慢性疼痛と手術 | kyupinの日記 気が向けば更新

慢性疼痛と手術

特にうつ病圏の人たちは迷った時は手術をしないほうが良い。というのは、痛みと言うのはあんがい実体がないから。それはまぼろしのようなものだ。

抗うつ剤や、抗てんかん薬(この場合は気分安定化薬)の治療中、精神症状の改善に平行して、慢性疼痛がかなり良くなることはしばしば経験する。抗うつ剤が最も効果的だが、テグレトールなどの抗てんかん薬も定番的な薬物である。この2種類以外でも、非定型抗精神病薬もかなり効果があることがある。(特にジプレキサ、ルーランなど)

定型薬ではクレミンが傑出している。実際はクロフェクトンも効果的なのだろうが、偶然か、僕はクレミンで長年の疼痛が消えたというのが多い。

これは薬理的に効くというのとはちょっと違うような気がしている。別に薬を飲まなくても、1回のECT実施後に痛みが突然消失することも良くみられるからだ。つまり痛みは体のその場所で感じるわけではなく脳で感じていることに他ならない。抗うつ剤が痛みに効くというより、「うつ状態が軽快したこと」が痛みにより関係しているように見える。

特にうつ病圏でも神経症性のうつ状態の人の場合、しなくて良かった手術のため、更に別の慢性疼痛を抱え込んだりする。先日出てきた、28日目にゾロフトで突然良くなった女性だけど、5年ぶりくらいに再会した時、車椅子だったのでびっくりした。飛び降り自殺でもしたのかと思った。実は、無駄な手術(僕にいわせれば)をしてその後の痛みがひどく残り、その方が楽だから車椅子(院内で)だったようなのである。今は痛みが軽減しているので車椅子を使っていない。

彼女のようにうつ病圏でも内因性から離れていくと、すなわち人格障害的なものが色濃くなるので、ポリサージェリー(手術マニアというか満身創痍の人)とかミュンヒハウゼン症候群に陥る危険性がある。

僕がまだ30歳にもならなかった頃、僕の妹がアメリカに数年住んでいたことがあった。ある日、妹が電話をしてきて、バセドー病になったので帰国して手術をしたいというのである。僕は言った。

「手術をすべきではない。できるだけ薬で治療するように」

僕は、手術には強く反対したのである。本人は手術をしたかったようで、反対されたので電話のむこうで泣いていた。バセドー病をアメリカで治療する場合、日本のような保険診療でないため医療費が高価で、何か他のことをしている場合、通院も面倒なのである。彼女は、単に、安上がりにしかも完全に治そうとしたに過ぎない。

僕はバセドー病の専門ではないが、バセドー病と甲状腺機能低下症はともに精神症状が出現しうるため、精神科とは関係が深い。外科医はバセドーの手術をする場合、甲状腺を切除し残して不十分な結果になるのを恐れるのか、必ずと言ってよいほど大きく切り過ぎる。たぶん、余分に残して再手術になるのは恥くらいに思っているのだろう。

その結果は、甲状腺を切り過ぎた「甲状腺機能低下症」である。外科医は、たぶん切りすぎた場合は甲状腺剤を投与しておけば良しくらいに思っているのだろう。一生ね。

だいたい、甲状腺機能が亢進している状況で、甲状腺をどのくらい残せば良いかわかりにくいのではないかと、素人ながら推測する。甲状腺を切りすぎて、後天的に甲状腺機能低下症になり、しかもうつ状態にもなっているという人たちはすごくたくさんいる。甲状腺ホルモンが下がるとうつ状態になるのである。

僕の妹だが、バセドー病はその後、薬を飲んでいただけで完治し、今は薬も飲んでいない。きっとあの時だけ、異常に腫れていたか、何かわからない理由で変調をきたしていたのだと思っている。

僕は、ある疾患を「完全に治そうと思うその強迫性」が敗因になっているように思う。それはバセドー病だけでなく、腰痛であれ、精神疾患であれ。

その気持はすごくわかるけどね。

参考
Xファイル
ジェイゾロフト