ジプレキサの体重増加 | kyupinの日記 気が向けば更新

ジプレキサの体重増加

ジプレキサの体重増加には用量依存性がないらしい。だから1mg服用しようが20mg服用しようが、同じくらい体重が増える(はずだ)。これについて、イーライ・リリーは少なくともそうアナウンスしている。彼らにとってはその方が営業上都合が良いので、詳しく調査する意味がないくらいに思っているのではなかろうか? 僕は1mg服用するのと20mg服用するのでは、おそらく体重増加を来たすにしても、その程度が違っているような気がしている。これは感覚的なことなのだけど。うちの病院ではジプレキサ1mg処方の人が多いこともある。

ジプレキサが最初に発売された時、糖尿病の人にも処方でき、制限が今よりも緩かった。実際、臨床で処方され始めてから糖尿病の悪化や、そのために死亡するような症例が出てきたので、急遽、糖尿病禁忌になった。これは耐糖能に関して、あるいはインスリンの分泌能に関して、日本人が西欧人より脆弱なことと無関係ではない。これも、野茂英雄のエントリで書いた数千年の歴史と関係があると思っている。

うちの病院ではジプレキサに関しては5mg単剤投与の患者さんがもっとも多いのであるが、彼らは平均すればむしろ体重が減少している。もちろん努めて散歩したりと減量の意識が強いのでそれもうまくいっている。僕は統合失調症の患者さんはジプレキサが合い、しかも適切な量が投与されているなら、わりあい体重増加が目立たないと感じる。もちろん体重増加を認め、なおかつ精神症状も改善している人もいるのであるが。

問題は、統合失調症でない人へのジプレキサの投与である。ジプレキサは、うつ状態などの人たちに使うと、少し元気が出て意欲が増し、以前より改善しているように見えることがある。しかし、ジプレキサはある程度効いてはいるのだが、何か余計なことをする(ことが多い)。

最も目立つのは、「体重増加」や「過食」である。

特に女性では、本来なかった「過食」が出るのは不吉すぎる。

このようにジプレキサを処方されるような女性患者は、何かしら、これを処方した方が良いかな~と思える症状があるものだ。しかし、このような副作用が生じるとジプレキサを中止せざるを得ない(当たり前だ)。このような、女性で過食を生じるような患者さんでは、ジプレキサをかなり少量にしぼって投与していてもなお「過食」が出る人が多いように感じる。1mgや2mgでも。ある女性は、0.4mgでも過食が生じていた。こういう人ではジプレキサを中止すると、ほぼ過食が消失するので、薬剤性であることがわかる。

ある若い女性患者さんは、バラバラに通院していたため、僕は2回に1度くらいしか診ることがなかった。僕が診たり他の人が診たりしているのである。このような場合、この業界では初診を診ている人に優先権があり、たまたま診た人は処方を相当に変え辛い。次にいつ診るのかわからないから。変えることができるのは、明らかに副作用が出ている場合と、用量が適切でない場合くらいである。この人の場合、アトランダムに来院していて、僕は初診こそ診ていなかったが、診察することがわりあい多かった。

この患者さんの場合、いつのまにかジプレキサが投与され、いつのまにか病状が良くなっていた。その人は確かにジプレキサは精神症状に良い影響をもたらしていた。診断はうつ病の範疇であり統合失調症ではなかった。カルテを見るとなぜジプレキサが投与されたのかいまいち不明であり、あえて言えば周囲の視線が気になるとか、職場でプレッシャーがかかるようなことで処方されたのかもしれない。少なくとも、最初、SSRIは合わなかったようなのである。

本人が少量でも過食が出て体重が増えていると言うので、ジプレキサは中止することにした。代わりの薬はルーランを選んだ。ジプレキサのリリーフで、それも過食、体重増加を避けるならルーランは悪くない。女性ならなおさら(月経の影響がないため)。

そのまま放置していて、今持っているスカートやパンツがすべて履けなくなるのは非常にまずい。というか、かわいそうだ。

この患者さんは統合失調症でもなんでもないので、そこまで頑張って服用する価値がないこともある。ところが、ほんの1~2mgしか服用していないのに、中止したら調子を落としてしまったのである。ルーランはどうしてもジプレキサのようには改善してくれなかった。もともとルーランで治療する必要性が全くない。行きがかり上、ジプレキサからルーランになったわけで、何かしら抗精神病薬を服用する意義が見当たらないからだ。結局アンプリット50mgと眠剤のみ処方し、オーソドックスにうつ病の治療をすることにした。もともと、今この人が初診したなら、SSRIかこのくらいの処方をするだろうと思ったことがある。

アンプリットは良かったのである。精神的に鬱陶しい感じが払拭されて元気さを取り戻したのであった。しかもアンプリットは実感できる副作用もほとんどなかった。過食ももちろんなかったのである。(今までにエントリで出てきた人とは違う人。初出)

一時、薬物治療の「迷宮」に入り込んでいたということだろう。

今日の教訓
精神科では、主治医を決めて首尾一貫した治療を受けるようにしましょう。

参考
抗精神病薬と体重増加
ジプレキサ
ルーランの謎(後半)
セロクエルの体重増加
セロクエル(その4)
1人目女性患者さんについて
野茂英雄
パキシルとアンプリット
ルジオミール、アモキサン、アンプリット