気分はケロケロ。 | 境界線型録

境界線型録

I Have A Pen. A Pen, A Pen Pen Pen.


 一人の聖人がこの世からほぼ完全に消えた。この十日間は、実のところ、ただの物体に過ぎなかったのかも知れない。しかし、それは私にとってかけがえのない物体だった。
 それが、燃え尽き、本物の物体となった。
 物体を巡る鬱陶しい情念が渾沌として私を取り巻いていた。
 が、それらも、すべて消えた。
 物体は真の物体と成り、情念はただ朦朧とした霞となった。
 私の体から水源が枯渇してすでに四十五年以上も経っていると思っていたが、まだ枯れきっていなかったらしい。ずっと渇いた砂漠の砂が風に泳ぐが如く流れてきたはずなのに、不覚にも一粒の雫が地の底から湧きだした。
 物体は物体。
 しかし、物体には、魂を籠めることができる。
 物体に魂を籠めてきた人間たちがいる。
 今日、私は物体に魂を籠めようとし続け、確かに籠めた。
 籠め得たとき、地の底から雫が湧き出だしたのだった。
 それは私の永遠だと思った。もっとも私の永遠は、私の消えるときに永遠であることを止める。けれど、私にとっての永遠には違いない。
 私は感傷に言葉を動かされはしないし、情念に揺さぶられることもない。
 私の言葉は冷たい。一月の山奥の谷底に張る氷よりも冷たい。冷たい氷だけが真実を映しだせることを知っているから。
 冷たい氷は、アイロニカルな苦笑を生む。それが透明の真実。

 もう、ケロケロしたいと思ってキーボードを叩き始めた。が、まだ清算できていなかった。とはいえ、過去は過去。過ぎ去ったことは材料としての価値しかない。
 世の常そのまま不条理に取り巻かれた葬儀だったが、この世ではこの上ないと思えるほどの弔辞をいただいた。人間は心の生きものなのだと、また実感を深めた。死して尚、清水のような教えをもたらす人間を父とした幸運にただ感謝する。

 すでに思いはスイッチして、気分はケロケロだが、雫の一粒だけは記録しておこうかと。
 雫に響く音がある。
 人間の本質は何処にある。人間の本質は何処にある。人間の本質は何処にある。
 その音を、聞き続けたい。
 もっとも硬い文面は好かないから、自分の中で仕事が流れだしたら、いつものケロケロに帰るはずだが、かなり停滞させてしまったので、いま少しチョロチョロ流れのケロケロだと思うけど、本質的にケロなので、あと数日かな。もう少しだけ腹立たしいソリューションが残っているし。
 なんにせよ、いまに作りだしてきた人間の現実は、はなはだ馬鹿げていることだけは間違いないことを再確認する年明けだったから、今年もいよいよ濃厚にケロケロしたい。なんとなく、亡父の許諾も得た気がするから。
 眠いので、今夜はこれにてケロケロ。