精神疾患と服薬 | kyupinの日記 気が向けば更新

精神疾患と服薬

ひとこと言っておきたいが、精神科といえども、薬がゼロにならないと治癒とは言わない。もう治癒と言ってよいほど良くなっていても、服薬しているなら、それは広く寛解に含めるのである。

僕は基本的には寛解を目標にしているが、条件が良いケースや可能と思える時は「治癒」を目指す。もちろんそこまでは思っていなかったが、突然、「治癒」が目の前に開けていくこともある。

「治癒」が実現した時、患者さん本人の生物学的特性や、家庭の状況などに恵まれていることが多い。だからこそ「運が良かった」と思ってしまう。(参考

この「服薬すること」だが、年齢が上がってくると次第にその重大さが薄れてくる。これこそ、若い人があまりわかっていないことだと思う。若い時には「薬を飲むかどうか」にこだわるのは理解できる。しかし、徐々に年齢が上がってくれば、それほど意味がないものになると言うことだ。

人間はだんだん年齢が上がってくると、一生治らない病気に罹患してしまう。(一生治らないと言って疾患を挙げてしまうと「それは治る」と言われてしまいそうだが) 

一般的に根本的治癒が難しい疾患は、成人病ではたくさんある。例えば高脂血症などは、大幅に体重を減らし食事療法を徹底するとか思い切った方法がないと治癒は難しい。例えばリピトールなどを服用し始めると、生涯飲まないといけない感じにはなる。糖尿病、痛風、高血圧の薬もそうだ。

精神科以外の疾患で、一生服薬しないといけない人たちは人知れずいるのである。

もし一生飲むとするなら、成人病の薬に比べジェイゾロフトの方が明らかに体に負担がないし、むしろ健康によい。これはジェイゾロフトに限らず、他のSSRIや眠剤についても概ね同じようなものだと僕は思う。

抗うつ剤系の薬物は服薬するかどうかで、人間の寿命は期待値的には爆発的に延びることは間違いない。もちろん抗うつ剤治療により、変な副作用が出たために自殺するケースもあるかもしれない。しかし、間違いなく治療を受けなかったために自殺する人の方が多いのである。

うつ状態が遷延すると、別に自殺しなくても早死にしやすい。それはうつ状態からくる免疫の低下による癌など具体的な疾患もあるが、うつ状態になると自然にいろいろな病気で死ぬ確率が高まることもある。人間は気力が萎えると病気になるのである。

北朝鮮に行った日本人妻たちはみんな長くは生きなかったらしい。希望がない世の中では自然にうつ状態になり、死んでいくことが想像できる。

あと、人間はできることならあまり食べない方が良い。すごく長生きして、病気もなく溌剌としている人たちは、たいてい暴飲、暴食をしていないどころか、摂取カロリーが少ないことが多い。僕は健康のため数年間、1日1300~1500カロリーで生活していたが、高尿酸血症が解消し次第に体調が良くなった。今は1700~1900カロリーは摂っていると思う。あまり食べない習慣をつけると胃が小さくなるのか、小食でも普通に生きられる。今でも僕は1日2食である。こういう習慣をつけると、アルコールも弱くなるし、油ものにも弱くなる。僕は以前ほど肉がたくさん食べられない。

また、パキシルだけはそれほどではないが、SSRIを飲むと次第に食欲が減少し体重はそこまで増えなくなる。これは間接的に健康に貢献している。メタボリックシンドロームになりにくいだけでも。また、SSRI系薬物は肝障害も非常に少ない。診察している立場から言えば、80歳代でトリプタノールやアンプリットくらいを飲んでいて、しかも介護保険も「非該当」という健康な人たちはけっこう診るのである。

高血圧や高脂血症の薬は一生飲んでもかまわないが、向精神薬はダメ、といった考え方は間違っている。

参考
統合失調症と痛みの感覚
精神科の患者さんと癌検診
トリプタノール30mgのおばあちゃん

注意
このエントリは「ジェイゾロフトは一生飲まなければならない」と言う意味ではありません。ジェイゾロフトは向精神薬の中ではまだ中止しやすい方だと思う。