より早く体にガタが来る。これは放置できないと思ったことがある。

ところが、ある時この薬物には重大な欠陥があることに気がついた。ある日、決定的な事件が起こった。なんと風邪を引いたのである。それまで8年間も風邪を引いていなかったのに。

腎臓では糸球体で濾過された尿酸が近位尿細管で100%再吸収され、ついでその半分が分泌され、さらに遠位尿細管で4割がたが再吸収されて、結局1割弱が尿中に排泄される。ユリノームはこの遠位尿細管での尿酸の再吸収を抑制して血中の尿酸値を下げる機序なのである。ユリノームにより風邪を引いたということは、2つのことが考えられる。1つは、尿酸以外に何か免疫的に重要な物質も再吸収を阻害して、尿中に垂れ流している可能性があること。あと、もうひとつが単に薬物により免疫機能が下がっていること、くらいである。

そこでユリノームをやめ体重を減量することにした。1日摂取カロリーを1400~1500カロリーとしたのである。僕は頭脳労働者なので、あまりカロリー摂取の必要がない。個人的には1300カロリーくらいでも十分だと思っている。今は1500カロリーということはないが、たぶん1700カロリー程度だろう。4kg程度減量したら、尿酸値が下がり正常上限から少し高い程度に落ち着いてきた。今はユリノームは必要ない。僕の今の血液検査値は推定無罪になっている。

ところが、いったん風邪を引き始めると、ユリノームをやめても毎年風邪を引くようになった。このユリノームは僕にとって謎過ぎる事件であった。

僕は眠剤系の薬物は、レンドルミン、ハルシオン、リスミー、デパス、レキソタン、ドグマチール、トリプタノール、ルジオミールは飲んだことがある。僕の感想だけど、トリプタノールを飲むとかえって不眠になる。あと、デパスを飲んだときの翌日の不快なこと。とてつもなく気分が悪い。まったく仕事にならない。ハルシオンを飲むと翌日にうっかりのミスが増えてダメ。それに翌日の夜に激しく反跳不眠が出る。まさに泥沼になるのである。レキソタンも同じ感じ。1日ぽや~んとしている。忘れ物が多い。でもレキソタンは不快感は出現しなかった。レンドルミンもデパスとほぼ同じような不快さが出る。でも不快さはレンドルミンの方が上回る。だってよく考えると、この2つは同じ系統だし。

ルジオミールを飲んだ時は大変なことになった。なんと1日半、トイレに行くにも夢うつつで眠り少年みたいになったのである。眠り姫なら詩的で良いけど、眠り少年なんてカワイクない。ドグマチールは少し眠いくらいだが、集中力低下があって良くない。上の薬で、唯一たいして問題にならないのはリスミーだけであった。リスミーだと、デパスとかレンドルミンのような不快感が出ない。しかしちょっとしたミスが増える。

結局、医療に携わる以上、重大な見落としはできないので、僕は眠剤は飲まない方が良いという結論に至った。常用するには眠剤に弱すぎなのである。

あと番外で、フルメジン1mg錠を1度だけ飲んだことがある。これも大変なことになった。なぜフルメジンなのかというと、フルメジンは安全だと中井久夫先生か誰かの論文に書いてあったからだ。(レキソタンのエントリを参照)フルメジンを服用してしばらくすると、息苦しくてたまらないような状態になった。抗精神病薬の比較的稀な副作用で、「息苦しい」というのがある。たまに患者さんから聞くが、あれだと思った。

このときの僕の感覚だけど、呼吸の際に横隔膜が下がる一方、肋間筋などは弛緩せねば肺が膨らまない。この連動がうまくいっていないと感じた。呼吸の際に緩まなくてはならない筋肉がなぜか緩まない感じなのだ。呼吸に関連する筋肉の収縮・弛緩のコンビネーションが故障しているとしか思えなかった。

僕は努力して呼吸していたが、これで死ぬとは思わなかったけど、ひょっとしたら翌日まで続くんじゃないだろうな?と、ぞっとした。

翌日には治っていたけどね。(笑)

参考
メラトニン